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俺の家は高校からチャリ20分程度…というのは朝練でかっ飛ばした時の話で、普通に漕いでたら30分程度だ。
放課後家に帰ると時刻は4時頃で、帰ったらすぐに風呂に入った。
「ん?変な時間にお風呂入ってるわね〜あんた。」
さっきまで留守だった母親が、冷蔵庫に買ったばかりの食材をしまいながら風呂上がりの俺を変な目で見てくる。
「友達の家で泊まりで勉強することになった。」
「えぇ?勉強?ほんとに?とか言ってゲームしちゃうんじゃないの?」
「大丈夫だと思う、自分の部屋にいるよりは。」
「それもそうか。」
俺の言葉にあっさり納得した母親の了承も得ることができた俺は、Tシャツにスウェットというラフすぎる格好に勉強道具を詰めた鞄を持って再び家を出る。
半乾きな髪に風が当たってスースーする。
途中の道で合流したタカが何か食い物を買って行きたいと言い出したから、近くのコンビニに立ち寄ってから、俺たちは二度目の真桜の家にお邪魔した。
「お、前より部屋綺麗になってる。」
脱ぎ散らかした服もなく、漫画もきちっと本棚に並べられている。広々とした部屋を見渡しながら口を開くと真桜は、「今ちょっと片付けた。」と言って照れ臭そうにぽりぽりと頬を掻いた。
「なぁ、寝る時はどうすんのー?」
「あー?雑魚寝でいいだろ。それか真桜のベッド交代で寝る。」
「うわ、テキトだな〜。」
「俺がいつも泊まる時は布団借りてるけど。」
「借りてんのかよ!」
鞄を置いて、机の前に座ったタカと健弘がそんな会話をしている中、不意に真桜の手がフッと俺の髪に触れた。
「…ん?」
「…あ、髪。…なんかいつもと違う?」
「あー、…風呂入ってきたから?」
「ちょっとふわふわしてる。」
……それは半乾きで風に当たったからか?
触れるか触れないかくらいの優しい手つきで真桜が急に俺の髪を触るから、変にドキッとしてしまった。
そんなやり取りをしていた俺と真桜を、黙って横目で見ていたタカと健弘の視線に気付いた。
おい、なんなんだよその目は!
無言で横目で見られていたということに何故だか何とも言えない恥ずかしさを感じて、俺はその場を取り繕うように鞄の中から勉強道具を取り出す。
俺がこんな妙な気分にさせられるのは、他でもない真桜の言動の所為なのに、真桜は変なこの場の空気にも気付かずに俺の髪を見ながらにこにこ笑っていた。
「英語と数学ある程度やったし、次生物やろうかな。」
「生物は今回簡単そうじゃね?現代社会の方が範囲広くてやばそう。」
「は?簡単か?」
「タケが頭良いだけだろ。」
「だよなぁ。」
派手なTシャツにハーフパンツ、真桜よりもっと明るめの茶髪に、耳にはピアス。どう見ても遊びまくってそうなのに、まじで発言が賢いやつ。
タカの発言に同意して、「健弘の見た目騙しがえぐすぎる。」と口にすると、健弘はウインクしながらカッコつけるように「俺らの学校、賢い奴ほどファッション気にしてますから。」と言いながら前髪を上に掻き上げた。
「うわ、うぜー。」
「それ毎日汚い練習着着てる俺らに喧嘩売ってるから。」
笑い混じりに俺とタカが健弘に反撃すると、暫く静かに会話を聞いていた真桜がクスリと笑って、「柚瑠は運動部だから。」ってちょっと擁護してくれているような言葉を挟んだ。
「うん、そうそう、運動部だしな。体育の成績は絶対5取るし。」
「でも柚瑠今の格好もすげー緩いけどな。」
「うるせえよ!部屋着だよ!!健弘が派手すぎんだよ!!!」
今更だがタカは私服のチノパンを穿いていることに気付き、ゆるゆるのグレーのスウェットを穿いていた俺は健弘に服装をめちゃくちゃイジられてしまった。
「うん、タケが派手すぎ。柚瑠はそれでいいよ。」
「いや、真桜は柚瑠の味方しすぎ〜。」
再び俺を擁護してくれた真桜に憎たらしい態度で健弘が言い返すと、何も言わずに俺たちからそっぽ向く真桜。
真桜が俺に何かしら好意を抱いてくれていることに気付いている俺は、こういう空気の中どういう反応を取ったら良いのか分からない。
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