14 ☆ [ 15/90 ]




玄関まで柚瑠とタカを見送って部屋に戻ってきた真桜は、何も言わずにドサッとベッドの上に倒れ込んだ。


チクタクと一定のリズムを刻む掛け時計の音と、カリカリとシャーペンで俺が文字を書く音だけが聞こえる空間で、真桜は「はぁ。」と小さく息を吐く。


「どしたん?眠い?」

「…んーん。」

「緊張した?」

「…うん。」


あれ?そこ普通に頷くんだ?

ちょっと鎌をかけたつもりがあっさり頷かれてしまって拍子抜けする。もっと動揺するか狼狽えるかすると思ったんだけど。

問いかけの意味があまり通じてなかったか?

“柚瑠と勉強することになって”緊張したか?みたいなことを聞いたつもりなんだけど。


真桜が普通に頷いた後、俺は『どうしようかな。』と口を閉じて考えた。


どう見ても真桜が、柚瑠のことを意識している。

恋なのか?柚瑠のことが好きなのか?

ストレートに聞きたいけど、聞いたところで正直に答えるだろうか。柚瑠への態度がおかしいのは明らかで、見ててバレバレなのに隠されたら嫌だな。とか考えたら聞くに聞けねえ。


考えながらも俺は数学の問題を解く手を動かしていると、枕に突っ伏していた真桜の顔がもぞっと動いたのが視界に入ってきた。


「………どこまで気付いてる?」


問題を解く手を止めて顔を上げれば、ベッドに腰掛け、気怠げな顔をして俺を見下ろしていた真桜。柚瑠の横ではあんなに顔を赤くして狼狽えていたのに、柚瑠が帰ったらもういつも通りの態度に戻っている。

しかし自分から口を開いたということは、真桜が俺に隠す気は無いと見た。


「ん?…あ、答え合わせする?」

「…タケあのバスケ部の奴と仲良かったっけ。」

「あー、そこから聞く?てかまず俺から聞いていい?」

「…………なに?」


俺の目を見て話していた真桜の目がふいと逸らされた。さては“何か”を聞かれることに対してビビってるな。


「水曜日の朝いつも何してる?」

「………あ〜。」


俺の問いかけに、真桜は唸り声を出しながらまたベッドの上に倒れ込み、枕に突っ伏した。あ、耳が赤くなっている。これは知られるのが恥ずかしいんだな。

“朝早くから男バスの朝練こっそり見に行ってる”なんて。特に親しい俺には知られたくなかったかも。この話題ははぐらかしてやろう。


こんな真桜を見るのは初めてで、『真桜にも春が来たんだな。』と思い、俺はこっそりと笑う。


「ごめん、実はちょっと気になってバスケ部と仲良くした。」

「…じゃあ今日一緒に勉強することになったのって意図的だよな。」

「あー、まあそう言われたら否定できねえな。ごめん。嫌だった?」


真桜の気持ちを踏み躙るようなことをしてしまい、怒られるか?と思いながら真桜の赤くなった耳に目を向けながら返事を待っていると、少しだけ顔を上げた真桜の片目が俺を見ながら、ふるふると小さく首を振った。


「…七宮と話せたの、嬉しいし。」

「柚瑠のこと好きなんだな。」

「…………そうみたい。」


少し掠れた小さな声だったが、真桜がしっかり俺の目を見て肯定した。


「…でも別に、七宮と付き合いたいとか、そういうのねえから。…できればそっとしといて。」

「…あー、うん。…了解。」


つまり余計なことはすんな、ってことね。

協力とかも100%求めてねえんだろうな。

今日のとかも、話せたのは嬉しかったんだろうけど、めちゃくちゃ真桜のこと困らせてしまったな。

って、自分の軽い行動にちょい反省。


「…でも今日は、サンキュー…。」


余計なことしたと思ったのに、でも真桜がちょっと嬉しそうに目尻を下げてお礼を言ってきたから、どっちなんだよ。って俺はクスリと笑ってしまった。


『付き合いたいとか、そういうのねえ』って真桜は言ってるけど、俺はできればもっと、真桜と柚瑠との距離を近付けてやりてえなって、お節介にも思ってしまったのだった。


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