13 [ 14/90 ]

「なー!真桜彼女いねえよなー。」

「え、…うん。」


再び俺の隣に腰を下ろした高野。健弘の問いかけに戸惑うように頷きながら、コップに4人分のお茶を注いでくれた。


「サンキュー。」


俺の目の前にコップを置いてくれた高野に礼を言って、ありがたくお茶をいただく。冷たくて美味しい麦茶のおかげで、乾いていた喉が潤った。


そもそもの目的である勉強を始めようと授業で配られたプリントを机に広げている俺の目の前では、健弘が床に手をついた寛いだ恰好でまったく勉強を始める気配が無いまま、何故かジーとまっすぐ俺のことを見つめてきた。

その視線はスッと高野の方へ移動し、高野を見たまま健弘が徐に口を開く。


「真桜気になる子とかもいねえの?」


バサバサバサ………

筆箱からシャーペンを取り出そうとしてた高野は、健弘の問いかけに持っていたシャーペン、筆箱を手から滑らせ、筆箱の中身を胡座をかいだ足の上にばら撒いた。

耳を赤くして、足の上の筆記用具をアタフタしながら拾う高野。俺の方にまで転がってきていた消しゴムを手渡すと、高野は無言で小さく頭を下げる。


その耳はやはり赤く、チラッと見えた頬もうっすらと色付いている。


『気になる子とかもいねえの?』


その問いかけだけで何故ここまで慌てる?焦る?顔を赤くする?その反応だけで、まるで“いる”と答えているようなものだ。


まったく関わりがない時なんかは、イケメンでモテていてチャラくて、でも孤高な感じだったイメージが、ガラガラと剥がれて行く感じ。

耳と頬を赤くして、どんな顔をしてるんだ?と下を向いて筆箱の中身を片付けている高野の顔をさりげなく覗き込んでみると、驚かせてしまったようで、勢いよくサッと顔を離された。

頭を振って、目元に前髪が被さって、ササッと手櫛で前髪を撫でて、顔を隠すように俯く。


こんな高野の一連の動作を、タカと健弘が黙って観察するように眺める。



気まずい。この話題は、危険だ。

高野のこの挙動の原因は………、


「……じゃー、…勉強するか。」


やや沈黙していた空気の中、場を取り繕うように口を開いたのは健弘で、その声を聞きタカも机の上にノートを開けた。


「俺数学と英語どっちもやばいんだよなー。どっち優先にしよう?」

「数学優先じゃね?英語はなんとかなるだろ。」

「じゃあそうしよ。」


タカと健弘はさっそく二人で勉強の会話をし始め、真面目に勉強に取り組む雰囲気にホッとしながら俺もまだ覚えられていない英単語を覚えようとシャーペンを握る。


ちょっと隣に座った高野の存在が気になったけど、高野は静かに授業ノートを読んでいたから、できるだけ気にしないようにした。



それから1、2時間とあっという間に過ぎていき、バスケ部員たちと勉強するよりも随分真面目に勉強できた気がする。

当初チャラチャラかと思っていた健弘が勉強を始めれば本当に賢そうにタカに数学を教えていて少し驚いた。


そろそろ夕飯時で腹が減ってきた頃、タカの集中力も切れたようで、「そろそろ帰るか。」と俺たちは帰る準備を始める。


「俺もうちょっとやってっていい?」


高野にそう話しかけている健弘は、遊んでいるイメージがあったのに実は勤勉でまじ見直した。



「じゃあ高野また明日ー。お邪魔しましたー。」

「高野、家上がらせてもらってありがとな。

また明日。」


チャリに跨がりながら家の外まで見送りに来てくれた高野に軽く手を振りお礼を言うと、口元を少し綻ばせた高野が同じように軽く手を振りかえしてくれた。



笑ったところはあまり見たことがなく、珍しいその表情に、俺はほんの少しだけ見惚れた。

[*prev] [next#]


- ナノ -