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なんとなく、七宮に勘付かれている気がしてしまった。そもそも俺の行動が分かりやすすぎるのかもしれない。


バスケ部が水曜日はグラウンドで朝練しているというのを知ったのはクラスメイトと七宮の会話を盗み聞きして知ったことで、家から高校が近い俺は、ほんの少しだけ早起きをしてバスケ部の朝練風景を見に行ってしまった。

1階はバレてしまいそうだから、2階の教室からこっそり見ているつもりだった。


ランニングしているリズムに合わせて揺れる髪、背筋をピンと伸ばして走っている姿、たまに部員と仲良さげに会話をしては浮かぶ笑顔。


ジッと七宮だけを目で追って、すぐに過ぎる1時間。


本人にバレたら気持ち悪がられるだろうな、とは思ったけど、まさか俺が七宮を見ているなんて本人は思いもしないだろうという余裕が少しあった。


でもその本人から不審そうに視線を向けられれば、さすがに自分の行動がまずかったと自覚せざるを得ない。


もう朝練見に行くのはやめよう…と心に誓う。

こっそり七宮を見るのもやめよう。

気持ち悪がられるのだけは避けたい。

せめて、運が良ければ会話ができるくらいの一クラスメイトのポジションでありたい。



俺がそう決意するにはもってこいの時期で、まもなくテスト週間に突入した。


期末テストが終わるまで部活停止となり、いつも練習着を着ていたバスケ部たちは珍しく制服のようなシャツとスラックスを穿いて登校している。


例に漏れず、七宮もそんな珍しい格好をして登校してきたから、見るのはやめようと思ってたのにまた目で追ってしまった。


「七宮が制服なの珍しい〜。」

「練習すんなって言われるからテスト週間は部員全員強要されてんだよ。」

「普段からそっちの方がいい!」

「暑苦しいから絶対嫌。」


隣の席の女子によく話しかけられている。

あんな風にたわいない会話を普通にできるのが羨ましい。



テスト週間の授業はぼぼ自習となり、いつも居眠りしがちな七宮は一生懸命勉強している。

ちょっと猫背で、額にシャーペンを突き刺しながら考えるのは癖なのだろうか。


「なんだ高野よそ見して。テスト余裕か?」

「…あ、…ぜんぜん。」


やべえ、全然勉強してなかった。

静かだった教室の中で先生に声をかけられ、慌ててシャーペンを握り直す。

自業自得ではあるけど、先生に目を付けられてしまったことにより、クラスメイトからの視線を集めてしまった。その中でひしひしと感じる、勉強する手を止めてこっちを見る、七宮からの視線。


俺はそっちを見ないようにして、必死でテスト勉強に集中した。


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