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まさかの自分が見られていたという自意識過剰すぎる可能性を考え出したら、それからというもの高野のことが気になって仕方がない。
イケメンで、モテモテで、いつも女子に話しかけられている高野が、男の俺を見に学校に来ている可能性なんてあると思うか?
いや、よくよく考えてみたらそれは無い。
仮にそれがあったとしたら、高野が俺のことを好き、なんてさらなる自意識過剰な、あり得なさすぎることまで考えてしまう。
いつもは2時間目の終了後は我慢して早弁しないようにしてるけど、なんか今日は全然頭が働かなくて、腹が減ってしょうがなくて、2時間目終了後にパカっと弁当の蓋を開けてしまった。
「うわ、もう食ってる。」
「バスケ部早弁しすぎ。隣のクラスの奴も食ってたぞ。」
「お前らよく我慢できるよな。」
「俺朝練ねえもん。」
野球部とバレー部のクラスメイトに突っ込まれながら、二段弁当のおかずと白ご飯をそれぞれ半分ずつ食べた。
残りの休み時間数分、机に突っ伏し目を閉じる。
「ねー、真桜くんどこ見てるのー?」
明らかに高野相手に媚を売っている女子の甲高い声が聞こえる。結局のところあの女子も高野の彼女では無いのか。
どこまで信じるかは俺次第だけど、わざわざ高野が俺相手に彼女はいないなんて嘘をつく理由もないから本当なんだろうな。
「ねー、真桜くん今日どぉしたの?何か悩み事?」
ん?高野に悩み事?
なになに?それはちょい気になるな。
と、閉じていた目を開けて顔の側面を机に付けながら横を見ると、高野がガッツリ俺の方を見ていた。
目が合って、その直後に逸らされるのはこれで何度目なんだ?
これじゃあもうまじで好きな人をチラ見してる奴みたいだ。
俺の頭にある自意識過剰な可能性が高野を見る度により増していってしまう。
謎すぎる。なんで俺?何故俺を見る?
額を机につけたままズズズと頭を引くと、自分の足元が目に付いた。運動靴についていた土が床に落ちて土まみれになっている。それから土で汚れたジャージ。汗臭そうなシャツ。
ガンガン、と床に足を叩きつけるとまたパラパラと土が床に落ちた。汚ね。
「ちょっとー。七宮みたいな奴が靴についた土外で落としてきてくれないからいっつも掃除大変なんだけど?」
「ごめん。」
自分が汚い男子の象徴であることを確認するかのように自分の下半身を見ていたら、ますます高野のことが分からなくなった。
あいつの周りは、いつも良い匂いがしそうな女子がいて、あいつ自身も良い匂いがしてきそうなくらい綺麗な身なりだ。
……あ。それとも、あいつきったねーし臭そうだな。とか思われてるとか?
額を机につけたまま、クンクンと自分の首元のシャツを引っ張って臭いを嗅いだ。
「今度はなに?臭い気になるの?スプレー使う?」
「俺って臭い?」
「たまに臭いときはあるんじゃない?」
「…うわ、あるんだ…。」
隣の席の女子に言われたことに、俺は暫しダメージを受けた。まあ、自分汗臭いだろうなとは思ってたけど。
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