邪魔しに来た奴ら(future) [ 8/87 ]
※ future(大学生になりたて)
「よぉ〜がんばってるねぇ航くん。」
「航おっつー。」
ふぅ。と、大量の食材を買ってくれたお客さんのレジ打ちを終え、一息ついていると、よく知る友人がお菓子とジュースを持って現れた。
「いらっしゃいまーせー。」
愛想の無い挨拶をしながら、クソカベが持ってきたお菓子をピッピとレジに通し始めると「この店員さん愛想わる〜い」とニタニタ笑いながら文句を言い始めやがったから、「チッ。」と舌打ちをした。
真面目にレジ打ちしているところに茶々を入れに来られると困るのだ。だってまだまだ慣れないレジ打ちに苦戦しているところだから。
「矢田くんは家?」
「うん、多分。」
「航が居ない家に一人寂しく?」
「そりゃ俺が居ない時だってあるに決まってんだろ。はい、3点364円。」
クソカベが持つお菓子とジュースを全てレジに通し終えたところで、合計金額を告げると、クソカベはズボンのポケットを漁り始める。
クソカベの分を会計していたところで、横からモリゾーが口を挟んできた。
「じゃあ今からお前ん家行っていい?」
「は?なんで?」
「矢田くんが一人で航の帰りを待ってるのは寂しいだろうから。と言いつつ遊びに行きたいだけだけど。」
「まあ別に行けば?俺あと3時間は帰れねーし。」
と言いながら、クソカベのお会計を済ませて次にモリゾーが持ってきたお菓子とジュースのレジ打ちを始める。
「うわー、案外真面目にバイト頑張ってたんだな。」
「うん真面目に頑張ってるからお前ら早く帰って」
モリゾーの後ろにはお客さんが並び始めてしまったから、俺はモリゾーのお会計を済ませてシッシとモリゾーとクソカベを追い払った。
「じゃあまたあとでなー」とお菓子とジュースを買っていったモリゾーとクソカベ。
あとでって。俺あと3時間は帰れねーっつってんだろうが。3時間後っつったらもう夜だぞ、あいつらいつまで居座る気だよ。
と考えながらも、その後俺は黙々とレジ打ちを頑張った。
*
『ピーンポーン』
航と矢田くんの愛の巣への道のりはすっかり把握した。
モリゾーと俺は、航のバイト先から徒歩で2人が住むマンションに向かい、インターホンを鳴らす。
「つーか矢田くんいんのかな?」
「さあ?航いるって言ってなかった?」
インターホンを押した後、モリゾーとそんな会話をして待っていると、ガチャ、と扉が開かれる。
中からスゥェットパンツとTシャツ姿、それから眼鏡をかけた予想外なだらしのない格好をした矢田くんが現れたから、俺とモリゾーは一瞬ボケッとした顔でその矢田くんを眺めた。
「は?なにおまえら。」
「あ、ちーっす矢田くん。」
「遊びに来たよーん。」
「はぁ?帰れよ今おまえらに構ってる暇ねぇから。」
矢田くんは不機嫌そうに吐き捨てて、シッシと俺たちを追い払った。
俺らに構ってる暇ねぇって、そんな姿で言われても。
「えー、でも航にちゃんと許可貰ったんだけど。」
「うんうん。せっせと働いてた航くんが遊びに行って良いっつってたぞ?」
せっかく来たのだから帰る気なんてさらさらない俺たちは、そこで影響力のある航の名を出す。
すると矢田くんは、諦めたようにガリガリと頭を掻いて、「チッ」と舌打ちしながら俺とモリゾーを部屋に通した。
部屋に入ってまず視界に入ったのが、1台のノートパソコンだ。
テーブルの上に置かれており、そこで俺とモリゾーは矢田くんがパソコンを使っていたことに気付く。
「ったく途中で手止めさせやがって。」
と不機嫌そうにしている矢田くんがパソコンの前に座ると、カタカタと文字を打ち始めた。
「なにやってんの?」
「レポートだよレポート。おまえらちょっと今話しかけんな!」
なるほど。どおりでずぼらなファッションしてるわりに構ってる暇ないとか言われるわけだ。
カタカタカタカタ、矢田くんは凄まじいスピードでキーボードを叩いている。
「なんかエリートオーラ漂ってるな。」
「うん。服装めっちゃずぼらだけどな。」
「まあそれでも俺らよりはイケてるぜ。」
「悲しいこと言うなよ。」
「所詮この世は顔なんだよ。」
「お前らうるせえな!駄べりたいならファミレスでも行ってこいよ!!!」
「「すみませんでした。」」
俺らは完璧に、来るタイミングを間違えたようだ。
暫く大人しくしてさっき買ったお菓子を食っていた俺とモリゾーは、「んーっ」と伸びをした矢田くんの様子を伺い、「終った?」と問いかける。
すると、カチャ、と眼鏡を外した矢田くんが「うん。」と頷きながら目を擦った。
「つーかお前らいてあんまり集中できねーからまたあとでやる。」
「そ、そうですか。」
「いやぁどうもすみません。」
矢田くんの機嫌をこれ以上損ねさせないように気を使って話していると、矢田くんは立ち上がりパソコンを片付け、冷蔵庫の中を覗いた。
「…腹減ったなぁ。」
そしてボソッと呟いた矢田くん。
飯を作るのか、冷蔵庫の中を漁り始める。
「お!矢田くんなんか作んの!?」
「矢田くんなんか俺らにも作って!」
矢田くんの機嫌を損ねさせないように、とは思っていたものの、ついついモリゾーと一緒になっていつも通りのテンションで話しかけてしまうと、矢田くんは呆れた目を俺たちに向けてきた。
「ったく!厚かましい奴らだな!」
はい。返す言葉もございません!
なんだかんだ文句を言いつつも、料理を始める矢田くんは、俺らの分の焼き飯を作ってくれた。
しっかり航の分もお皿に入れてラップをかける矢田くん。旦那の帰りを待つ主婦か。
「うんま〜、矢田くんの焼き飯めちゃうまい。」
「はいはいそうかよ。それ食ったらとっとと帰れよ。」
「え〜、冷たいこと言うなよ〜。」
「なにしに来たんだよお前ら!」
「矢田くんに絡みに来たに決まってんだろ〜?」
「お前ら他に絡む相手いねえのかよ!」
「うん。いない。」
きっぱり申すと、矢田くんは「はぁ。」とため息を吐いた。
大学に入学して何人かと知り合ったものの、ノリ合うやつがあまりいないのだ。
こう、なんていうか、大学デビューしたくて必死にかっこつけて髪とか染めてるやつとかな。
身近にこんなかっこつけてないのにイケメンがいるから、すっかり俺の目も肥えてしまったようで、大学デビューのかっこつけとはどうも仲良くなれんのだ。
おまけに同じ学部の女の子とかはその大学デビューのかっこつけとどんどん仲良くなっているから、俺たちは少々おもしろくない。
いや、俺にはりなちゃんがいるから全然問題ねえけどな!俺はりなちゃん一筋だからな!
…そろそろ2人でデートしてくんねぇかなぁ…。
何回も誘ってんだけどもう何回スルーされたかなぁ。
ここはお兄さまからひとつお願いをしてほしいところ。
結局その後、なんだかんだ言って俺らと駄弁りながら飯を食って、俺らが買ってきたお菓子とかを食べる矢田くんと一緒に、航が帰ってくるのを待った。
こんなにイケメンな友人が俺たちと仲良くなることは、後にも先にももうないだろうな、と、俺は矢田くんのずぼらな姿を眺めながら、思っていた。
「るい〜ただいま〜。」
「「「航おかえり〜」」」
「…は?お前らまじで来てたんだ。」
邪魔しに来た奴ら おわり
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