友岡家、矢田家のお正月 [ 7/87 ]


友岡家のお正月


1月1日、新年の朝から張り切った様子で父ちゃんと出かけていった母ちゃんは、数時間後に両手いっぱいに福袋をぶら下げて帰ってきた。


「わあ。ゆりさんたくさん買いましたねぇ。」


のんびり俺の隣でコーヒーを飲みながら過ごしていたるいが、立ち上がり母ちゃんの元へ駆け寄り話しかける。


「うん!航とるいきゅんもいるからメンズもんの福袋いっぱい買ってしもたわー!」


母ちゃんは楽しそうな表情で福袋を床に置きながら、るいにそう返し、福袋を1つ手に取る。


「うわ、るい覚悟した方が良い。この流れは父ちゃんが似合わなかった服全部俺らに回ってくる流れだぞ。」


昔から毎年父ちゃんの服はほとんど福袋で済まされている。けれど、福袋の中身全部を着るのは難しい。
何故なら父ちゃんにも好みというものがあるからだ。まあでも父ちゃんが着れない服はだいたい兄ちゃんに回ってたから、無駄にすることはなかったが。


福袋の中身を開けて、中から一つ一つ取り出している母ちゃんが、「うわ!これるいきゅんに似合いそう!」「あっ!これも!」「やばいこれるいきゅん着たら絶対かっこいい!」といちいち興奮しながらその服にコメントをしている。

そんな母ちゃんに我慢できなかった様子の父ちゃんが、ぶーぶー文句を言い始めた。
父ちゃんの気持ちはよく分かる。


「ちょっとちょっとゆりちゃぁん?誰のための福袋だよー。」

「え〜?だって見てみぃ?こんなスタジャンお父さん着れる?」

「んー…それは無理だな。」

「せやろ?ちょっとるいきゅんこれ着てみて〜!」


キャッキャとはしゃぎながら福袋に入っていたスタジャンをるいに差し出した母ちゃんから、るいは受け取り袖に腕を通した。


「キャァァ!!!るいきゅんめっちゃかっこいい!!!」


もちのろん騒ぎ始める母ちゃんに、るいきゅんは照れ笑い。可愛い。
さすがるい。すげえ似合ってる。


「ん〜…?なんか騒がしいなぁ。」

「あ、兄ちゃん起きてきた。もう昼だぞ、あけおめ。」

「あけおめぇ。…って母ちゃんなにやってんの?」


朝方まで外出していたらしい兄ちゃんは、家に帰ってくるなり昼まで爆睡。母ちゃんの騒がしさで起きたようだが、スタジャンを着ているるいと母ちゃんを交互に見ながら、兄ちゃんは眉を顰めた。


「福袋の中身開けてんねん。お父さんが着れへん服るいきゅんに着てもらってんねん。」

「えぇ!?それなら俺が着るじゃん!!!言ってよ母ちゃん!!!」

「こんなスタジャン、るいきゅんみたいなイケメンしか似合わへん。」

「俺だって似合うしぃ!」

「あかんあかん、あんたが着たらただのかっこつけみたいに見えるしあかん。」

「母ちゃんひどい!」


母ちゃんの兄ちゃんへの扱いのひどさは今年も健在である。が、めげない兄ちゃんはるいに向かって手を出し、「俺も着てみる。」と言い始めた。


「あ、はいどうぞ。」とスタジャンを脱いだるいが兄ちゃんに手渡すと、兄ちゃんはスタジャンの袖を腕に通す。


「母ちゃんどう?」

「…んー。るいきゅんの見た後じゃなぁ…微妙。」


母ちゃんは冗談抜きで兄ちゃんのスタジャン姿にダメ出ししていた。

るいも父ちゃんも、それから俺も、兄ちゃんに憐れみの目を向けたのだった。ドンマイ、兄ちゃん。


それから母ちゃんによる福袋の中身お披露目会は暫く続いた。るいはずっと笑顔で母ちゃんに付き合ってあげていた。無理すんなよ。


友岡家のお正月 おわり



矢田家のお正月


りなにとってお正月の楽しみの一つは年賀状を見ることだ。

毎年お正月にポストを開けて一番に年賀状の束を手にするのはりなで、送られてくる年賀状をじっくり見ながらお父さん宛、お母さん宛、りな宛、そしてお兄ちゃん宛、と年賀状を分けてゆくのだ。


「うわー…、今年もお兄ちゃん宛の年賀状減らないなぁ。」


小学校の頃からよく年賀状をもらっていたお兄ちゃんは、中学、高校と大きくになっていくにつれ、年々枚数は減ってはいくものの、完全には無くならない。


プリクラが貼ってある年賀状がほとんどだけど、お兄ちゃんは「誰だこれ」とか言って毎年戸惑っている。


さあ、そんなモテモテなお兄ちゃん宛の年賀状はさておき、りなは目を疑う年賀状を見てしまった。


【 透さん、また食事に誘ってくださいね! 】


こっ!これは…!!!


「お母さんお母さん!!!お父さん宛にこんな年賀状来てるんだけど!!!」


りなは慌ててお母さんに報告した。

名前や字を見た感じ女性からのようで、りなはお父さんの浮気を疑ったのだ。


「えぇ?なになに?透さんまた食事に誘ってくださいぃ〜?」


お母さんはその文章を口に出して読み上げた。すると、「ん?」とお父さんがお母さんの声に気付いて振り向いてくる。


「透さんまた食事に誘ってください、ですって。」

「ゲッ、誰から?俺またもクソも食事に誘ったことなんかねえんだけど。」

「え〜?お父さん浮気してるんじゃないの〜?」


りなは冷めた目をお父さんに向けながら問いかけた。

すると、「あ、お父さんを信用してないやつにはお年玉はやらん。」と言ってお父さんはそっぽ向いてしまった。

だからりなは、マッハでお父さんの元へ向かって「嘘だよ!お父さんがキモいくらいお母さん一筋なの知ってるよ!」と言うと、お父さんは「キモいは余計だ。」と言ってお年玉をくれた。


お母さんはそれ以上、その年賀状の内容には触れなかったから、お父さんのことはちゃんと信用しているようだ。


りなはそんなことよりお年玉を貰えたことを小躍りしながら喜んだ。


するとここで、まるでお金につられるようにりとがリビングに顔を出した。


「あ、りとあけおめー。年賀状3枚だけ来てたよ。」


はい、とりとに年賀状を差し出すが、それよりもりとはりなの手にある1万円札に目がいった。


ハッ!とした表情を浮かべたりとが、素早くお父さんの目の前に跪く。


「父さんあけおめ!俺にもちょうだい!」

「こらりと!お母さんには一言もないの?」

「そうだぞ、りと!まずはお母さんに挨拶するのが矢田家のルールだぞ!」

「は?初耳なんだけど。」


りとやお父さんがそんなやりとりをしていた丁度その時、お母さんのスマホの着信音が部屋に鳴り響いた。


「あ!るいから電話!」


それは、航くんの家に行ってて今は家に居ないお兄ちゃんからの着信だったようだ。


「もしもしるい?あけましておめでとう!」


お母さんはにこにこ嬉しそうにお兄ちゃんと通話している。

そんな光景を見ながらお父さんは、「さすが、お兄ちゃんは分かってるな。」と満足気な様子に比べ、むすっと不機嫌顔のりと。


しかしお父さんはそんなりとに気付き、やれやれ、というようにお年玉を差し出した。


「ちゃんとお母さんの手伝いするんだぞ。」


そのお父さんの言葉に、りとは「まあ、気が向いたら。」と返事をしながらお父さんからお年玉を受け取り、小躍りしていた。


「お母さん見て、りとが踊ってる。キッショ。」


矢田家のお正月 おわり


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