帰ってきた僕の同室者(next→) [ 4/87 ]
僕の同室者は、あの友岡 航だ。
あの、と言うのにはいろいろな理由がある。
一に、元々はかなりの問題児で有名だったこと。
二に、人気者で有名な生徒会長に目をつけられたこと。
三に、人気者な僕らの同級生、矢田くんと付き合ったということ。
僕らの間では3番目の出来事はそれはもう衝撃的だった。
クラスも違ったし、同室者と言ってもあまり仲良くしてたことも無かった友岡くんだが、共同で使用するものはちゃんと譲り合って使っていた。
僕は友岡くんが苦手だったけど、嫌いではなかったから、問題児だと言われる友岡くんだが、彼が同室者ということに不満は無かった。
けれど、彼の周囲の人間はとても苦手で、僕は彼が友人を連れてくる時がほんとうに嫌だった。
何と言っても友岡くんの友人は、やんちゃな人間の集まりだ。悪ノリが好きで、ちょっと怖い。彼が友人を部屋に連れてきてきた時は、自室に籠もって大人しく勉強してたっけ。
しかし友岡くんは、矢田くんと付き合ってから友達を部屋に呼ぶことが少なくなっていった。…いや、そもそも彼自身が部屋に居ることが無くなった。
噂では矢田くんの部屋で過ごしていると聞く。
噂はほんとうだろう。だって、事実、友岡くんは部屋に戻ってきていないから。
同室者が部屋に帰らなくなったらちょっと寂しいけど、快適。
こうして、友岡くんの部屋は空き部屋のようになった。
徐々に僕は、友岡くんが同室者だということを忘れそうになっていた。
けれど、僕が彼と同室者だったということを忘れた頃に、友岡くんが帰ってきた。
「あ、久しぶりー。」
へらりと僕に笑みを向ける友岡くん。ちょっと前より落ち着いたように思える雰囲気は気のせいかな。
「ひ、久しぶり…」
僕は、ぎこちなくも返事を返した。
「ちょっとるいと喧嘩しちゃったから自室にこもりまーす。」
「そ、そうなんだ…」
………矢田くんと、喧嘩…?
理由はなんなんだろう…。学校や食堂ですっごく仲良さそうな2人をよく見かけるけど、喧嘩するんだ…
って思ったけど、友岡くんは3日も経てばすぐにまた部屋には帰ってこなくなった。
…あ、仲直りしたんだ。良かったね。
また、僕の隣の部屋は空き部屋になった。
そしてまた、忘れた頃に彼は帰ってきた。
「あ、久しぶりー。」
「ひ…、久しぶり…」
また喧嘩…?手にはスクールバックや手提げバッグ、部屋着が持たれている。
僕はまた友岡くんと矢田くんが喧嘩したんだって決めつけていると、彼はため息混じりに口を開いた。
「暗記系の勉強はるいがいると気が散ってできないので少々自室にこもりまーす。」
…あ、喧嘩じゃないのか。
それにしても…
勉強するために部屋に帰ってきたって。
友岡くんすごく変わった。彼は、こんなに真面目に勉強する人じゃ無かったのに。
すごいなぁ、人って簡単に変われるね。
その後、言葉通り自室に籠もった友岡くんだが、部屋の中からは物音一つ聞こえず、とても静かだった。
きっと、真面目に勉強をしているのだ。
*
友岡くんが部屋に帰ってきて3日が経った。
実は3連休の最終日だった今日まで、友岡くんは部屋にこもって大人しくしている。真面目に勉強をしているのだろう。偉い。僕も見習わなきゃ。
しかしその日の夜、コンコンと部屋の扉がノックされた。誰かと思い扉を開けると、そこには矢田くんが立っていた。
「あ…航いる?入ってもいいか?」
「…あ、どうぞどうぞ…。」
う、うわぁ…イケメン。やば。
僕は矢田くんを部屋の中へ招くと、矢田くんは「お邪魔します。」と靴を脱いだ。
そして、友岡くんの部屋の閉まっている扉前に立った矢田くんが、そろりとドアノブに手を触れ、そっと扉を開ける。
チラリと僕も矢田くんの後ろから部屋の中を窺うと、静かに勉強している友岡くんの姿があった。
偉いな…変わったなぁ、友岡くん。…とそう僕が少し感動していたその直後…
「航くんっ俺もう我慢できない!」
僕の感動はすぐに飛んでいき、僕は驚きで目を見開いた。
何故なら、バンッ!と勢いよく扉を開けた矢田くんが、切羽詰まったように友岡くんの背中に抱きついたからだ。
両腕を友岡くんの首に絡め、友岡くんの頬に口を寄せ、猫なで声で話している…
あれは一体誰だっけ…?
僕は驚きで開いた口が塞がらなかった。
「うわ、来ると思った。」
「航くん早く帰ってきて。」
「今すんげー集中してたんだけど。」
「そんなの早く覚えろよ。」
「あってめー俺に喧嘩売ってやがるな?あと一週間自室にこもってやる。」
「うそうそ。今のは冗談だから。」
チュッチュと友岡くんの頬にキスをする矢田くん。
………え、矢田くん?
矢田くんってあんな人だっけ…
変わったなぁ…
人って簡単に変わるんだなぁ…
僕はしみじみとそう思った。
背後から回していた腕を解き、友岡くんの肩に手を置いた矢田くんは、覗き込むように友岡くんの唇にキスをする。
「んっ」
勉強机の上に腰掛けるように身体を預けた矢田くんが、さらに深く、友岡くんの唇に口付けながら、首に腕を回した。
僕は唖然としながらそんな光景を眺めていた。
「ン、ぁッ」
友岡くんの口の中に、舌を忍ばせる矢田くんに、友岡くんは小さく、色っぽい声を漏らす。
僕はまだ唖然としながら、そんな光景を眺めていた。
「…うわ、やっば…勃った。」
え?なんて?
ぼそりと呟くように言った矢田くんの言葉に、僕はそこでハッと我に返った。
やばい、ここからは多分、見てはいけない光景だ。
「うわっまじかよ!おまえふざけんなよ!俺は今禁欲中なんだぞ!」
「とりあえずさ、えっちしよ。」
「とりあえずってなんだよ!」
「勉強そのあとやればいいじゃん。」
矢田くんはそう言いながら、友岡くんの手を引いてベッドへ向かい、友岡くんの身体を押し倒した。
…ああ…見ちゃダメ。
僕、見ちゃダメだってば。
チュッ、チュ、と友岡くんの首筋にキスを落としている矢田くん。
ベッドの上で仰向けになり、矢田くんに跨られている友岡くんは、そこで「あっ!」と開いている自室の扉を指差した。
「おまえドア閉めろよ!!!」
それから、バシンと矢田くんの頭を叩く友岡くん。
「いって」と自分の頭を撫でた矢田くんは、「ていうか、」と言って立ち上がり、友岡くんの部屋に散らばる私物をかき集め、友岡くんの手首を引っ張った。
「俺の部屋戻ろ。」
「ったく、お前さんってやつは。」
やれやれ、と首を振る友岡くんは、矢田くんに手を引かれながら、自室を出てきた。
「あ、じゃーまたなー」
僕と目が合って、友岡くんは僕にそう声をかけてくれると、それに続いて矢田くんがぺこりと会釈してくる。
その後2人は、部屋を出て行ったのだった。
………やば。ラブラブじゃないか。
僕は暫く、その場で呆然としていた。
矢田くんよ…
あなた絶対そんな人ではなかったはずだ。
帰ってきた僕の同室者 おわり
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