子供の名前、パパるいに嫉妬、りな誕生 [ 29/87 ]


子 供 の 名 前


とおる


矢田 透は、クラスメイトで自分の彼女である麻衣のノートに自分たちの名前を書き込んだ。


「ん?なぁに?」


その名前を不思議そうに眺める麻衣。
そこで透は、ぐるりと二人の名前の語尾を丸で囲んだ。


「俺らの子供ができたら名前は“るい”な。」


透くん、私たちまだ高校生だよ?
気が早いよ。と思いながらも、麻衣は無邪気に子供の名前を考えている透がなんだか愛おしくて、クスクスと柔らかな笑みを浮かべて笑った。


「わかった。“るい”ね。」


麻衣はその文字の上にぐるぐるとはなまるを書いた。


「男の子だったらるいくん、女の子でもるいちゃんでいけそうだね。」

「俺は麻衣ちゃん似の女の子が良い。」


だから透くん気が早いよ、って思いながら、麻衣はまたクスクスと笑う。


そんな、学生時代のままごとのような会話だったが、数年後には結婚し、透と麻衣との子が誕生した。

男の子。名前は“るい”。


「透くんに似てかっこよくなるわ」と言って麻衣が幸せそうに笑っているから、透自身も我が子を抱く妻の姿に、幸せを感じた。


「でも麻衣ちゃん、次は麻衣ちゃん似の女の子がほしいな。名前はもう決めてある。」


子供の名前 おわり





パパ、るいに嫉妬


コロン、と座布団の上に寝転がっている1歳のりと。そんなりとの側に、お兄ちゃんである2歳のるいが、よちよちと歩み寄ってきた。


「りぃくっ!」


そしてるいは、りとに呼びかけながらお気に入りのぬいぐるみをりとの側に置くと、りとは「あ〜ぅ〜!」と嬉しそうに声を上げて笑った。


『りとくん』『りと』と両親を真似するように弟の名を呼ぼうとする長男るいは、小さくてももうお兄ちゃんらしさが見えてきた。


両親を真似しながら成長していく我が子に、透は喜びや楽しみを感じていた今日この頃だったが、ある日のるいの発言により、透は「ん!?」と眉間に皺を寄せた。


「まぃちゃっ!」


なぜなら、るいが母親を『まいちゃん』と呼ぼうとしたからだ。それは、自分の妻を『まいちゃんまいちゃん』と呼ぶ父親を真似するように。


「まいちゃん!?こら、るい!まいちゃんじゃねえだろ、“お母さん”だろ!」

「ぅ〜あぁ〜っ!」


突然るいを叱った透に、るいは声を上げて泣き始めてしまった。すると、叱ったあとにオロオロする透。

そんな2人の様子に気付いた麻衣が、「こらっ!」と透を叱った。


「あなたの真似したのよ!いい子じゃない!」

「ごめんごめん、つい。あ〜すまんすまん、るいよしよし」


とるいをあやす透だが、今度は泣き声をあげるるいを真似するように、りとが泣き始めてしまった。


「あらあらお兄ちゃんの真似してるの?りとくんいい子ね〜!」


よしよし、と、麻衣はりとを抱き上げた。

りとが泣き始めた数分後、ひっくひっく、と鼻をすすって、るいはすぐに泣き止んだ。


「お、えらいぞ。るい泣き止んだか。」


大人しくなったるいの顔を覗き込み、透はるいに教え込むようにこう言った。


「いいか?この人は“お母さん”だ。」


この日を境に、透は麻衣のことを子供の前では『お母さん』と呼ぶようになりましたとさ。


「だってるいが大きくなって母親のこと“まいちゃん”とか言ってマザコンになられても困るからな。」


パパ、るいに嫉妬 おわり





り な 誕 生


3人目の子供は、透が待ちに待った女の子だった。名前はりな。


「か、かわいい…」


もちろん上の二人も可愛いのだが、女の子となるとそれはもう可愛くて可愛くて…「よちよち。」と透は暇さえあればりなのことを可愛がった。


どんどん成長する長男るいを追うように、次男のりとも成長し、二人は仲良く部屋で遊んでいる。


「や〜っ!」


しかし次男のりとは少々やんちゃのようで、おもちゃをよく部屋中に投げ散らかして、その度にるいがせっせとおもちゃを片付ける。


「りとはやんちゃだな。」


と、りなを抱っこしながら二人を観察する透に、麻衣は「透くん似じゃない?」と言って笑った。


それからりなも、二人の兄を追うように成長し、兄との遊びに加わる。


りなの誕生日に透が買ってきたぬいぐるみを、りなはすっかり気に入り、ぬいぐるみで遊ぶりなに、りとがよちよちと歩み寄った。


「り〜ちゃっ」


りとは『りなちゃんりなちゃん』とりなを呼ぶ透の真似をするようにりなを呼び、りなの頭やほっぺたに手を伸ばした。


りとは透の真似をするように、『よしよし』とりなを撫でたかったのだ。


しかし「ぁあぁ〜!」とりなは大声で泣き始めてしまったから、りとも驚いて泣き始めてしまった。


そんな泣きじゃくる二人の兄妹を見ても、長男のるいはもう泣かなかった。


りなにはぬいぐるみを持たせてよしよし、りとにはるいがお気に入りだった車のおもちゃを持たせてよしよし。


妹ができたことで、また少しお兄ちゃんらしさが増していったるいだった。


しかし次男りとは、妹が可愛いのかいつもりなに手を出す。そして、泣きじゃくるりな。


「ったくあいつはやんちゃだなぁ!」

「透くんに似たのよ。」


こうして、矢田家の賑やかな日常は続くのであった。


りな誕生 おわり


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