れいちゃんと矢田兄弟・るいはお兄ちゃん(幼少期) [ 11/87 ]
◇ れいちゃんと矢田兄弟
※ るい6歳・りと、れい5歳・りな4歳
今日はお母さんの妹が女の子を連れておれの家にやって来た。この女の子はおれの『いとこ』っていうらしい。名前はれいちゃん。ぺこっと頭を下げながら「こんにちは」って挨拶するお兄ちゃんのマネをして、おれもぺこっと頭を下げて挨拶したら、お母さんの妹に「二人とも良い子ね〜!」って褒められた。ちょっと嬉しかった。
妹のりなちゃんは挨拶もせず今日もお兄ちゃんに甘えて手を握りながらくっついている。そんなりなちゃんの方にチラッと目を向けているいとこのれいちゃん。ピンク色のヒラヒラした花柄ワンピースを着ていて、長い髪を二つに結んでいてかわいい。
ちょっとドキドキしながら目の前で揺れる二つ結びの髪に手を伸ばして握ったら、顰め面をしたれいちゃんに「やめて!」って手を叩かれた。れいちゃんのその声を聞いてすぐ、お兄ちゃんが「りとくんいじわるしちゃダメだよ」っておれの手首を掴んでくる。
……おれ、べつに嫌なことしようとしてれいちゃんの髪触ったんじゃないのに…。ほんとは『かわいいね』って言いたかっただけなのに…。
それでふてくされたおれは、部屋へ行き一人でブロックで遊んでいた。
そしたらお兄ちゃんがおれに「みんなで遊ぼうよ」って声をかけてくる。でもおれはそんな気分じゃなかったからお兄ちゃんの声を無視してブロックで遊び続けた。
おれは一言も『一緒に遊んでいいよ』って言ってないのに、お兄ちゃんの近くに座っていたれいちゃんが勝手におれが遊んでいたブロックに手を伸ばして触ってきた。
だからムカッとしてれいちゃんの手からそのブロックを取り上げたら、れいちゃんもムッとしながらおれを見てくる。
「あの子がまたれいにいじわるする!」
れいちゃんはお兄ちゃんにそう言いながら、おれのことを指差してきた。そしたらお兄ちゃんは困った顔をして「ごめんね」って謝りながら、「こっちのおもちゃで遊ぼうか」って言って、おれかられいちゃんを遠ざける。
りなちゃんの人形をれいちゃんに差し出すお兄ちゃんは、れいちゃんが人形に夢中になっている時、おれの方にやってきた。
「りとくん、なんでいじわるすんの。」
「あいつがおれのブロックに触ったから。」
「このブロックはみんなのだよ?」
「でも今はおれが使ってたもん!」
「でもいつもお母さんに仲良くみんなで遊びなさいって言われてるでしょ?」
「でも!あいつが先におれにいじわるしてきたもんっ!!」
おれは、れいちゃんに手を叩かれたのがショックだった。だからいじわるし返した。でもお兄ちゃんにおれの思いは通じなくて、「れいちゃんがりとくんに何したの?」って聞き返してくる。
「おれの手叩いた!!」
お兄ちゃんにそう言っていたら、目からじわっと涙が出てきそうになった。それを必死に我慢していたら、お兄ちゃんは困った顔をしておれの頭を撫でてくる。
おれは泣きそうになってしまった事に恥ずかしくなって、そのお兄ちゃんの手を払い除けてトイレに走った。
おれは悪くない、れいちゃんが悪いんだ。
だからおれは絶対謝らない。
でも、れいちゃんはずっとおれが悪いっていう目で見てくる。
お互いに絶対謝らないから、おれとれいちゃんは会うたびに喧嘩するようになった。
二つ結びの髪の毛が、かわいいと思ってたのに。
もうれいちゃんなんか大嫌いだ。
れいちゃんと矢田兄弟 おわり
◇ るいはお兄ちゃん
ぼくの弟、りとくんは、よく妹、りなちゃんの髪を引っ張って泣かせている。お母さんにいつも『ダメだよ』って言われて怒られてるのに、またお母さんが見てないところで髪を引っ張ってりなちゃんを泣かせている。
だからぼくもお母さんのマネをして「ダメだよ」って言ってみるけど、りとくんがりなちゃんの髪から手を離したと思ったら、「イーッ!」と歯を見せて走って逃げた。
その時のぼくは、りなちゃんが泣いていたからりとくんのことよりもりなちゃんを優先してぎゅっとりなちゃんを抱きしめながらよしよし撫でた。りなちゃんはすぐに泣き止んでくれたからホッとした。
しばらくしてからぼくはりとくんの様子が気になって探してみると、りとくんは部屋の隅っこで一人むすっとした顔をしながら積み木を積み上げて遊んでいる。
ぼくはその時のりとくんの顔がちょっとだけ泣きそうな顔にも見えたから、もう一回『ダメだよ』って言おうとしたけど言えなかった。
「りとくんりなちゃんのこときらい?」
りとくんがいじわるするのは、りなちゃんのことがきらいだから?って考えたぼくは、りとくんの隣に座ってそう聞いてみた。でもりとくんはずっと黙ったまま積み木を積み上げている。
「あのね、りとくん、お兄ちゃんはりなちゃんのことまもってあげなきゃいけないんだよ?」
ぼくは、お母さんがいつもぼくにいう『お兄ちゃん、かわいい弟と妹を守ってあげてね』っていう言葉を思い出して、りとくんにそう言ってみた。
するとりとくんは口をギュッと閉じ、さっきよりもっと泣き出しそうな顔をする。
「うあぁ〜ん!!!」
そしてその直後、りとくんは急に泣き出した。ぼくはちょっとびっくりしたけど、すぐに「どうしたの」って聞きながらりとくんをぎゅっと抱きしめて頭を撫でる。
「う、うっ…、うっ…」
りとくんはずっと泣いてるだけで、泣いた理由は教えてくれなかった。
かわいいかわいいぼくの弟。なんでりなちゃんにいじわるするのかな?
分からないけど、ぼくはお兄ちゃんだから、弟にも妹にも優しくしてあげなくちゃ。
お母さんと約束したもん。
ぼくはお兄ちゃんだから、弟と妹をちゃんと守るって。
そうしたらいつもお母さんがいっぱい褒めてくれるから、ぼくはいつもいつも“お兄ちゃん”をがんばっている。
よしよし、よしよし。りとくんが泣き止むまで頭を撫で続けていると、そのうちりとくんはぼくの肩に寄りかかって眠っていた。
りとくんなんで泣いちゃったんだろう。
ぼくにはりとくんの気持ちがまったく分からなかったけど、りとくんの寝顔を見たらちょっとだけホッとして、りとくんを起こさないようによしよし、よしよしと頭を撫で続けた。
お母さん、今日もぼく、ちゃんと“お兄ちゃん”がんばったよ。ぼくは“お兄ちゃん”だからね。これからもずっと、ふたりのことはぼくに任せてね。
るいはお兄ちゃん おわり
[*prev] [next#]