哀れ日下部・なっちくんの初彼女 [ 21/87 ]
「なっちくんって女子と付き合ったことあんの?」
「うん、何回か。」
日下部に問いかけられ頷くと、日下部は「うっそまじかよ…」と悔しそうな表情を浮かべた。
「あんまり続いたことはないけど。」
「…最長何ヶ月?」
「一週間。」
「一週間!?!?」
それを聞いた日下部は、それ付き合ったことになんのかよ!って悔しそうな表情を浮かべていたくせにすぐに表情を変え、爆笑しはじめた。
失礼なやつ。例え一週間だけでも、手繋いだりしたからあれは付き合ってたことになるはずだ。
「なんでそんなに短かいんだ?原因は?」
「部活の友達とばっかり遊んでるのが気に食わないんだって。」
「は?なにその理由。俺なら彼女にそんなこと絶対言わせない。」
「でも女の子と2人で遊ぶの恥ずかしかったしついつい男友達の方いっちゃうんだよ。」
「うわ〜、なっちくんお子ちゃま〜。」
日下部はそう言って、俺のことをバカにしてきた。
そんなこと言うなら日下部はどうなんだよ。って問いかけると、突如日下部は黙り込む。
「あれあれ?日下部どうしたの〜?」
俺はからかいながら日下部の顔を覗き込むと、日下部はフンと俺からそっぽ向いた。
「…俺の話はいいんだ。そっとしておいてくれ。」
なんだかちょっと、哀愁を感じる。
…うん。分かった。なにも聞かないでやるよ…。
優しい俺は、そっと静かに口を閉じる。
「…ところでなっちくんは自分から告って付き合ったのか?」
「んーん、告られたから付き合った。」
「…はぁ。」
自分から聞いてきたくせに、日下部は俺の返答を聞いたあと、大きなため息を吐いてきた。なんなんだよ。なんかむかつく。
「…そういや俺の中学でもサッカー部ってだけでイケメンでもないやつが可愛い彼女連れてたな…。俺もサッカー部に入っておけば良かったぜ…。」
「そんな理由でサッカー部入った奴一週間で辞めてたけどね。」
「………。」
日下部がサッカー部に対して失礼なことを言ってくるから言い返すと、また日下部は黙り込んだ。
なんかだんだん可哀想になってきた。
「でも日下部はお調子者だから陰で実は日下部のこと好きって思ってても恥ずかしくて告れない子居たと思うよ。」
あっ、あの日下部くんのことが好きだなんて、恥ずかしくて誰にも言えない…!みたいな。
「……あぁ、そう言えばそんな子いたなぁ。」
(え!?居たのかよ…!?)
「俺の前でモジモジしながらさ、手紙渡してくんの。これ、林くんに渡してって。…実はあれ、俺のことが好きだったのかもな…。」
「……そうかもね。(いや違うでしょ…。)」
中学の頃の話をしながら、最終的には「そうか…あの子俺のことが好きだったのか…。」なんてほざいている日下部を俺はもう放っておくことにして、何気なく近くにいた航に「航は普通にラブレターとか貰ってそうだよな。」と話しかけると、航はキョトンとした顔をしながら口を開いた。
「俺バカだからさー、自分宛の手紙を他の人宛だと勘違いして渡してしまって女の子怒らせたことある。」
(日下部と真逆すぎるーーー!!!)
それを聞いた日下部は、航の元へダッシュで駆け寄り、プロレス技をかけていた。
「は!?なんだよクソカベやんのか!?ぁあん!?」
「ぐはっ!」
しかし呆気なく航にやり返されていた日下部を、俺は哀れに思ったのだった。
……がんばれ、日下部。
哀れ日下部 おわり
続けて以下なっちくんの初彼女話 ↓
「…綾部くん、あの、ちょっといい?」
部活を終えて制服に着替えたあと部室を出ると、ずっと部活中サッカー部の方を見ていた同級生に声をかけられた。
一緒にいた部活仲間が、ニヤニヤしながら俺の背を押す。
人気のないところへ向かう同級生の後に続くと、「好きです!付き合ってください!」と告白され、俺は驚きで固まった。
「…あ、う、うん…。俺で良いの…?」
恥ずかしくてどもってしまいながらもそう問いかけると、うんうん頷く女の子。
その日はどうしたらいいか分からず、女の子と別れて部活仲間の元に戻ると、「なんで戻ってくるんだよ!」「一緒に帰れよ!」って散々言われた。
「えー、…だって話したことない子だし…。」
「じゃあなんでokしたんだよ!」
「そういうのはきっぱり断るのも優しさなんだぞ!」
「…いや、いきなりすぎて驚いて頷いちゃった。」
それに告白されるのは嬉しいから…。
俺には断るなんてこと、できなかった。
そして翌日、「一緒に帰ろ?」と誘われてなんとか頷く。恥ずかしくて、さぞかしあの時の俺はぎこちない態度だっただろう。
それからその日彼女から、「今度遊ぼう?」と誘われる。
その時は「うん…。」と頷いたものの、それから3日後。
「綾部くんって友達といる方が楽しそうだよね。」
まだデートすらしていない彼女に、振られたのだった。
なっちくんの初彼女 おわり
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