噂の問題児、S&E本編開幕前事件 [ 1/87 ]


噂の問題児


「うっ…うっ…やべっ、涙が止まんねえよ…っ」


2年Eクラス 友岡 航は、教師がカッカッと黒板にチョークで字を書いている音が聞こえる授業の真っ只中、涙が止めどなく流れ出る目を手で覆い、鼻をすすった。


「ズズッ…。」

「ちょっ!お前俺が貸した漫画に鼻水たらすなよ!!!」

「あ、わりぃ。」


航の隣の席に座ったクラスメイトは、その瞬間を見てしまったのだ。

ポトッと航の鼻から流れ出た鼻水が、航の手に持たれていた漫画に落ちた瞬間を。


ああ、今日も騒がしい。授業中だというのに堂々と行われる私語。さすがは2年Eクラス。


教師はとっくに気付いていた。

航が授業中、漫画を読んでいることなど。

気付いていたものの、注意はしない。

何故なら彼、友岡 航が、教師の言うことを素直に聞くことがない、問題児だったからだ。


しかし航の変化に気付いたのは、航が静かに下を向いて漫画を読んでいると教師が気付いてから15分ほど経った頃だ。


「うっ…うぅ…っ…ルフィ…っおまえまじかっこよすぎるぜ…っ」


泣いてやがる…!

あいつ、漫画読みながら泣いてるぞ!?


教師はチョークで文字を書くのを一旦止め、ギョッとした目で航を見た。

周囲のクラスメイトはそんな航に気付いているものの、特にその様子に突っ込むことはなく、突っ込みを入れられたのは航が鼻水を漫画に垂らした瞬間のみ。


教師は思った。

これが、2年Eクラスの、日常なのか…と。




「いやぁ驚きましたよ。友岡。あいつ授業中漫画読みながら泣いてるんですよ。呆れ通り越して笑いそうになりましたね。」

「あはは、やりそうですねぇあいつなら。僕の授業の時なんか、普通におにぎりかじってましたからね。」


この時、職員室での教師の会話を、

静かに聞いていた男がいた。

彼の名は、黒瀬 拓也。

のちに、S&Eの教祖となる男である。


噂の問題児 おわり



S&E本編開幕前事件


「んなッ!!!」


2年Eクラス 友岡 航は、シーンと静かな廊下で一人、そんな驚きの声を上げた。


サササ、と素早く窓ガラスを移動する黒い生物を、友岡 航は凝視する。


「…校舎は綺麗かと思いきや、ゴキちゃんがお散歩してやがる。」


航のこの呟きに、窓ガラスの部屋の中にいた生徒たちがピクリと反応を見せた。


「ん?外に誰かいる?」

「ああ、今なんか聞こえたな。」


振り返り、窓ガラスに視線を向けると、そこには航のシルエットが映っている。

ジッとそのシルエットを、生徒会役員に見られていることなど知りもしない航は、黒い生物を追いかける。

そっと自身が履いていたローファーを脱ぎ、片手に持って、航はゆっくり静かに歩み寄る。


そしてローファーを持つ手を高く上げ…


「くたばれ!!!クソどもめ!!!」


そう叫びながら、窓ガラスに航は勢い良くローファーを叩きつけた。


「はっ!?!?今くたばれって言われたぞ!?なに!?俺らのこと!?」

「しかもクソどもって!」


生徒会役員たちは、航の声と窓ガラスを激しく叩きつけられた音を聞き、その場から立ち上がる。


「うわ。やっべ、ひび入った。」


素早くローファーを履き、航は駆け足でその場を立ち去った。

俺はなにもしていない、強いて言うならゴキちゃん退治をしてただけ。
蜘蛛の巣のようにひびの入った窓ガラスに、航は内心悪いとは思いつつそんな言い訳をしながら立ち去る。


しかし走り去る航の後ろ姿を、生徒会役員一同、窓から顔を出して見ていたのだった。


「…2年Eクラス、友岡 航っすね。」

「ああ。あいつは明日呼び出しだな。」


2年Sクラス、生徒会役員の矢田 るい、それから、生徒会長である黒瀬 拓也は、その姿が見えなくなるまで、ジッと鋭い目付きで航の後ろ姿を見つめていた。


S&E本編開幕前事件 おわり

この時点ですでにるいは、
後ろ姿だけで友岡 航と認識できるほどには
航のことを知っていた。(悪い意味で)


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