りとの恐怖、黒光りするアレ(小〜中学) [ 15/87 ]
※ GKBRが登場します。
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カサカサカサカサ…
ほんの少しの気配がした後、奴は俺の身に付けていた、服の中から飛び出した。
「ギャァアアアアア!!!!!」
これが、俺、矢田 りとの、
生まれて初めて上げた究極の悲鳴である。
小学5年生の、まだ声変わり前である高い声が、教室に響き渡る。
体育の後、体操服から私服に着替え終え、教室で次の授業が始まるのを待っていた時だった。
「りとくん大丈夫!?」
「りとくんどうしたの!?」
俺の声に反応し、駆け寄ってきた女子たちの一歩後ろでは、男子たちが「すごい声」と言いながら俺を見て笑っている。
クッソ、笑ってんじゃねえ!
ジタバタ暴れて、とりあえず俺は自分の衣類から奴を突き放す。
ポトッと床に奴が落っこちた瞬間、周囲の女子たちが先程の俺とそう変わりないほどの悲鳴を上げた。
「「「キャァア!!!ゴキ●リィィイ!!!」」」
逃げ回る女子たちに紛れて、俺も逃げる。
奴に立ち向かう勇敢な男子に向かって、俺は必死に叫んだ。
「早く殺れ!クソッタレ!!!!!」
数ある衣類の中から、俺の服に忍びこんだ奴を、俺は一生許さない。
*
「アアァァ兄貴ィィィイ!!!!!」
…ん?
隣の部屋からすげえデカイ声で呼ばれてる。
と、りとの声が聞こえた直後、ドタドタと激しい足音、そして、バタンと俺の部屋の扉が勢い良く開かれた。
「どうした?なんかあったのか?」
血相を変えて俺の部屋にやって来たりとに問いかけると、りとはうんうんと首を激しく縦に振る。
「ちょっと俺の部屋来て。」
「なんだ?」
「いいから早くッ!」
腰掛けていた椅子から立ち上がると、りとは俺の服を掴んでグイグイと引っ張ってきた。服伸びるからやめろ。
早く、早くと促されながらやって来たりとの部屋に入ると、りとは「あそこ!!!奴が居るんだよ!!!」と叫んだ。
それはもう恐ろしいものを見るかのように、りとは窓ガラスのすぐ隣の壁を指差している。
見ればそこには、なかなかに大きめなゴ●ブリがジッと止まっていた。
「あぁ。お前窓開けてた?」
「そんなんいいから!早く!」
「いや自分でなんとかしろよ。」
「アァぁにきィィイ!!!頼むから!!!」
虫一匹で騒がしい奴だ。と素っ気ない態度を取ると、珍しくりとは俺の服を掴んで泣きついてきた。
どうやらこいつ、アレが苦手らしい。
仕方ねえな。と、俺はりとの部屋にあったまだ中身が半分以上入っているペットボトルを手に取った。
「…兄貴、絶対逃すなよ。」
役立たずなりとが、俺の背後に隠れてそんな注文を付けてくる。
第1発目、壁に向かってダン!とペットボトルを叩きつけると、上手く命中したのかゴキブ●はよろりと床に落っこちた。
しかししぶとく生きている。よたよたと本棚の隙間に逃げようとするゴキブリを指差して、りとは俺の背後で騒がしく声にならない声を発している。
「ア"ア"ア"ァァアバババ!!!」
珍しく取り乱しているりとに笑えて、俺は半笑いしながらペットボトル第2発目を、今度は床に叩きつけた。
再びそれは命中し、動きが鈍くなったゴキブリをティッシュで掴む。
捕獲したことを確認したりとは、ホッと息を吐いた。
「台所のゴミ箱に捨ててな?」
「お前が捨ててこいよ。」
「ギャァァ!やめろや!!!」
こいつどんだけ嫌いなんだよ。
俺の手に持っているティッシュをりとに差し出した瞬間、りとはサササと後退して俺から距離を取った。
ったく、しょうがねえな。とティッシュを持ったままりとの部屋を出る。
りとは「ふぅ〜。」と声に出しながら疲れた表情をしている。お前ただ叫んでただけだろ。
その日から、りとの部屋にはゴキジェットが常備されたのだった。
りとの恐怖、黒光りするアレ おわり
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