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「お前なんでここで飯食うんだよ。」
光と食堂で昼食を食べていると、会長が俺たちのテーブルにやってきた。
俺の隣の席に腰掛けてきたから、俺の周辺は途端に騒がしくなり、最悪だ。
「あっちは嫌なんだよ。」
「へえ。まあいいけど。どうだ?真田とちゃんと話せたか?」
「うん。相談しやすくなった。と思う。」
「佑都は俺に相談すればいいよ。」
「は〜?お前に相談はねえだろ。」
「会長には言ってないんですけど。」
「あ?」
ぼそりと光が何か言った言葉に、会長は眉間に皺を寄せた怖い顔をして聞き返したが、光は素知らぬふりをしてご飯に箸をつけた。
会長はそんな光のことを、まじまじと観察するように見つめている。
その会長の視線に気付いた光が「なんですー?あんまり見つめられると照れるんですけどー。」と笑みを浮かべて言うが、会長はそんな光をいまだジッと見つめ続ける。
「目が笑ってねえな。」
「へ?」
「お前は冗談を言ってるようで、全然目が笑わねえな。」
突然何を言い出すのか、会長は光に真剣な目をして話しかけている。いきなりどうしたというのか。
「え、笑ってます笑ってます。」
光も突然会長に言われたことに、更に笑みを深くする。
「ぶっちゃけ俺のことどう思ってる?」
「会長のこと、ですか?…うーん特にどうとは。」
「じゃあ佑都のことは?」
会長は間髪入れず真剣な顔つきで、そんなことを光に問いかけたから、俺はおいおいあんた、と突っ込みたくなったが、それよりも光の表情が笑顔からすっかり一変し、とても不機嫌そうに顔を歪めていたから、俺はそっちの方が気になった。
しかしそれも束の間、光はまた笑顔を浮かべて口を開いた。
「佑都のことですか?それはもう全身全霊で愛していますね。」
「…だってよ。佑都どうする?」
「は?いやなにが。」
光の寒い発言に、会長は俺の方へ視線を向けて問いかけた。どうするもなにも、どうもしないだろ。
「夏木はこう言ってるけど?」
「いや、冗談真に受けんなよ。」
「夏木、冗談なのか?」
「…え?…やだなぁ、特に深い意味なんてないですよ。」
光はヘラリと笑いながらそう言って、ご飯をぱくりと口に含んだ。
「…あいつ否定してねえけど?佑都。」
ご飯を食べ進めている光を横目に、会長はこそりと俺に話しかける。
「え、会長なにが言いたいわけ?」
「いや?冗談言ってるにしては目も笑ってねえし、否定もしなかったから今のが本音なんじゃね?って。」
「会長、ほっといてもらえますか?」
それは突然だった。
コソコソと俺に話しかけていた会長に向かって、光が無表情、さらにキツイ口調で声を上げたのだ。
「あんまりしゃしゃり出てこられると迷惑です。」
光はそう言ってから、おぼんを持って立ち上がった。まだご飯の途中だったろうに、返却口におぼんを返してしまった光は、そのまま食堂を出て行った。
最後に見た光の表情は、なんだか泣きそうな顔だった。
なんだか今日は、朝も、昼も、こんなことばっかりだな。と、俺はひっそりとため息を吐いた。
「…あーあ、もう会長が意味わかんねーこと言ってくるから。あいつただでさえ朝からちょっとわけわかんねーのに。」
「はっきりさせてやろうと思っただけだ。」
「なにをはっきり?」
「……いや、しゃしゃり出てくんなって言われたしもう何も言わんとく。」
「なんだそれ。」
会長はちょっと申し訳無さそうな顔をして、話すのをやめた。
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