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「神谷な。昨日真田んとこの隊長に強姦未遂にあった。」
「……は?マジで?」
水瀬は昨日の話を聞き、予想通りの反応をした。まあそうなるよな。実際現場で見た光景に、俺自身がかなり驚いたのだから。
神谷みたいな人気な奴が、そんな被害に遭うだなんて思わねえし。
「マジで。絶対言うなよ。」
「…言わねーよ。…それで、佑都は?んな被害にあって、あいつ大丈夫なのかよ。」
「まあ。夏木がそれに気付いたから。ベルト外されてたくらい。腹何度か殴られてるっぽいけど。」
「いや、身体じゃなくて。精神面の話だよ。」
「ああ、風紀委員室でる頃にはもう普通の顔してたぞ。つか、それより夏木の方がやばいんだって!!」
「あいつがやばいのは元からだろ。」
…うわ、夏木の扱いひでえ。
しかしまあ確かにそれは否定できん。
「まあそうなんだけどさぁ、あいつってマジなにもん?最初は可愛い顔した変な子か?ってイメージあったけど、あいつ絶対裏あるだろ。」
「裏ぁ?あいつに裏あるかァ??」
水瀬は俺の発言に、理解できなさそうに眉を顰めた。
「あるだろ!!可愛い顔してんのは神谷の前だけで、それ以外はただの鬼畜野郎!!しかも、俺に指図するくらいだぞ!?」
「指図なら俺も佑都にされるぞ。」
「だからなんだよ!神谷は誰にでも指図しそうな面してんじゃねーか!」
「いやいや。だとしても“俺に”ってことが重要じゃね?」
「ああそうだな!!そこはどうでもいいんだよ!俺が言いたいのは、“夏木が”、“俺に”指図してくるって話をしてんだよ!!!」
ぜえはあ、ぜえはあ。
あれ、なんで俺こんなに息切らしながら話してんだよ。
少し冷静になるために、ソファから立ち上がり、生徒会室にある冷蔵庫の中にあった水を勝手にコップに入れ、口の中に流し込んだ。
「あー、その水あれだわ。夏木のだわ。堺田が勝手に飲みやがったって夏木にチクってやろー」
「ブーーーッ!!!ガハッ!!」
「おいおい大丈夫かよ。ちなみにジョークだ。」
「てめえ!!!!!」
しれっとした顔で冗談を言う水瀬は、俺の反応を見て楽しんでやがる。
ニヤリと口角が上がった憎たらしい顔を俺に向ける水瀬は、「気になってんねぇ?」とさらに憎たらしいことを言ってきた。
だから気になってんのは否定しねえよ!!でも俺が言いたいのは夏木のあの性格の話だ!!!
「しかし残念だったな、夏木はあれ完全に佑都一筋だからな。好きになったら叶わぬ恋だぞ。」
「誰もまだ好きだとか言ってねーだろ!!」
「……まだ?」
「ダァァアッ!!クソッ!!!」
完全にからかわれてんぞ、俺!!!
こいつめんどくせー!!!
しかし水瀬が言ったことを少し冷静になって思い返してみると、“あ、やっぱり夏木って、神谷のことが好きだよな。”と俺は改めてそう思った。
「いやでも、神谷はどうなんだよ?神谷が夏木のこと好きじゃなかったらあいつの想いは報われねーじゃん。」
「お?お前佑都に対抗する気だな?まあがんばれや。」
「言ってねえ!んなこと一言も言ってねえ!!!」
ダァァアッ!!!なんか苛立ってきたぞ、水瀬と話すんの。こいつ俺の問いかけ聞いちゃいねー!!!
とイラついているところだったが、水瀬は数秒遅れに俺の問いかけに対して答えたのだった。
「しかしぶっちゃけ佑都の気持ちは俺にはわからん。幼馴染みとしては大事だろうけど、俺から見たらただそれだけに思える。」
案外真面目に答えてくれた水瀬に対し、まあそうだ。人の気持ちまでわかんねえよな。と冷静に考える俺だった。
*
「あ。向井おはよう。」
「…ゆ、佑都くんっ!!!おはよう!!!」
食堂で光と朝食を食べていると、眠たそうな向井の顔を見つけたので、片手をひらひらと振りながら声をかけると、向井は物凄いスピードでこちらにやって来た。
一緒に居た凜ちゃんと猛が、笑いながら向井の後を追って、歩み寄ってくる。
「何食べてるの!!!」
「朝ごはん。」
「そりゃそうだ!!!」
なんだこいつ。
朝っぱらから元気すぎる。
「昨日はなんか心配かけたみたいでごめんな。あと、待っててくれたのに先帰ってごめん。」
「佑都くんが元気そうならそんなの全然いいんだよおぉおうっうっ!」
向井は俺の言葉に、大袈裟な嘘泣きをし始めた。朝からマジで元気なやつ。
「ははっ、傑良かったなー佑都におはようって言ってもらえて。」
「ほんとほんとー。おかげで騒がしすぎだっつーの。」
まるで向井の保護者のような、暖かな目で向井を見る猛と凜ちゃん。
「凜ちゃんもごめんな。」
「いいよ。俺も佑都が元気そうなら。」
「あーうん。元気元気。」
「またなんかあれば俺らに言えよ。」
「…あ。凜ちゃんにいいとこ持ってかれた…」
向井はそう言って、肩を落とした。
テンションの落差激しすぎ。
お前は光かよ、と突っ込みを入れたくなったが、そこでチラリと光を見ると、光は無表情で朝ご飯を食べている。
ほんとうにこいつはテンションの落差が激しい奴だ。
朝食の白ご飯ラスト一口食べたところで、光はガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。
無言で鞄とおぼんを持ち、返却口へと食器を返している光は、そのまま一人食堂を出て行った。
「は?なにあいつ…」
「…光機嫌悪い?」
「いや?普通に話してたけど。」
「…俺らが来たからか?」
「…さあ?まあなんでもいいけど。お前ら早く飯食わねーと時間なくなんぞ。」
俺は猛たちにそう促しながら、朝食の残りの白ご飯をかき集めた。
実は無言で立ち去った光のことは、ほんのちょっとだけ気がかりだった。
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