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「真田先輩に聞いてほしいことはまだあるんです。聞いてくれますか?」
「はい!是非、お聞かせください!」
俺は完全に自分の顔面から笑みを消す。
愛想笑いが思ったよりも疲れた。
張り切ったように返事をした真田先輩には申し訳ないが、聞いてほしいこととは愚痴である。さて、この俺の愚痴を聞いた真田先輩はどんな表情を浮かべるのか。いい予感はしないが、言ってみようと俺は決めた。
悪い方向に事が進んだら、全部会長の所為にできるのだから気が楽だ。
「俺は、自分の仲良くしている後輩が怪我をさせられたことで、親衛隊という存在が凄く嫌になりました。ぶっちゃけ要らねえって思ってます。公認したこと、後悔しました。
友達の手借りて、俺にしては結構悩んで、考えて公認したつもりの親衛隊が、あっさりと嫌になったんです。
もうすげえ嫌で、気ぃ重くて、かったるくて、高校生活で今が一番憂鬱です。
んで、溜まりに溜まる愚痴を言いたくて、友達に話したんです。親衛隊いらねーとか。そんな感じの愚痴。で、その流れで後輩が怪我させられた話とか全部話した。
そしたら俺なんて言われたと思います?
俺が親衛隊をいかに上手く管理できるかどうかが重要だったんだ、認識が甘かったな、って言われたんですよ?
はあ?知らねーよこっちは親衛隊の存在知ったのつい最近なんだっつーの、管理ってなにすんだよ。認識?甘くて悪かったな!って思うわけ。
だいたい愚痴話すっつってんのになんで説教されなきゃなんねーんだよ。まじ腹立つんですけど。
俺ってかなりのめんどくさがりなんですよ。だから、友達付き合いも結構今面倒になってて。もうガタガタっすわ、俺の生活。」
立て続けに思ってること全部を言い、ある程度吐き出したところでダラリと姿勢を崩して、ソファの背凭れに頭を乗っけた。
チラリと見た真田先輩は、苦虫を噛み潰した表情をしている。そりゃ困るだろうな、いきなり親衛隊の悪口言って、愚痴ダラダラ言って。
「気分悪いですか?愚痴なんか聞かされるのは。」
そう先輩に問いかけると、先輩はふるふると全力で首を振った。
「いいえ、寧ろ聞けて良かったと思います。話してくださって、とても嬉しく思います。もっと、お聞かせください。神谷くんが、思ってる不満とか。全部聞かせてほしいです。」
真田先輩は、嫌な顔などひとつもせず、真剣な眼差しでそう言った。
そこで思い出すのは先程会長が言ってた台詞だ。
『もっと不満とかあいつに言ってやれ。絶対それで悪いようにはなんねえから。』
やたらと自信満々に言われたその台詞を思い出し、俺は少し悔しく思いながら、それと同時に会長には感謝する。
「じゃあひとつ聞いていいですか?」
「はい!おいくつでも!!」
「親衛隊を上手く管理って、どうやるんですかね?だいたい管理ってなんすかね?
俺はもう、あいつに言われたことが腹立って腹立って仕方ないんです。上手く管理って、なんすかね?」
「あいつ、とは、お友達のことですか?」
「そうです。クソ腹立つ野郎ですよ。口悪いし性格も悪い。あ、それは俺もか。いやとにかく腹立つ野郎です。」
「……制裁、加えましょうか?」
「いらねーっすよ。絶対やめてくださいね。制裁なんて加えたら、俺はその時点で親衛隊を見限ります。」
「そう言われると思いました。
ではこういうルールを作るなんてどうでしょう。神谷くん親衛隊は、制裁を加えた時点で解散。解散を嫌がる親衛隊は、制裁など加えることはないでしょう。
親衛隊を上手く管理する、とはこういったルールを作っていくことだと、僕は思います。事が上手く進むよう、僕もたくさん案を考えさせていただきます。神谷くん、僕にもっと、お話しください!」
真田先輩はそう言って、俺の顔をジッと食い入るように見つめた。しかしその数秒後、ハッとしたように俺から目を逸らし、顔を真っ赤に染める先輩。
「……あ…あ…っ…僕としたことが…!つい張り切ってしまい…あの…申し訳ありま「あー先輩、待った。」……え?」
先輩の話の途中に口を挟むと、先輩は戸惑った表情を浮かべた。
「そんなにほいほい謝るのはやめてください。先輩は俺に謝ること言ってませんし、そもそも先輩にはもっと案を考えてもらわないと俺に親衛隊を管理なんて、ぶっちゃけると無理です。先輩の手をたくさん借りようと思います。いっぱいお話ししますから、よろしくお願いします。」
そう言って頭を軽く下げると、真田先輩もあわあわと慌てながら頭を下げた。
「こ、こちらこそ!よろしくお願いいたします…っ!」
そんなやり取りをしたあと、ふぅ。と一息ついた。話、結構まとまったな。ちょっとだけ気分が楽になったかもしれない。しかし喋りすぎたな。かなり疲れた。
「あぁぁ〜…。」
だらりとソファに寝そべった。
チラリと真田先輩に目を向けると、先輩は「お疲れですか?」と俺に声をかけた。
そうです。よくお分かりで。
「俺って多分、自分のこと話すの苦手だと思うんですよね。しかも喋りまくることってあんまり無い気がするから、疲れました。でも、話したいこと話せたんで、良かったです。先輩、ありがとうございます。
…ちょっと、一眠りしてもいいですか。」
「こちらこそ、話してくださって本当にありがとうございます。ゆっくりおやすみください、では僕はこれで失礼しますね。」
真田先輩はそう言って、穏やかな表情を浮かべながらソファから立ち上がり、一礼した。
コーヒーカップを手に取って、流しの方へ向かっていった先輩は、きっとあの人のことだから、ご丁寧にコーヒーカップを洗って帰るのだろう。
やっぱり水の流れる音がして、なんだかクスリと笑えた俺は、穏やかな気分の中目を閉じて眠りについた。
真田先輩が、俺の親衛隊隊長で良かったと、初めて思えた瞬間だった。
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