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寮へ帰って、制服を脱ぎ捨てて、適当に服を着て、すぐに布団に潜り込んだ。
もう今日はこのまま寝てやる。
そんな、不貞寝のようなものを決め込んだ俺は、それから翌日の朝まで目覚めなかった。
それも、目覚めたのはドンドンと部屋の扉を誰かに叩かれる音でだ。
「チッ……誰だよ…。」
寝過ぎで重たい身体を必死で起こして、玄関の扉を開ける。
「わっ……佑都くんの寝起き……。」
「傑、今そこで照れてる場合じゃない。」
「この時間に佑都が起きてないことがまず問題。」
そこに立っていたのは、猛と向井と凛ちゃんだ。
「……なんだよ。」
「なんだよ、じゃないだろ、学校だよ学校!」
「…ああ。先行っといて。」
「佑都体調悪いのか?昨日晩飯誘ったのに反応無かったし。」
「別に。じゃあな。」
そう言って俺は、バタンと扉を閉めた。
学校へ行くのに迎えに来てくれた友人には悪いが、今とても人と喋りたくない気分だ。
「あー…だっる。学校。」
やっぱ俺って、多分メンタルすげえ弱い。
学校行きたくねえなー…。
でも行かなきゃまずい。
1日サボったらクセになりそうだからサボるわけにはいかない。何より授業聞けないのは困る。俺ガリ勉だから。
とりあえず気分をリフレッシュさせるために風呂に入ることにする。遅刻決定だけどもうなんでもいいや。1限授業なんだっけ。体育だったらいいな。
そう思いながらバスタオルと下着を準備していると、また部屋に誰か来たようで、ドンドンと扉が叩かれた。
「チッ……あーもーなんだよ…」
ぶつくさ文句を言いながら扉を開けると、立っていたのは光で、開けなきゃ良かったと後悔する。
「あれー、佑都準備遅くね?さっき猛に会って、なんか佑都のこと心配してたから来てみたんだけど。」
「あーそー。別に何もねえよ。早よう学校行け。」
「やーだー。あ、佑都の準備待っててあげるからテレビ見せてー。」
「おい!!!」
何が待っててあげるだ、自分が朝ドラ見たいだけだろ。けれどもう部屋へ入ってしまった光を追い出すのも面倒なので、そのまま放っておくことにした。
「……風呂入ろ。」
気を取り直して、風呂場へ向かう。
朝から疲労感満載だ。
自分が寝過ぎたのが悪いんだけど。
「あー…腹減ったな。」
「食堂行こー。」
「お前なにしれっとサボってんの?」
俺が風呂から出て来たのはとうに1時間目の授業が始まっている時間帯で、そんな時間に光は俺の部屋でテレビを見ている。
「えー、佑都だって。なにしれっと風呂入ってんの?」
「ほっとけよ。」
「髪乾かさないと風邪引くぞー?」
「お前に言われたくねーよ。」
半乾きの髪の毛で制服を着て鞄を持つ。
俺のベッドでごろりと横になってテレビを見ていた光を蹴り落としてテレビの電源を切った。
「あー学校めんど…。」
サボりグセがつく前に、俺は学校へ行くことにした。
「あ、神谷 佑都と夏木 光。お前ら揃って遅刻か?」
寮の食堂へ朝ご飯を食べに来た俺と光は、一人ポツンと座って朝食を食べていた生徒に声をかけられた。
「あ、昨日の人。」
「は?昨日?だれ?」
「風紀委員。」
「へえ。」
「いやいやいや!!!」
光の言葉に適当に頷いて、さっさと視線をその人から反らせば、その人は何故かツッコミを入れてきた。まったくわけがわからない。
「なんですか?」
「生徒会役員が俺を知らねえとかなんなんだよ!」
「いや生徒山ほど居んのに全員知ってるわけねえだろ。」
「いやそうだけど、風紀委員長くらい知っとくのって基本だと思うんだが!?」
「あーそうですか。」
「あっやっぱ風紀委員長なんだー、俺当ったりー。」
「イェイイェイ!」と両手でピースして喜ぶ光。そう言えばこいつ、さっき『昨日の人』とか言ったか。なんかこの人とあったのか?
「お前なんか昨日とキャラちがくねえ?」
「ん?なんのことです?」
「あっれ、しらばっくれてる?あ、神谷がいるから?」
「やだーいいんちょさん佑都の前で変なこと言わんで下さいよもー佑都行こー。」
「いやいやいや待てよ夏木 光。」
俺の手首を引く光の手首を、風紀委員長が掴んで引き止めた。ちょっと状況がよくわからんがこの二人知り合いなのか。
俺はそんな2人の様子を黙ってジッと眺める。
「ええなに、いいんちょさん俺に構ってほしいの?構ってちゃんなの?残念でした、俺は佑都の構ってちゃんだからねー?」
そう言って俺の腕を引いて身体を寄せてくる光に、ついついため息が出るのはもう癖だ。
「意味わかんねーし。光、俺先ご飯食べとくから。」
「ええ、待ってよ、俺も食べるって!いいんちょさん手ェ離してー!んじゃねー。」
風紀委員長の手を振りはらって歩み始めた光につられるように歩く俺は、立ち去る直前になんとなく風紀委員長へ視線を向けると、なにかジッと考えているように光のことを見つめていた。
「なあ、どういう知り合い?」
「ん?いいんちょさんと?」
「うん。昨日なんかあったのか?」
「え〜、気になる〜??」
「うん。」
昨日の午前中はずっと光といたから、なんかあったのならあの後だと思って気になったから聞いたものの。
素直に即答すれば、光は目をパチリと開けて、なぜか驚いているようだった。
「…なんだ?」
「…やけに素直ー。うぜー、とか言われると思った。」
「だって気になんもん。」
「俺のこと?」
「ちがう。昨日あったこと。」
風紀委員長は昨日と今じゃ光のキャラが違うと言っていた。俺がいるから、しらばっくれてるのかと問うた。俺の前で変なこと言うなと言った光。
こんなん絶対、俺も関わってんじゃねーかよ。気にならない方がどうかしてる。
「んー。昨日ねぇー。風紀室行ってゆずちゃん階段から突き落とした奴に文句言いに行ってきたの。」
「は?マジ?」
「マジ。」
「なんて?」
「反省文5000字書いて一回死んでこいって。」
「はあー?…お前はまた…。」
親衛隊を敵に回すようなことばっかしやがって。
「あ、“一回死んでこい”までは言ってねえかも。言ってやりたかっただけだわ。」
「もう喧嘩売ってることには変わりねーだろ…。」
おいおいこのバカ……
文句言いたいのはわかるけど、火に油を注ぐようなことしてんじゃねーよ。
「友人を怪我させられて黙って引き下がる光くんではないのですよ!!」
「そりゃ友達思いの良い子なこった。」
ため息混じりにそう言ったものの、光は得意気に笑った。
あー、ダメだこいつ。
ちょっと目離した隙にこれかよ。
俺は大きな、とても大きな、ため息を吐いた。
結局朝飯食って学校に着いた時間は2時間目の半ば頃だった。
授業の途中から教室に入るのはなんとなく嫌で、2時間目が終わってから教室に入ろうと思う。
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