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第5章【 新歓と、彼らの暴走 】
俺と光が生徒会役員になってから、早くも1週間が経とうとしていた。つまり、明日は新入生歓迎会当日ということ。
前日の放課後、最終の打ち合わせをするために、生徒会役員は勿論のこと、風紀委員、各部活動の部長、2・3年のクラス委員は会議室に集まっていた。
「午前のスタンプラリーだが、参考までに言っておく。生徒会役員の配置場所は体育館俺、職員室佐倉、音楽室古賀、理科室田辺、美術室、神谷・夏木だ。なにか連絡することがあったら体育館の俺のところに来るように。」
淡々と述べる会長の話にメモを取る生徒たち。
ちなみに、ここで生徒会役員の名前がでてきたわけだが、あまり聞きなれないのは普段から役職名で呼んでいるからだろう。
佐倉、とは副会長のことで、佐倉 陽平(さくら ようへい)。古賀が、会計のクラスメイト、菓子食いバカの一人、古賀 隆(こが たかし)。田辺が、書記の同じくクラスメイトで菓子食いバカのもう一人、田辺 良樹(たなべ よしき)という名である。
俺と光も最近覚えたばかりの名前だ。
特に古賀は、同じ役職で聞くこともあるため、名前を呼ぶ機会が増えた。
「あと調理室、図書室、パソコンルーム、会議室には風紀委員の2年、3年は基本的に見回り。」
ざっと明日のことを話す会長に、風紀委員たちも頷く。たくさんの生徒をまとめることはなかなかできることではなく、俺は密かに会長を尊敬する。
「佑都と俺一緒だな。」
「お前補佐だからな。」
「佑都の?」
「あほ、生徒会のだ。」
会長が話している間にも関わらずひっそり話しかけてくる光に、俺も小声で返事を返す。
「でもさぁ、俺ら美術室に居てるだけって絶対暇だよな?」
「まあ。2時間ほどの辛抱だろ。」
ボソボソ、とそんな会話をしていると、会長の目がこちらに向いた。同時にビクッと背筋を伸ばす光。
「あぁ、言うの忘れたけど、スタンプの配置につく役員は、新しい後輩との交流の場でもあるから、ただぼーっと立ってるなんてことのないように。」
まるで、俺と光の会話を聞かれたような会長の台詞に、俺も少しだけビクッとしたのだった。
「じゃあ次に…」
と会長は午後の部活動・委員会紹介の話に移る。
この、午後に行われる部活動・委員会紹介は、各部活動が約5分から10分の間で入部希望者を増やすためのパフォーマンスを見せる場であるのと、生徒会、風紀委員、図書委員や体育委員などの軽い紹介をする場なのである。
しかしどうやら生徒会役員に限り、紹介だけでなく何か出し物をしないといけないようで、皆手っ取り早く一人一つ得意なことを披露する。という出し物で決まったのだった。
なんで生徒会だけ、と不満を口にすると、『生徒会は生徒たちの憧れの対象だから、皆何かしら見たがるんだよ』と満面の笑みを浮かべて副会長がそう言った。
よくもまあ恥ずかしげもなくそんなことを言えたもんだ、と俺は副会長に若干引いた瞬間だった。
*
「『あなたは、ほんとうにそれで良いのですか?』『えぇ、これが私の選んだ道。後悔はしてないわ!』『ならよかった。僕もあなたと同じ気持ちです。』」
朝から光は、なにやらずっとドラマの一部のシーンの台詞をずっと繰り返し言っている。
「なんなのお前、さっきから。いい加減やめろよ、恥ずかしい…。」
新入生歓迎会の朝、一般の生徒より少し早めに登校する俺は、隣で台詞を繰り返し言う光を呆れた目で見てそう言った。
「俺が最近の昼ドラで1番感動したシーン。どう?感動した?」
「光がやると気持ちわりー。引く。もうマジで黙れって。」
「えぇ、ひどくね?俺今日これ生徒会役員の特技披露でやるつもりなんだけど。」
「うぇえっマジやめろって、お前1年なんだからそんな気持ち悪いの披露すると友達できねーぞ?」
俺がそう真面目に言ってやってるのに、光は俺の話を聞いてないのか、ヘラヘラ笑っているだけである。
「佑都はなにすんの?特技披露。」
「俺?…あーまあ…てきとうに。」
ぶっちゃけ、その場のノリでやるものだと思ってあまり考えていなかった。
特技って言われてもこれと言って胸を張れる特技はない。
「えぇ、佑都やる気あんのかよー。」
「お前がやる気ありすぎんだよ。とにかくその気持ち悪い演技はやめろよな。」
俺がもう一度念を押して言うと、光は「どうしよっかなー」と言ってまたヘラヘラ笑っていた。
「おーっす、おはよう。寝坊はしなかったようだな夏木。」
「当然であります隊長!」
「嘘つけ、お前俺が光の部屋行くまで寝てただろーが。」
役員集合場所である体育館に到着すると、すでに学校に来ていた会長が俺と光の元へ歩み寄って来る。
しれっと会長に嘘をつく光の後頭部を一発しばいてやった。痛がりながら、ブーブー文句を言っている光を無視して、さっそく新歓準備に取り掛かる。
準備と言っても、スタンプを配置場所に置くくらいで、特に大層なことはしない。
スタンプがまとめて入っていた袋を副会長から受け取って、手分けして置きに行くために、古賀と半分ずつにスタンプを分ける。
「スタンプ置きに行くぞ光。」
「あいあいさー!」
当然のように光に声をかけて体育館から出ようとすると、会長と副会長の視線が痛いくらいに突き刺さった。
「なんですか。」
「うん?いやぁ、仲良しだなぁと思ってね。」
2人を見ながら問いかけると、副会長にニンマリとした笑みを浮かべながらそう言われ、なんだか俺はなんとも言えない気持ちになった。
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