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『えっと、生徒会補佐になった夏木です。』


光が話しはじめた途端、あからさまではないがヒソヒソと陰口が舞台上まで聞こえてきた。俺が聞こえているということは、当然光にも聞こえているわけだが、光は特にヒソヒソ話を気にする様子はなく言葉を続ける。


『まだ学園生活にも不慣れですが、自分にできることを精一杯頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。』


そう光が話し終えた直後…


「お前にできることなんかねーよ!」


どこからかそんな野次が聞こえてきた。
その野次に便乗するように、チラホラと違う野次が聞こえてくる。


「神谷様の金魚のフンが!」


…と、そんな野次まで聞こえてきてさすがに黙っていられなくなった俺は、光からマイクを奪い取り何か一言言ってやろうとしたのだが、当の光の表情を見て、そんな気は一気に失せた。

何故なら光は、両の口角を上げてにんまりとした笑みを浮かべていたからだ。

そんな光を見て、ギョッとした顔をしていた会長が面白い。『こんな状況の中、あいつ笑ってやがる…』とでも思っているのだろう。

これは、会長の反応が普通だ。こんな状況で笑ってる光がおかしい。だが俺には分かる。

…あいつ今、悲劇の主人公にでもなった気でいやがる…

その証拠に、


『コホン。どうやら不満に思っている方がたくさん居られるようで。』


わざとらしい、光らしからぬ話し方で、光はマイクに向かって話しはじめた。

さらにギョッと目を見開いた会長がまじうける。


『確かに僕が生徒会役員になりできる事はないかもしれません。しかし、みなさんご存知ですか?生徒会補佐と言う役職の別名を…!』


さらに続く光の台詞に、今度は俺がギョッとした。生徒会補佐の別名!?そんなの誰も知らねーしそもそも有りもしないだろ!!!

しかし何を言い出すのかと思えば、光はスゥと息を吸って、こう言った。


『神谷佑都パシリ係…コレですよ!』

「コレですよ!じゃねえ!あほか!」


思わず叫んで、光の頭をしばいたのは勿論俺だ。


『いってえ…!実際そうじゃねえの!?』

「…まあそうだけど。」

「おい、納得してんな!」


会長が呆れた表情で突っ込んだ。

その隣ではいつも笑顔がウザい副会長が、苦笑を浮かべているというなんともレアな現象が。

まあそれはさておき。光のトークはまだ終わりそうに無い。マイクはいまだ、光が握ったままである。


『みなさん、神谷佑都パシリ係…その過酷な役職に挑んでやろうという方、その挑戦受けてたちましょう!』

「や、意味わかんねぇから。何勝手に言ってんの?つかお前しかパシる気ねぇし。」

『えっ理不尽!』


スピーカーから体育館内へ、光の発言全てが響き渡るため、とりあえず俺は光からマイクを取り上げる。


「それに会長が決めたことだから。文句あるやつは会長に言えっての。」

「俺にかよ!?」


そのマイクから俺たちの会話が微かに体育館内に響いており、教師一同が “何を言ってるんだ、あいつらは”とでも言いたげに舞台上を眺めている。しかし誰も口を挟まない。なぜならそれは、生徒会が決めたことや行動に教師は口を挟まない、という暗黙の了解があるようで。

簡単に言えば学校行事はほぼ生徒会任せである。

つまり、これからは生徒会役員になった俺や光の言動が、この学園になんらかの影響をもたらすということだ。

そして、もしも俺と光が何かやらかしたとすれば、その責任を取るのは会長なのである。

まあ俺を生徒会に勧誘して、それを引き受けてやったのだから、当然のことだと俺は思っているが。


「つーか光が生徒会役員ってのに不満な奴、
じゃあお前が俺と光の代わりにやれって俺は言いたい。」

「いやいや、…お前の代わりは無理だから。」

「俺は文句だけ言ってる奴、大嫌いなんです。」

「あぁ…そう。つっても神谷のその一言で皆黙り込んだけどな。」


言われて辺りを見渡したが、もう野次を飛ばす生徒は居らず、俺と会長の会話に耳を澄ませているようだった。


「お、聞き分けの良い奴は好きだ。」

「お前まじ良い性格してんな。」

「さて、じゃあこれにて生徒集会終了で。」

「おい。勝手に終わらせんな!」


…と言った会長だったが、場は完全にお開きモードに突入していた。


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