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俺の家に、久しぶりに佑都が来た。
自分の家に顔を出した後、俺の部屋に泊まるって言って、佑都がノックも無しに俺の部屋に入ってくるのはいつものことだ。
来客用だった布団はいつも俺の部屋にあって、いつの間にかそれは、佑都用みたいになってる。
ベッドの隣に布団を敷いた佑都が、「光の部屋久しぶりだなー。」って言いながら布団に寝っ転がった。
しかしすぐに起き上がり、ベッドに腰掛けていた俺の肩をトンと押して、ベッドに寝かされ、佑都に掛け布団を掛けられる。
「お前今日はもう早く寝ろよ。」
そう言って、佑都が俺を見下ろしてくる。
怪我をした俺を気遣ってくれているのか…
優しい佑都。
俺が階段から落ちたって聞いて、病院まで一緒に来てくれて、付き添っててくれた。
階段から落ちたのは俺の不注意でも、バカ、気を付けろよ、ってやっぱり佑都は呆れながら叱ってくれた。それはいつも通りの佑都で、なんて居心地が良いんだろう。
「…やっぱり佑都とは、…いつも通りが心地いいなぁ…。」
思ったことがついつい口から出てしまい、呟くように小声でそう漏らすと、佑都は俺をジッと見つめたまま黙り込んだ。
そして佑都の顔は、何故かだんだん眉間に皺を寄せて怒ったような顔になる。
「…なんだよそれ…。」
「…え?」
あれ?…なんだ?
…なんか俺、佑都を怒らせた?
むっとした顔の佑都に見下ろされ、少し動揺。
「…いつも通りはもう無理だっつったのはお前だろ。………だから俺、…」
「………え…、…俺、…なに…?」
佑都は、途中で話を止めてしまった。
途中で止められると気になってしまい、言いかけたことを話して欲しくて続きを促すと、不機嫌そうな顔をした佑都に睨みつけられてしまう。
え、…俺はなんで、佑都を不機嫌にさせちゃったんだ…?
『いつも通りが心地いい』って言ったことに、なにか問題ある…?
佑都は多分、いつも通りを望んでたはずだから、俺がいつも通りにできているなら、問題ないはずなのに…
そんなことを考えて、ふと思い出すのはさっき車の中で佑都が口にした言葉。
『…“いつも通り”はもう、終わりだ。』
…あれは、どういう意味なんだ?
“いつも通り”が終わりなら、
俺たちは一体、どうなる…?
佑都は今、なに考えてる…?
…佑都の気持ちを聞かせてよ。
ジッと黙って佑都のことを見つめると、佑都は横になっている俺の顔の横に手を付いて、ベッドの上に上がってきた。
「…えっ。」
なに、…なんだ、この状況は…
心臓がドキッとして、まるでなんか、俺、期待してるみたいな反応…
佑都はそんな俺を見透かしたように、俺の胸の上に手を当ててきた。
さらにドキドキと心臓が動いて、顔まで熱くなる。
「…こんなんでドキドキさせててさ、…お前これからも俺といつも通りー、とか、できんの?」
「…うぅ…佑都苦しい…。佑都がドキドキさせることしてくるんじゃん…。心臓触るとか反則だから…。」
俺はあまりにこの状況に耐えられず、俺の胸に触れてくる佑都の手を、ドキドキがもっと加速する前に離してほしくて佑都の手を掴んだ。
すると佑都は真面目な顔をして俺の胸に触れていた手を退けて、今度は俺の手を掴み、佑都の胸に引き寄せてくる。
ドッ、ドッ、ドッ、と動いている佑都の心臓に触れた時、思わず佑都の目を見つめると、佑都はむっとした顔で俺を見つめ返してきた。
「…お前の所為だからな。……俺はもう、いつも通りは無理なんだよ…。」
不機嫌そう、なのにどこか、恥ずかしそうに頬をうっすらと赤く染めて話す佑都。
「……佑都もドキドキするの?」
俺と同じような速度で動いている佑都の心臓に、問いかければ、佑都はコクリと小さく頷いた。
「……お前が悪いんだからな。」
「…うん、分かってる。…ごめん…。」
…あれ?…今のは、なにに対してのごめんだろう。自分で言っときながら、ちょっとわけがわからなくなる。
「…どうすんだよ。」
「…え?…なにが?」
「……俺ら。……付き合う?」
「………………えっ!?!?」
それは、予想だにしていないことだった。
驚きのあまりに、ギョッと目を見開くと、佑都は言った後に俺から目を逸らし、恥ずかしそうに唇を噛み締めた。
『付き合う?』…っていうのは、
つまり、彼女と彼氏…みたいな、
そんな関係のことを言ってるので、合ってる…?
あまりに驚きすぎて、心臓がドキドキを通り越してバクバク言っている。
バクバク言ってるから、苦しくて呼吸が辛くなり、なにも言えずに固まっていると、佑都は髪を掻きむしりながら叫んだ。
「ああもうめんどくせえめんどくせえめんどくせえ!さっさと返事しろよバカ!!!」
驚いて固まっていると、突然キレられて、頭を叩かれて、真っ赤な顔で隣に敷いてある布団に潜り込んだ佑都。
しかしすぐに立ち上がり、部屋の電気を消して、また佑都はすぐに布団に潜り込んだ。
暗闇の中、俺は佑都に問いかける。
「…佑都は、俺のことどう思ってんの…?」
そりゃあ付き合えるのなら、好きな人とは付き合いたい。でも、お互いが同じ気持ちでなければ、例え付き合えたとしても虚しい。
そう思って問いかけたことに、佑都は少し間を置いてから、答えてくれた。
「…大事な幼馴染み。…放っておけない。…側に置いておきたい。……なんだかんだ言って、俺お前のこと、好きなんだと思う…。
…好きとか、恋愛はよくわかんねえけど…。」
暗闇だから話せるのか、佑都が気持ちを聞かせてくれた。
最後の一言が、とても佑都らしく思えた。
気持ちを聞かせてくれたことが、とても嬉しかった。
…佑都に触りたいな。
…もっと佑都の近くに行きたいな。
…また、キスがしたいな。
佑都の気持ちが聞けたら、今度はどんどん欲が溢れ出てきてしまった。
「…佑都、そっちに行ってもいい…?」
「……いつも聞かずに来るくせに。」
「…いつも通りは、…もう終わりにするから。」
そう言った俺に、佑都はクスリと笑いながら、布団から起き上がる気配がした。
「…俺がそっちに行く。」
暗闇の中で、佑都が俺の側にやって来た気配…それから、互いの腕が触れ、近くで感じる息遣い。
やばい、どうしよう、心臓が…
意識をしすぎて、胸が苦しい。
胸が苦しいけれど、どうしても佑都に触れたくて、そっと佑都の手を握れば、佑都は俺の手を握り返してくれた。
佑都に本音を知られても、またこうして佑都の隣に居られることが、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
第9章【 いつも通りで居たい 】おわり
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