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部屋着に着替えてからは、机を挟んで佑都と向かい合ってお弁当を食べた。
夕飯にしてはちょっと早い時間だけどまあいいか。って、佑都の態度はちょっとぎこちない。
俺は、そんな佑都のことをチラチラと見てしまった。
そしたらまた、「なんだよ…。」と怒ったような、ムッとした赤い顔を向けられる。
不機嫌なの?本当は俺とチューしたくなかったから、怒ってるの?でも言わせたのは佑都だからな。
「…チューしてくれてありがとね。…嬉しかった。」
素直な気持ちを言えるのは、佑都が例え嫌だったとしても俺にキスしてくれたからだ。
佑都の優しさを、俺は素直な気持ちで返したい。
でも佑都は、俺の素直な気持ちに対してツンとした顔をしてそっぽ向いた。
「…そんなことで喜んでんじゃねえよ。」
ボソッとそう言って、モグモグとお弁当を食べ進める佑都は、まったく俺を見ようとしない。
「…そんなことじゃない。」
「そんなことだよ。」
「違うし!!!」
「そんなことだよ!!!」
バン!と机を叩いた佑都に、ビクッと肩が震えた。またお互いムキになって、喧嘩みたいになっちゃいそうな空気だ。
俺にとっては嬉しい佑都とのキスを、“そんなこと”って本人から言われるのは悲しい。
パクリと口の中に入れたご飯をモグモグと噛み締めながら、俺は目から涙が溢れてくるのを堪えきれずに泣いた。泣くことがクセになってしまってるように涙が出る。もういやだ…。
佑都は無言で箸を置き、気まずそうに黙り込む。
「うぅ…ぅぐ…っ」
口の中のご飯が涙と混じってちょっとしょっぱい。
手のひらで涙を拭いて、ゴクリと口の中のご飯を必死で飲み込んで、また箸でご飯を一口分取り口の中に入れようとした…
その瞬間、佑都にグイッと強引に胸倉を引っ張られた。
「あっ…!」
手から箸が滑り落ち、散らばる米粒。
目の前のお弁当の中身が少し机の上に散らばる。その上で、佑都が俺に唇を押し付けるようなキスをしてきた。
驚きで目を見開く俺の視界には、眉を寄せてなんだか苦しそうな佑都の表情が映り込む。
それから、ゆっくりと唇は離された。
でもいまだに掴まれている胸倉がちょっと苦しいけど、目の前の佑都も苦しそうで、佑都は絞り出すような声で俺に言った。
「…“そんなこと”だよ…。お前とのキスなんか。」
それは、先程の言い合いの続きだ。
でも、そんな苦しそうな顔で言われたら、俺はもう何も言い返せない。
佑都に2度目のキスをされ、嬉しいのに悲しい。
俺の心の中はぐちゃぐちゃで、佑都との関係ももうこのままぐちゃぐちゃになってしまうんじゃないかと思ってしまった。
佑都の、…次の言葉を聞くまでは。
「…だから、別に、何度でもやってやるから。…そんなことで泣くなよ…。」
佑都はそう言って、不器用な手つきで、俺の髪をゆっくり、ゆっくり、撫でてくれた。
佑都は、何を思ってそんな言葉を俺にくれるの…?
俺はその時欲が出て、佑都が俺に対して抱く気持ちを、聞きたくなってしまった。
「じゃあ俺は勉強したいからお前は大人しくテレビでも見てろ。」
お弁当を食べた後、佑都はテレビをつけて部屋を出て行った。
あらま、放置プレイですかそうですか。
テレビ画面には、ニュースを読む美人キャスターが映っている。
特にニュース番組には興味がないけど、俺は佑都に言われた通り、大人しくテレビを眺めた。
…あぁ、今日も物騒な世の中だなぁ。
毎日のように流れる殺人事件などの恐ろしいニュース。
物騒だなぁ。なんて言いながら欠伸が出るのは他人事だから。
…俺の周りは平和だなぁ…。
俺がずっと恐れていた、自分の気持ちが幼馴染みに知られちゃうという事が起こってしまっても、俺は今とても平和にテレビを見て過ごしている。
やっぱり、言えて良かったのかも…。とそんな気持ちになってきた。
ゆずちゃん、俺、佑都に気持ち言えて良かったかも…。
そして前向きになれたら次は佑都の気持ちが気になってきてしまった。
ねぇ佑都…、佑都はどんな思いで俺にキスしてくれたの…。
テレビの内容なんか全然頭に入らず、先程の佑都とのやり取りを思い返す。
佑都のことばかり考えちゃう。
佑都の気持ちが、聞きたいな…。
……あぁ、なんか、
眠たくなってきちゃったな。
目を擦りながら佑都のベッドに上がる。
ちょっとだけ、仮眠を取らせてね。
目を閉じた瞬間、睡魔はすぐに襲ってきた。
佑都のベッドでは、いつも驚くほどよく眠れる。
今なら良い夢が見れそうだ。
*
隣の部屋に光を置いて、逃げてきてしまった。
『いつも通りはもう無理なのか?』…なんて言っておいて、いつも通りの態度ができそうにないのは俺の方だ。
隣の部屋で一人になった瞬間、身体の力がドッと抜けた。壁に凭れて、膝を抱える。
俺の心臓が、やたらと忙しなくドクドク、ドクドクと動いていた。
思い返してしまうのは、先程の光とのキスだ。
一度目は、光が俺とのキスを求めたから。
あそこで“やらない”という選択肢は、まず無かった。
キスなら会長と光だってやっていたのだから、俺だって…という謎の闘争心が湧いた。
唇が触れ合った時が、今までで一番近い距離に光を感じた。ずっと近くにいた幼馴染みなのに、それよりももっと近い距離。
それと同時に、もう普通の、いつも通りの幼馴染みの関係には戻れないのかも、と思った瞬間だった。
唇を離した後の光は、ぼんやり赤い顔をして、キスした唇をそっと指で撫でている。
恥ずかしくてしょうがなかった。
俺とのキスが、そんなに嬉しいのか。
そこまで嬉しいものなのか。
俺はそんな光を前にして、恥ずかしくて恥ずかしくて、光の顔が直視できなくなった。
部屋着を投げ付け、一旦光から距離を取る。
俺と光は、今までどんな感じで、どんな会話をして、どんな雰囲気で過ごしてたっけ?
俺はたった一度のキスだけで、光との接し方を、一瞬で忘れてしまった。
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