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「侑里くんってほんまに忙しそうやなぁ。あんなにライン聞きたがってたわりにはぜんぜん送ってきはらへんわ。」
バイトが休みの姉が夜、ご飯を食べ終わってスマホをいじりながら俺にそう話しかけてきた。
「多分送りたいけどうざがられるやろうからって我慢してるんやと思うで。」
「そうなん?」
「一回なんか送ってみて。返事すぐ返ってくるんちゃう?」
時刻はまだ夜の8時を過ぎた頃だから寝るには早過ぎる時間だ。姉にそう言って侑里にラインを送ってみるよう促してみたが、「えぇっ?」と顔を顰められてしまった。
「いいやん、試しに送ってみて。」
「なんて送るん?」
「今なにしてるん?って。」
俺の言葉に、姉はちょっと悩むそぶりを見せながらも、ぽちぽちとスマホで文字を打っている。
そしてメッセージを送信したようだが、ジッと数分画面を見つめて、「既読つかへんわ」と言ってポカンと口を開けていた。
俺の予想は恐らくだけど、ちょっとくらいは姉も侑里のことが気になってると思う。その証拠にちょくちょく姉の方から侑里の話を持ち出してくるようになった。
気にはなっているものの、相手は弟の友人。素直に好意を見せられない、“照れ”のようなものがある気がする。だから姉は誰よりも侑里に素っ気無い態度を取っている。…というのが俺の見解だ。
「もしかしてもう寝たんかな?」
「えぇ?さすがに早すぎひん?」
「あ、お風呂入ってるんかも。」
暫く姉とそんな会話をしていたら、ピコンと姉のスマホから音が鳴った。姉のスマホ画面を覗き込むと、そこには侑里からの返信文が表示されている。
【 永菜からのライン嬉しい!!お風呂行ってた! 】
「あ、ほら。お風呂入ってたんや。」
俺の予想が当たってそう口にしながら姉の顔をちらっと見てみると、姉は真顔で「ふぅん」と頷いている。どう思ってこのメッセージを見てるんだろう。ジッと姉を観察しながら俺は食後にアイスを食べる。
もうラインは返さないのか、姉はスマホをテーブルに置いてしまった。
「私もアイス食べよっかな〜。」
「侑里に返事返さへんの?」
「べつに返すことないもん。永遠が送れって言うから送ったんやで?」
…うーん、わからへんなぁ。
姉ちゃんツンツンしすぎてて“照れ”なんかほんまに興味無いんかわからへん。
でもべつに俺に送れって言われたからって送る必要ないんやで?嫌がってもいいところを姉ちゃんが自分から送ったんやからやっぱり多少は好意あると思うんやけどなぁ。
「貸して、俺が返事送るわ。」
「えぇ?なに送るん?変なこと送らんといてや。」
姉のスマホに手を伸ばしたら、姉は警戒しながら俺の行動を見つめてきた。
いたずらするように自撮りでカシャと俺の写真を撮って侑里に送ったら、【 送ってたの永遠かよ!!おい!! 】とちょっと残念そうにも思える返信がすぐに送られてくる。
そんな返信を見て、今まで真顔だった姉の顔には笑みが浮かんだ。
ほら、ほんまは絶対照れ臭いんやで。『永菜からのライン嬉しい!』なんて言われて照れ臭いの我慢するみたいにわざわざ真顔作ってたんやろ?
…って、弟は姉の気持ちを密かにそんなふうに分析している。この分析を俺が口に出した時点で姉は多分恥ずかしがって侑里を突き放すだろうから、口に出すのは禁物だ。
翌日侑里と顔を合わせると、「昨日のラインなんやねん」っていきなり話を持ち出された。
「姉ちゃんの方から侑里がライン聞きたがってたわりにはぜんぜん送ってきはらへんとか言うてたから今何してんのか送ってみたら?って言うてみたらほんまにあの文送ったんやで?」
「うそやん、まじ?」
「うん。まじ。」
侑里に昨夜の話を事細かに話したら、ニッと嬉しそうに口角が上がった。そう。お分かりいただけただろうか、姉ちゃんも少しくらいは侑里のことを気にしてるということを。
「じゃあもっと送っていいんかな?」
「ん〜、今のままでいいと思う。“押して引く”を上手くできてると思うわ。」
「おぉ、分かった。ほな我慢するわ。」
侑里は聞き分けが良く素直だから、いつも結構俺の言ったことを律儀に守っている。
そんな話を侑里としていたら、静かに会話を聞いていた光星が横から「永遠くん俺にももっと送ってきていいんだぞ。」と言って突然俺にスマホ画面を見せてきた。
そこには、俺が昨日侑里に送ったアイスを食べているところの自撮り写真が表示されている。
「あ、光星に送ったんや。」
「なんで香月に送って俺には送んねえの?」
「え?姉ちゃんのスマホから遊びで侑里に送っただけやで。」
「俺にも送ってよ。」
「光星が送ってくれるんやったら送ったげるで?俺だけ送るんは嫌。」
きっぱりと俺は光星にそう返したら、光星はちょっと膨れっ面で黙り込んだ。そんなに俺の写真欲しいんや。
まあ、そんなに欲しいんやったらたまには送ってもあげてもいいかな。
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