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自分が慣れ親しんだ京都の風景を、俺は今大好きな光星と眺めている。引っ越しすることがなければ京都の風景をこんなにちゃんと見ることもなく、転校することが無ければ出逢うこともなかった相手。そう考えたら俺の気分は高揚してきて、隣を歩く光星の手を握りブンブンとふりこのように手を振って歩いた。

そして、大好きな人との楽しい旅行に、俺はすっかり忘れてしまっていた。

小学生の頃から仲が良く、俺が引っ越しをする時も泣きまくってくれて、いつもラインで『寂しい』と言って俺に会いたがってくれている、友達の存在を…。


ハッと思い出してスマホを見たら、郁馬からのラインの通知が溜まりまくっている。


【 俺も行く 】

【 今どこ? 】

【 なあって!! 】

【 永遠ライン見ろ!! 】

【 こんなに会いたいの俺だけなん!? 】


そんなメッセージの下にずらっと並ぶバリエーション豊富なスタンプの数々。


「あいつメンヘラやなぁ。」


そんな声を漏らしながらスマホ画面を眺めていたら、横から覗き込んできた光星が顔を引き攣らせていた。


「…早く会ってやったら?俺はそのへんぶらついとくから。」

「え?なんで?光星も一緒に行こ?」

「俺居たらお邪魔だろうし…。」

「ええっ!邪魔ちゃうよ!!せっかく一緒に来たんやからどっか行ったらあかんって!!」


俺と郁馬に気を遣って光星がふらっとどこかに行ってしまいそうで、ガシッと腕を掴んだら光星は苦笑しながら黙り込んだ。

郁馬に俺の新しい友達を紹介したいっていうのもあるから、光星にも来て欲しい。光星にも、俺のずっと仲良しの友達を紹介したいのだ。


南禅寺の最寄りのバス停からまたバスに乗って街中に戻ってきたら、バスの中からバス停の近くでスマホを見ながら建物の壁に凭れ掛かって立っている郁馬の姿を見つけた。


「あっ!郁馬いた!」


バスの中から郁馬を指差すと、光星が「どこ?」って俺の指の先を追う。でも光星に教えるより先にバス停に到着し、バスから降りて郁馬の元へ駆け寄った。


「郁馬〜!久しぶり!!」


手を振りながら郁馬の目の前まで近寄っていくと、郁馬はハッと顔を上げて「あぁぁっ永遠やぁ〜…!」と泣きそうな声で俺の名前を呼びながら痛いくらい力強くハグしてきた。


「痛い痛い痛い!!おい!痛いって!!」

「永遠もう帰んな。」

「え?今来たとこやねんからまだ帰らへんで。」

「そういう意味と違う…。」


ぺしぺしと郁馬の腕を叩くと、ハグを緩めてくれた郁馬がうるっと涙で潤んだ目で俺を見つめてきた。


「あ!バチクソイケメンな友達紹介するわ!浅見光星くんやで!…ちょっ、そろそろほんまに離して。」


全然ハグをやめてくれない郁馬を強引に引き離してから、少し離れた場所で控えめな態度で立っていた光星を手招きしたら、光星は申し訳なさそうに頭をぺこぺこと下げながら近付いてきた。

すると真顔の郁馬も光星に一度だけぺこっと頭を下げ、すぐにそっぽ向いて俺を見下ろした。


「な?めっちゃかっこいいやろ?」

「…ん。」


不服そうな顔で頷かれ、光星の顔には苦笑が浮かんでしまっている。


「……なんでそんな不機嫌そうにするん?郁馬に俺の新しい友達紹介したかったのに…。」

「べつに紹介していらんし。俺は永遠に会えたらそれでいいもん。」


郁馬はそう言って不貞腐れた子供みたいにぶすっとした顔をするから、気を遣った光星がまた「俺はそのへん見てくるから」と言って離れようとしてしまった。


「あかんって。旅先で光星一人にさせるわけないやろ。」

「んん…、でも…。」

「も〜、郁馬せっかくまた会えたのにそんな嫌そうな顔するんやったら置いてくで?光星申し訳なさそうにしてしまってるやんか!!」

「永遠が俺にひどい態度取るのが悪いんやんか!!引っ越してからずっと光星光星光星って、俺と離れても全然寂しそうにしてくれへんし!!俺がどんな思いで過ごしてたか知らんやろ!」

「えぇ?…いや、だって…なぁ?最初はそりゃ寂しかったけど、新しい環境に慣れていかなあかんやん?」


光星の前でまた駄々をこねた子供のような言い方で郁馬にそんな話をされ、チラッと窺うように光星の顔を見ればちょっと顔を赤くして照れている。


「嘘つくな!引っ越した直後から光星光星光星って言ってたもんっ!!永遠はべつに俺がいーひんかっても全然寂しくなかったんやろっ!」

「えっ…ちょっ、郁馬泣かんといて。ふふっ…」


だんだん郁馬は興奮するように話しながら、またうるうると目が潤んできてしまった。そんなに寂しかったんか…とポンポンと郁馬の肩を叩きながら慰めるが、申し訳ないことに高校生にもなって半べそかいたように涙目になっている郁馬に笑いが込み上げてきてしまった。


「ラインだってほとんど毎日してたし、ちょこちょこ電話もしてたやん?郁馬がそうやって離れてても俺に構ってくれるから全然寂しくならへんかってんで?」


自分より背の高い郁馬の頭に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃとかき混ぜながら宥めるように言ったら、郁馬はしゅんとした顔をして大人しくなった。


「郁馬お腹減ってへん?俺と光星昼ご飯まだやからこれから食べに行くんやけど郁馬も一緒に食べに行こ?」


子供みたいな郁馬の手を握って、「な?」って顔を覗き込んだら、郁馬はツンと唇を尖らせながらも小さく「うん」と頷く。そんな郁馬に、光星が優しげな笑みを浮かべている。

背丈は二人とも同じくらいやのに大人と子供みたいやなぁ。と少々失礼なことを考えていたら、郁馬は態度を改める気になってくれたのか、光星に「奥田郁馬って言います」と自己紹介してくれた。


「あ、浅見光星です。」

「ほんまにイケメンっすね…。」

「あっ…いえいえ、そちらこそ…。」

「俺より光星の方がイケメンって永遠にはっきり言われました。」

「あっ…あっ、そうなんですね…。」


ぎこちない態度で話す光星に郁馬はムッとした顔で俺にチラッと視線を向けながら、『俺そんなん言うたっけ?』と自分では全然覚えていないことを言われてしまった。

べつに郁馬と光星を比べたことなんて無かったけど、俺の中で光星は最上級のかっこよさだから『どっちがイケメン?』って聞かれて迷わず光星と答えてしまったのだろう。これは俺の返答より、それを聞いてきた郁馬が悪い。


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