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姉は侑里のことが気になってるという気持ちを一度俺に打ち明けたら、もうそのあとは吹っ切れたみたいに自分から俺に侑里の話を聞いてくるようになった。

俺に聞かずに自分でラインでもして話したらいいのに、と思うけど、部活や勉強で忙しい侑里に自分からラインを送るのは気が引けるらしい。


『そうや、俺昨日校門にめっちゃ可愛いJKが来てたって話したやん?モデルみたいな人おったって話。その人侑里の元カノやったわ。』


実は侑里には言うなって言われていたけど、ちゃっかり元カノの話は姉に全部話してしまっていた。可愛いJKを見たっていう話までしていたから、その散々容姿を褒めまくったJKがまさかの侑里の元カノだったっていう話をした時、姉は『ええっ…うそやん…』とめちゃくちゃ嫌そうに顔を顰めていた。


『侑里くんに会いに来はったん…?』

『そうみたいやな。』

『元カノ本気やん…』

『姉ちゃんも会いに行ったら?』

『男子校の校門なんかよう行かんわ…。』

『そんなん言うてたら元カノに侑里取られんで。』


その時はそう軽口を叩くように俺は姉に話していたけど、姉はすでにムッとした表情を浮かべて嫌そうにしていた。


それから数日後、侑里の元カノは再び侑里に会いに来た。

会いたくない、話すこともないと言って侑里は嫌がっているのに、そんな元カレのところへわざわざ待ち伏せしてまで会いに行く行為はストーカーと言えるのでは?という疑念を抱きながら、俺は侑里の元カノの言動を間近で観察していた。


『侑里くんテスト勉強しなやばいんで今日は諦めて帰ってもらえませんか?』

『えっ?やだ〜。侑里と話したくてわざわざ電車乗って会いに来たんだもん。

じゃあ侑里が今度デートしてくれるって言うなら今日は帰ってあげてもいいよ?』


侑里の友人として、聞き分けの悪い侑里の元カノに口出しせずには居られず、やんわり口を挟んでみたが、そっちの都合しか考えていない返事が返ってきてブチッと頭にきてしまった。


『侑里くん彼女いるんですけど。』

『はいはい、彼女ね。どんな子?ほんとにいるのならあたしも紹介してほしいな。』

『良いやん、侑里。紹介したったら?』


出任せを言ってるように思われているだろうが、俺はめちゃくちゃ本気でそう口を挟んだ。

あんなんもう彼女同然やろ。姉ちゃんがちょっとその気になったらすぐくっつくわ。って、俺は本気で思っている。


いつもより学校から帰ってくるのが遅くなり、19時前に帰宅すると姉がすでに夕飯ができるのを待っているようにテーブルに腰掛けていた。


『姉ちゃんやばいわ。侑里の元カノ今日また来た。』


帰ってきて早々、早く話したくて仕方がない奴みたいに制服のシャツのボタンをぷちぷち外しながら姉に話しかける。

『えっ、また?』と返事する姉の顔はやっぱり嫌そうな表情だった。


『姉ちゃん、侑里が元カノに迫られてるの嫌なんやったら本気でなんとかした方がいいで。デートしてくれたら今日は帰るとか言うてたしそのうちほんまにしてしまうかもしれんで?』


いや、侑里のことやから絶対しいひんやろうけど。っていう確信はあるものの、敢えて姉を焦らすような事を言う。焦ってさっさと付き合ったらいいねん。そしたら侑里ももう元カノに付き纏われんで済むかもしれんし、姉ちゃんも要らん心配せんでいい。


俺はそれだけ言い残してからリビングを出て、脱いだシャツに八つ当たりするように洗濯機の中にぶち込んだ。


“『香月と連絡取りたいから連絡役になってくれ』”!?お前誰に何を頼んでんねん、他のそこらへんの男には何しようとこき使おうと好きにしたらいいけど、光星だけはあかん、っていうか俺のやし!二度と近付かんといてくれ!!


『ああっほんま腹立つ!!』

『ちょっと!?あんたなに洗濯機蹴ってんの!?壊れたら自分で弁償しぃや!?』

『うるさいな!こんなんで壊れへんわ!!』


運悪く洗濯機に八つ当たりしているところを母親に目撃されてしまい、そのあとちょっと口喧嘩になってしまった。これも全部、侑里の元カノが悪い。


その後お風呂に入り、夕飯を食べた後、部屋で勉強していたら姉が部屋に入ってきた。


『永遠ぁ〜…テストいつ終わんの?』


ごろんと俺のベッドに寝転びながら聞いてきたことは、姉にとってはどうでもいいはずのテストの予定だ。


『ん〜…来週の木曜とかちゃう?なんで?』


姉の質問に答えた後聞き返したが返事はなく、姉の様子を見るためにチラッと振り向けば、姉は無言でスマホを弄っていた。自分から聞いといて無視すんな。


『侑里のこと気になるん?今度一緒に勉強する約束してるしあいつ家来よるで?』

『いつ?』


うわ、反応はっや。気になりまくりやん。

『土曜か日曜』って答えたら、姉はバイトのシフトを確認しているのか『土曜バイトや…』と落胆するような態度を見せてきた。


『ほな日曜にしてあげるわ。』


そう言った瞬間、パッと嬉しそうな顔をする。姉ちゃん分かりやすいなぁ。侑里に会いたかったんやろ。


『もう好きなんやったらさっさと告って付き合ったら?』

『…まだ早ない?』

『早いってなに?じゃあいつやったら良いん?』

『…んん、もうちょっとお互いよく知ってから…?』

『そんなん言うてるうちに元カノに心変わりしても知らんで。』


いや、あの嫌い方からして絶対ないやろうけど。って分かっていながら、また俺は姉を焦らせる。そしたらほんとに焦ったような顔をして、『それは嫌…』と呟いた。


『早いとか遅いとか関係ないで。姉ちゃんが好きかどうかやろ。』

『……好き。』

『ほなもう答え出てるやん。今度侑里と二人の時間作ってあげるしもうさっさと告って付き合って。ほんで元カノに侑里の口から堂々と「彼女いる」って言わせたげて。』


とにかく俺はもうこれ以上侑里にあの元カノが付き纏ってくるのが嫌で嫌で、姉に早く付き合えさっさと付き合えと促すような事を言いまくる。

すると姉は『うん…』と小さく頷き、『ほなそうしよかな…』と口に出しながら悩んでいた。


そうしよかな、じゃなくてさっさとしろ。

…って、いらちな俺は口に出しそうになったけど、そこはグッと我慢した。


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