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昨日姉としていた話を翌日の昼休み、食堂の俺の正面の席でカレーを口に入れようとしていた侑里に問いかけてみた。


「なぁ侑里、姉ちゃんが勉強教えてくれるって言うたらどうする?」

「えっ、……勉強?」


返事に悩んでいるのかパクリとカレーを食べた後、もぐもぐと口を動かしながら侑里は黙り込んでいる。


「あ、昨日ちょっと姉ちゃんと話してん。」

「なに話したん?」

「まあそれはちょっと伏せるけど。最終的に侑里があほっていう話になって終わったわ。」

「はっ!?なんでやねん!!!」


食堂に響き渡る侑里のでっかい『なんでやねん』の声に、周囲のテーブルに座っていた人や、横を通りかかった人からの視線が突き刺さってしまった。


「……お前でっかい声でなんでやねん言うなや…恥ずかしいやんか…。」

「あ、ごめん。」

「ふふっ…」


ぺしっと侑里の頭を叩きながら注意する俺に、光星が笑ってくる。関西を出ても普通に関西弁で話してしまっているものの、公共の場ではちょっと気にしてしまい、自分が『なんでやねん』と言ったわけでもないのに俺はひゅっと身を縮こまらせてしまった。


「永遠と喋ってると俺の中の関西人魂が呼び起こされんねん。」

「侑里ってあんまり関西弁喋らん方が良いかも。ほんまにあほそうに見える。」

「あほそうじゃなくてあほやねんで?」

「知ってるけど。それ自分で言うんや。」


真顔であほなことを認めてしまっているあほな侑里に、光星がひたすらクスクス笑っている。光星はよく侑里の言動にツボっているから、そのまま侑里には光星の笑かし役でいてほしい。


「でも永菜にあほって思われるんは嫌やな〜。」

「じゃあもし姉ちゃんが勉強教えてくれるって言うても断る?姉ちゃん俺より頭良いで?」


あ、黙り込んだ。悩んでる悩んでる。

…と思ったけど、その後侑里は「勉強は永遠に教えてもらいたい」と返してきた。やっぱり勉強に苦戦している姿は姉には見られたくないのかもしれない。


「ふぅん、ほなまたテスト期間入ったら一緒に勉強しよか。」

「うん。永遠んち行きたい。」

「ええよ。いつでも来て。」


姉ちゃんに内緒で侑里を家に呼んだらどんな反応されるやろ。嫌がられるかな。……っていう話は、食後侑里とは別れて光星と教室に戻ってきてから話した。

あんまり姉の話は侑里の前ではしないようにしようと思ってるのに、すぐにベラベラ喋ってしまいそうになるのは俺の悪い癖である。


テストが近いため放課後になると光星と一緒に教室に残って勉強をしてから帰っているけど、同時に夏休みも近付いてきているため、二人で京都に行く予定も本格的に立て始めた。

高校生だけでも親の同意書があればホテルや旅館に泊まれるから、もうすでに親にはばっちり許可をもらっている。俺の場合は郁馬に会いに行くって言うだけで一発オーケーだ。


机を二つくっつけて、その上に京都の旅行パンフレットを広げて、ホテルか旅館どちらにしようか光星と考える。


「光星旅費いくらなん?」

「特に決まってねえけど永遠くんは?」

「俺は光星に合わせるよう言われてる。なんか俺が無理矢理光星を連れてくみたいに思われてんねん。行き先が京都やから。」

「え〜、そんなことねえのに。楽しみだよ。」

「俺も楽しみ。一緒に旅館のお風呂入る?」

「えっ…。」


唐突に俺が言った発言に光星がちょっと顔を赤くして固まった。くくくっ…おもろ、大浴場とかやったら普通に一緒に入んのにどんな想像したんかな〜?


光星はそのまま暫く黙っていたので、俺は一人るんるんと愉快な気持ちになりながらパンフレットをペラペラと捲った。


空の色が薄暗くなる前に帰る支度をして、外に出ると部活動を行なっている賑やかな声が聞こえてくる。グラウンドをチラッと覗くと、今日も侑里が頑張って練習している姿があった。


「侑里頑張ってるなぁ」と光星と話しながら駐輪場へチャリを取りに行き、学校を出ると、どこかの学校の制服を着て、短いスカートを穿いたJKが男二人を連れて校門横に立っていた。


「なんじゃありゃ」と小声で話しながら、横目でJKを観察する。よく見たらかなり綺麗な顔をしていて、ちょっと染めたような茶髪はとぅるんとぅるんしている美人なギャルだ。


「えっ、やばっ、めっちゃ可愛い!!」


そんなことを言いながら俺はジッ…とその女の子から目を逸せなくなっていたら、横から光星の「オホン」と咳払いしてくる声が聞こえてきた。

俺はハッとしながら光星の方に目を向ける。


「おい!お前なに見惚れてんねん!!」

「いや見惚れてたの永遠くんだろ!?」


…おお、そやったそやった、ごめんごめん。

光星の素早い返しに俺はへらっと笑ってはぐらかす。『光星くんはJK見たらあかん。』とか日頃からよく言っておいて自分はバッチリ見てしまった。


「誰か待ってんのかな。」

「まぁそうだろうな。」

「光星あんな子はタイプ?」

「いや?ぜんぜん。」


おお、光星くんはっきり頷いてくれたな。ありがとう。光星がそう言ってくれるなら俺は安心やわ。


「どこの学校の制服やろ。可愛いなぁ。」

「……永遠くん?」

「あ、ごめん。見過ぎてしもた。」


校門を通り過ぎた後もまだ興味津々で振り向いてJKを見ていたら、不機嫌そうな声で光星に名前を呼ばれてしまった。


「永遠くんはあんな子がタイプなんだ。」

「え、ちゃうで。一般的に見た感想言うただけやで。俺転校してきて光星初めて見た時の方が今よりチラ見しまくってたで。」

「…えっ、…そ、そっか…。」


光星が拗ねるような態度で『あんな子がタイプ』なんて勘違いしているような事を言ってくるから、素直に本当のことを言ったら、すぐに顔を赤くしながら照れて大人しくなった。


突然男子校の校門横という場違いな場所で美人JKを目にしてしまったから、学校帰りにしばらく光星とそんな会話が続いたが、俺たちはその翌日、あの美人JKがなんであの場に居たのかを、ひょんなことから知ることになる。


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