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『あ〜ん、侑里かっこいい〜。もっかいやり直したいよぉ〜…。あたしのこと今どう思ってるだろ?久しぶりに会ったらまた気が変わってくれないかな?』
決勝戦の日、観客席で連れの男の人たちとそんなことを話している美人で可愛い女の子が居た。私は聞き間違いかと耳を疑った。でも、何度聞いても彼女の口からは『侑里』という名前が聞こえてくる。
私は、彼の“元カノ”らしき存在を目にし、モヤッとした嫌な気持ちになってしまった。
…ふーん、侑里くんああいう子が好きやったんや。なんか嫌やな。もう別れたんやったら近付かんといてほしいな。侑里くんに話しかけんといて。
私が話しかけに行くから、あんたは早く帰って。どっか行って。
気付いた時には私の胸の中には、絶対に口には出せないような、そんな真っ黒な感情が広がっている。
何様やねん私、侑里くんには可愛げのない態度ばっかり見せてるくせに…って、自己嫌悪する。人には見せられない、自分だけが知ってる醜い感情がどんどん胸の中に溢れまくる。
…心の中ではそんなことを考えているくせに、結局試合後、侑里くんに声をかけることはできなかった。元カノが見ているところでわざわざ話しかけに行くほどの度胸は私には無かった。
家に帰って弟から試合のことを聞かれた時は、べつに全然気にしてません、っていう態度を装いながら口を開く。
『今日侑里くんの元カノ見に来とったで。』
ほんとはめちゃくちゃ気にしてるくせに。
ほんとは『試合おつかれ』『準優勝おめでとう』って話しかけたかったのに。そうしたらめちゃくちゃ嬉しそうな返事が返ってくるのを知ってるから、私は彼の嬉しそうな顔が見たかったのに。
でも、彼のことを気になってるのが弟にバレるのはやっぱり恥ずかしい。ラインもしたかったけど、永遠から『姉ちゃんもなんかライン送っといたげてな』って言われた瞬間、咄嗟に照れ隠しで素っ気ない返事をしてしまったから、もう素直にラインなんて送れないかも。
そんな素っ気ない態度ばかり取っている私に、永遠は残念がるように口にする。
『……侑里元気無かったから、姉ちゃんが励ましてくれたらすぐ元気出ると思うねんけどな…。』
きっと決勝で負けて悔しい思いをしてるのだろう。そんな友達を、永遠は心配している。
私が励ましたら元気出る?…ふぅん、じゃあ、べつにラインくらいならしてあげても…。
弟の気持ちを考えてやっているように見せかけて、その気持ちを利用するように、私はスマホを手にして侑里くんとのトーク画面を開いてみる。ほんとは自分がラインを送りたいだけのくせに、ずるい女だ。
どうしよう、送ろうかな。まだ今はやめとこうかな、明日にしようかな。それとも侑里くんの方から何か送ってきてくれるかな。
…でも、恋愛はタイミングが大事。
この時間を逃しているあいだにもしも侑里くんが元カノとやり取りをしているとしたら。また元カノに気持ちが傾いてしまったら、そんな想像をして私は、“嫌だ”と思ってしまっている。
私は自分が後悔しないためにも、今自分から送らなきゃいけない。そう思って、スマホ画面に文字を打ち込んだ。
私の言葉で侑里くんが元気を出してくれるなら嬉しいから。
随分時間は経ってしまったけど、ちょっとずるいけど弟の言葉を利用して、私は夜、侑里くんにラインを送った。
【 永遠が心配してたよ
準優勝も立派やから元気出してね 】
侑里くんはいつこのラインを見るだろう、
いつ返信が来るだろう、
なんて返ってくるだろう…
その夜、そんなことばかり考えていたら、全然寝付けず、朝が来てしまった。
自分が眠っているのかもよくわからないふわふわした眠気を伴う状況の中、枕の隣に置いていたスマホが震えた。その瞬間にハッとして、一気に目が覚めた。
そう言えば、夜に侑里くんにラインを送ったんだった。
寝起きの寝惚けていた頭ですぐにトーク画面を開いてしまい、あまりに早く既読をつけてしまった自分に恥ずかしくなる。まるで彼からの返信を待ち侘びてしまっていたかのよう。
【 ありがとう!永菜からのライン見たらすぐ元気出た! 】
【 永菜ちゃんに会いたいな 】
【 ごめん、起こした? 】
彼は一気に3通ものラインを送ってきた。
私はクスッと笑みが溢れる。
私からのライン嬉しかった?どんな顔をして朝からこのラインを送ってるんやろ。顔を見て、侑里くんと話がしたい。
私もこの時、侑里くんに“会いたい”と思ってしまった。
でもそれを永遠に知られるのは恥ずかしくて、【 永遠に内緒にしてくれるならご飯行ってもいいよ 】なんて、ずるい条件を出してしまった。
永遠ごめん、私永遠の友達のこと気になってる。でも、それを永遠に悟られるのは恥ずかしい。
会って何話したかとか、何食べたかとか、永遠に聞かれるんは気恥ずかしいから、内緒にさせて。
弟に対して少し後ろめたさを感じるものの、侑里くんと会う約束をした私は、その後そんな気持ちが薄れるくらい、そわそわした。
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