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永菜と一緒にいる時は、ずっと夢心地状態だった。永菜と別れる時までは、永菜のことしか見えていないくらい、頭の中は永菜のことでいっぱいだった。

でも永菜と別れて、数時間ぶりに見た自分のスマホには浅見からラインが届いていて我に返る。


【 永遠くんのお姉さんが可愛い恰好して出掛けていった 】


そうだ、浅見は今日永遠の家に来てるんだ。
じゃあ、永菜が出掛けて行ったことも知っている。

このラインは多分、永菜がどこかに誰かと出掛けてしまったかもしれないという俺への危機を知らせてくれているライン。

負い目を感じるものの、永菜と会っていたのは俺だということは絶対話せない。なんとか誤魔化そうと、浅見への返信は知らないふりをするような言葉を返してしまった。


翌日学校に行き、浅見と歩いている永遠の後ろ姿を目にする。


『なぁ永遠聞いて、昨日永菜が俺とご飯行ってくれた。いっぱい喋ってくれてちょっと仲良くなれた。嬉しい。永菜は俺のことどう思ってくれてるんやろ?ちょっとは期待しても良いんかな?』


そんなふうに、永遠にいっぱい聞いて欲しいこと、話したいことがある。でも残念なことに、永菜との約束を守ろうとすると、永遠には何も話せない。


そして昨日浅見からあんなラインが届いたから、当然永遠も永菜の行動を気にしていた。気にしているどころか、永遠は永菜が一緒に出掛けた相手を俺かもしれないと疑うような態度まで取ってくる。

察しが良すぎて、ヒヤヒヤしてしまった。

俺はなんとか誤魔化そうと、言葉を探して永遠に返事をする。永遠に本当の事が言えないのは、嘘をつくのは、結構しんどい。


永遠は永遠、永菜は永菜。これからは姉弟という繋がりを考えないようにして二人と接しよう、なんて昨日は思ったのに、それは結構難しいことだった。


そんなジレンマのような状況に陥っていた時、浅見が俺の話を聞いてくれた。…というか、浅見にはもう俺が昨日永菜と会っていたことは気付かれてしまっていたみたいだ。

それをいいことに、浅見には永遠には言えないことも聞いてほしいことも全部話した。

そうしたら、あほな俺には思いも付かなかったアドバイスを俺にくれる。


『いきなり隠すんじゃなくて、一言“表明”って感じで話すのはどうだ?そしたら、永遠くんももう香月の恋愛のことはノータッチでいいんだ、って思うだろ?』


その言葉を聞いた時、自分がめちゃくちゃ身勝手なことをしている事に気付き、一気に永遠への申し訳なさで溢れた。

永遠は俺を家にも呼んでくれたし、永菜とのラインの仲介役もしてくれたし、俺の協力をいっぱいしてくれていたのに。

いきなり永遠の前では永菜のことに触れず、話さなくなることの“不自然さ”に気付いていなかったバカな自分にも気付かされてしまった。


だから浅見に言われた通り、俺はちゃんと、永遠に話そうと思う。



「なぁ永遠、聞いてほしいことあんねん。」

「ん?なに?」


永遠に話すタイミングを探していたら1日経ってしまった。声はかけたものの、なんて話そう。

『永遠今まで俺の恋に協力してくれてたけどもうええわ。』……って、いやいや、俺何様やねん。なんか偉そう。これはあかん。

『永菜が嫌そうやから永遠にはもう永菜のこと話さんようにするわ。』……うーん、これもなんか違う。上から物言ってる感ある気がする。俺は永遠から恩恵を受けていた身やのに。

『これからは永遠の手を借りんように、自分の力で永菜のこと頑張りたい。』…んー、俺が言いたいのは多分こんな感じの事。

あれこれ言葉を考えてみてもなんかどれも上手く伝えられる自信が無い。

“永遠に内緒にしてくれるなら”…その永菜の言葉が頭にこびりついてて、どこから永遠に話したらいいか分からん。自分があほすぎてちょっと泣きそう。


言葉に詰まっていた俺の顔を、永遠はチラッと覗き込んできた。そして俺が話し出す前に、先に永遠が口を開く。


「姉ちゃんのことやろ?」

「あ…、うん。」

「俺には姉ちゃんとのこと隠しといてって?」

「え…あっ、…いや…」


そう、…やけど、永遠そこまで察してたんか。
それとも浅見に何か聞いたのか…俺が話そうとする前に永遠に言われて動揺するような態度を見せてしまった。

そんな俺を見て、永遠がふっと笑みをこぼす。


「あのさぁ、言おうか迷ったけど侑里とこういう話もできひんかったらなんか俺らの間に溝ができてしまいそうやし言うていい?キミらの態度分かりやすすぎんねん。姉ちゃん俺のことちょっと避け気味やし、侑里は姉ちゃんの話一切しんようになるし。別にいいけどな?俺は。俺が間に立ってると邪魔やもんな。」

「えぇっ…!そんなことあるわけないやん!!」


最初は笑顔で話していた永遠だが、徐々にその表情は歪み始めてしまい、最後には眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔になった永遠を慌てて抱き寄せて機嫌を取るようによしよししてしまった。


「ごめんな、俺が悪いねん…!」

「俺は侑里が悪いとも思ってない。姉ちゃんが悪いねん。」


永遠の顔色を窺いながら口を開くと、永遠からはツンとした態度でそう返ってくる。


「別に侑里のこと気になってるんやったらそう言ったら良いねん。会いたかったら会ったらいいし、俺はべつにそれ聞いても『侑里良かったなぁ』で終わる話やんか。」

「んん…、でもほら、気恥ずかしさとかあるんちゃうん…?家族にそういうこと知られんのは…な?」


…え、永菜ちゃん俺のこと気になってくれてるん?…会いたいって思ってくれてんの…?

全然そんな喜べる雰囲気じゃないから顔に出すわけにはいかなかったけど、内心そんなことを考えドキドキしてしまった。


「そやから俺はそう思って黙っといてあげてんのにあんまりあからさまな態度取られたら腹立ってくんねん!!侑里くんかっこいいなぁ!好きになってきたわ〜!今度デートしてくるわ〜とかいつもの調子でぶっちゃけてくれた方がマシやわ!!」

「…ん、んん…。」


な、…なんか永遠むっちゃキレてるし…。
…え、これ俺じゃなくて永菜にキレてるんやんな?
てかもうほとんどバレてたんや…。
隠せてる気になってた自分が恥ずかしい。


休み時間にスポクラと特進の間の廊下で話していたもんだから、キレた永遠のでかい声が廊下に響く。

傍から見たらまるで俺と永遠が喧嘩してるように見えてしまいそうで、宥めるように永遠の頭に手を置いてよしよし髪を撫でていたら、特進の教室から浅見がこちらを気にするように顔を見せてきた。


「…大丈夫か?」

「あ、大丈夫やで。」


浅見の声に、すぐに永遠はにこっと笑みを見せながら返事をする。


「姉ちゃんがあかんねん、俺によそよそしい態度見せてくんのは意味がわからん。隠すんやったら徹底的にやれ、それができひんねやったら隠すなや!」


でもまたすぐに永遠は怒り口調でそう言いながら浅見のいる方へ歩いていく。永遠が教室に戻って行き、呆然としながら廊下に取り残された俺に浅見が苦笑いを向けてきた。


『隠すんやったら徹底的にやれ、それができひんねやったら隠すなや!』という言葉が、俺の胸にも突き刺さる。これは俺にも言えることだ。


「うわぁ…まじか。バレてたんや…。」


ぼそっと呟く俺に、浅見が廊下に出てきてポンポンと俺の肩を叩いて慰めてくれる。


「多分、永遠くんから見てて分かりやすいのはお前よりお姉さんの方だったみたいだな。」

「…俺どうしたらいい?」

「んー、香月は普通にしてたら良いんじゃねえの?永遠くん今はただお姉さんに怒ってるだけみたいだから。」

「…永菜大丈夫かな。永遠めっちゃキレてたやん…。」

「永遠くんお姉さんに怒ってる時はいっつもあんな感じだから大丈夫だろ。」


浅見はそれだけ言い残してから、また教室の中に帰っていった。…そう言えば、永遠の家に行かせてもらった時もなんか永菜にキレとったかもな…。

そんな少し前のことを思い返しながら、俺も自分の教室に戻る。


俺のことが原因で家で姉弟喧嘩せんとってな…って、俺は祈ることしかできなかった。


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