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【 永遠が心配してたよ
準優勝も立派やから元気出してね 】
試合があった日の夜、永菜からそんなラインが届いていた。でも日付が変わる前くらいの時刻だったから、疲れていて俺はとっくに眠っていた。
翌朝起きた時にそのラインに気付き、嬉しくて飛び起きる勢いで目が覚める。
“永遠が心配してた”って、あいつ一体何言うたんや…?と思いながらも、きっと俺のために永遠が永菜に何か言ってくれたに違いない。友人の心配りに感謝しながら、早朝にも関わらず永菜に返事を送ってしまった。
【 ありがとう!永菜からのライン見たらすぐ元気出た! 】
準優勝で落ち込んでいたわけではない。サッカーのことは、すでにもう次の大会に向けて切り替えている。昨日の決勝戦を経験し、チームはさらに強くなれる自信がある。
準優勝のことではなくて…、俺の元カノの登場に、また永菜の中で俺の印象が悪くなっていないかを心配していたのだ。
【 永菜ちゃんに会いたいな 】
もう一度会って、顔見て話したい。
試合を見に来てくれたお礼を言いたい。
ダメ元で送ってみたラインに、既読がついたのはすぐだった。午前6時15分、俺のラインの通知で永菜の睡眠の邪魔してしまっただろうか。
【 ごめん、起こした? 】
また続けて送ったラインにもすぐに既読がつく。
あんまり続けて送るとうざがられるかもしれないと思い、一旦画面を閉じてスマホを置いて目を閉じると、その5分後くらいにブブッと俺のスマホが振動した。
すぐにまた目を開け、スマホを手に取る。
【 うん、起こした 】
返ってきたのはそんな返事で、ほんの少しだけ申し訳ないと思いつつも返信が嬉しくて頬が緩む。
ごめん、ってまた返そうとしていたら、続けて永菜からのメッセージが画面に表示され、目を見開いた。
【 永遠に内緒にしてくれるならご飯行ってもいいよ 】
“永遠に内緒にしてくれるなら”
永菜からのそんな条件に、一瞬俺は永遠の顔を思い浮かべるも、これで断るという選択はあり得ないため、すぐに【 内緒にします 】と返信した。
永遠に内緒にしたい理由…それは、永菜にしか分からない事だけど、弟に話したくない事だってそりゃあいっぱいあるだろう。でも俺とのことはいつでも永遠にはだだ漏れだ。だから、そういうのが嫌で弟の友達が恋愛対象外だという人だって多分いるはず。
そう考えたら、“永遠に内緒にしてくれるなら”という永菜からの条件は、俺の恋が一歩前進した気がした。
幸い今日は部活が休みだった。
昼に永菜と会う約束をして、朝から浮かれた気分で朝食を食べる。食堂から自室に戻ってくると、永遠からラインが来ていることに気付いた。
【 侑里今日休み?俺の家遊びに来る? 】
それは、永菜のバイトが休みなことを知っていて永菜が家に居るだろうから、とわざわざ誘ってくれたんだろう。永菜からのラインが無かったら飛びついている誘いだ。
永遠のありがたい誘いに感謝しながらも、【 ありがとう!でも用事あるねん… 】って返事をしたら、しょんぼり落ち込んでいるような顔をした猫のイラストのスタンプが送られてきた。
永遠かわいいなぁ、ありがとう。
永遠は永遠として俺の大事な友達。好きな人の弟ではなく、永遠は永遠。永菜は今まで“永遠の姉”っていう見方が強かったけど、これからは“俺の好きな人”っていう単体の意味だけで永菜のことを見たい。
それが、“永遠に内緒にしてくれるなら”って言ってきた永菜への、俺なりの気持ちの返し方。
永菜が指定してきた待ち合わせ場所は、多分永遠の行動範囲では無い場所だろうとすぐに気付いた。学校とは真逆の、永遠の家から2つ目くらいの駅だったから。
待ち合わせ時刻である正午より前に到着する電車に乗り、ホームの椅子に座っていたら、数分後に電車から黒いシャツに白いロングスカートを穿いて、サラッと髪を靡かせた永菜が降りてくる。耳元にキラッとしたものが光っているのはイヤリングだろうか。
バイト中の姿、家に居た時、それから、試合を見に来てくれていた時とは雰囲気が違いすぎる永菜の姿に思わず見惚れてしまっていたら、永菜は俺に気付いて少し笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
「ごめん、お待たせ。」
「…ううん。来てくれて嬉しい。
いつもかわいいけど今日特にかわいいな。」
口に出さずにはいられない俺の本音の言葉に、永菜はちょっと恥ずかしそうに下を向いた。もしかして照れてくれてるん?それやったら嬉しい。
「さっき家に光星くん来てはったわ。あの二人めっちゃ仲良いなぁ。」
永菜は俺との会話に困ったのか、そんな弟たちの話を口にしてきた。
「うん、永遠俺も誘ってくれたで。」
「そうなん?」
「用事あるって言ってしもた。」
目の前にかわいい永菜がいるだけで頬が緩んでしまい、締まりのない表情で話す俺に永菜はクスッと笑ってきた。
「私と会ったって永遠に言わんといてな。」
永菜は念を押すようにそう言って、改札口へと続く階段を降り始めた。俺もその後に続き、永菜の横を歩いて話しかける。
「永遠に俺とご飯行ったの知られるの嫌?」
「うん、嫌。」
「分かった。じゃあ言わん。」
俺がそう返事したあと、永菜は少し黙り込んだ。俯き気味に歩き、会話がないまま改札を抜ける。永菜が今なにを思っているのか気になって、横目でこっそり永菜の横顔を観察する。
「ご飯なに食べたい?」
そしてパッと俺を見上げてきたと思ったら、永菜は俺にそう問いかけてくれた。
「永菜なに食べたいん?」
「私はなんでもいいよ。あ、でも激辛とかは無理やけどな。」
「それは俺も無理やわ。」
永菜との貴重なご飯の時間に激辛食ってヒーヒー言いたくない。笑いながら返事をすれば永菜もクスッと笑ってきた。
今日は永菜がよく笑顔を見せてくれる。
バイト中の愛想笑いでも無い、自然な笑みを見せてくれているように思う。俺はそれが嬉しくて、気持ちがどんどん舞い上がる。
「ほなバイキングにしよ。今日はお祝いに私がご馳走してあげるわ。」
「えっ…」
永菜はそう話しながらスマホを取り出し、店の場所を調べ始めた。ご馳走…してくれるのは、嬉しいけど。
「…なんか、俺のが年下感あって嫌やな。」
「なに言うてんの、年下やろ。」
ぐうの音も出ない事実に黙り込んでしまうと、永菜はまたクスッと笑ってきた。
「お祝いやって言ってるやん。年は関係ないって。」
……それ永菜が言ってくれるんや。
『年は関係ない』っていう永菜の口から出た言葉が、俺はめちゃくちゃ嬉しかった。
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