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【 永遠くんのお姉さんが可愛い恰好して出掛けていった 】
香月に送ったそのメッセージに返信が来たのは、俺が永遠くんの家から自宅に帰ってきた頃だった。
【 可愛い恰好!?永菜どこ行ったん? 】
香月からの返信は、お姉さんと出掛けた相手が香月ではないとすぐに分かる内容だった。
…となると、怪しいのは兄とトウヤくん。
でも兄はお姉さんと出掛けるとなると俺にアドバイスとか求めてくるなりしてくると思うんだよなぁ。と考えながらトントンと兄の部屋をノックしてみたが応答は無い。バイトかなぁ。
気になりながら兄の帰りを待っていたら、兄が帰ってきたのは夜になってからだった。
風呂に入って出てきた時、兄が晩ご飯を食べている姿を見て、「今日バイトだった?」と聞くと、兄は寝そうになりながら半目で「うん」と頷く。どうやらかなりお疲れのようだ。
「トウヤくんって今日出勤だった?」
続けて問いかけると、兄はまた半目になりながらさっきと同じように「うん」と頷いてきた。おお、二人揃って出勤だったのか。…いやいや、ほんとに?兄貴疲れて適当に頷いてないか?
香月も違う、兄貴も、トウヤくんも違う。
じゃあ学校の知り合いとか?
…うーん、さすがに俺がこれ以上考えたところで永遠くんのお姉さんのことを分かるわけがない。
そもそもほんとに相手は男なのか?
永遠くんの考えすぎな気もする。
翌日の登校中、永遠くんに兄もトウヤくんもバイトだったことを伝えたら、すぐに「じゃあ侑里は?」と返された。
「どこ行った?って逆に聞かれた。」
「ふぅん、じゃあ可能性ある人全員違うんや。」
「家帰ってきてからのお姉さんはどんな感じだったんだ?」
「んー、べつに普通やったかなぁ。ご飯食べてすぐ部屋行ったからよく分からん。」
「じゃあ普通に女友達だったのかもな。」
俺がそう言ったら永遠くんは、まだ「んー」と納得していなさそうな表情を浮かべていた。
「永遠〜浅見〜おはよう!」
学校に到着し、永遠くんと廊下を歩いていたら、香月が背後から明るく挨拶してきた。
「おー、香月おはよう。」
「あ、侑里おはよう。なんや元気そうやん。」
「え?おう、元気やで?」
香月がそう返事した瞬間、永遠くんは眉間に皺を寄せ、「ん〜?」と香月の顔をまじまじと見始めた。
「ん?なんや?」
「なんで元気なん?」
「えぇっ!?」
突然訝しむように永遠くんから“元気”なことを指摘され、香月は顔を引き攣らせながら声を上げる。
「俺と電話したとき元気なかったのに。」
「あぁ!あのあと永菜がラインくれてん!永遠永菜に何か言うてくれたやろ?」
「あぁ、そういうことか。うん、言うた言うた。ふぅん、姉ちゃんあのあとラインしたんや。よかったなぁ。」
香月の話を聞き、その後永遠くんは納得するように頷きながら香月にそう言うと、香月は永遠くんに向かってにっこり嬉しそうに笑って「永遠ありがとう。」とお礼を言うのだった。
「昨日はどこ行ってたん?」
「昨日?友達と飯食いに行ってた。」
「そうなんや。友達って誰?」
「…誰?…って、…サッカーの友達。」
「ふぅん。」
しかしまだ永遠くんはお姉さんのことが気になっているのか、面白いくらい香月にぐいぐい聞いてるから笑いそうになる。まるで彼氏の浮気を疑う彼女のようだ。もしかしてまだ香月のことも疑ってるのか?
「なんでそんな俺のこと気になってんねん、もしかして永菜が俺のことなんか言ってた!?」
「いや違う、俺はその永菜が昨日誰と出掛けたかを気になってんねん。」
「……永菜誰かと出掛けたん?」
「だからそれを今探ってるんやんか。」
「……かわいい恰好してたんやろ?」
「せやで、姉ちゃん普段デニムパンツやのにスカート穿いてイヤリングまでつけてたし。」
「……ふぅん、……絶対かわいいやん。」
永遠くんの言葉にやたら落ち着きある態度で頷き、そう口にする香月の顔を、永遠くんは観察するように横目でジッと見つめていた。
しかし香月は伏し目がちだったから永遠くんの視線には気付くことなく、すぐに俺たちの教室前まで辿り着いたから、「じゃあな」と手を振りながらスポクラの教室の方へ歩いて行く。
「……確定やわ。」
「ん?なにが?」
「昨日姉ちゃんが出掛けた相手。」
「……へっ?」
永遠くんは香月が去って行った方向にジッと目を向けたまま、ボソッと口にした。確定?なんで?どこでそう思った?
確かに、お姉さんが男と出掛けていった可能性があるというのに取り乱すことなく落ち着いているなぁとは俺も思った。でも、『確定』と言えるほどの理由は何?
そう気になっていたら、永遠くんは低い声で、少し怒っているようにも思える態度でまたボソッと口を開いた。
「普段デニムパンツやのに言うた瞬間あいつニヤッて顔にやけよったで。」
それを聞いた瞬間、思わず俺は「ぶふっ…」と吹いてしまった。香月がにやけてたというのが本当だとしたら、それは“香月と会うために”お姉さんが可愛い恰好をしていたということを香月自身が分かっているからだ。
「まじか。」
「…ふぅん、分かった。そういうことか。俺には内緒にしとけってか。」
永遠くんは納得したようにそう口にすると、不機嫌そうに顔を顰めてしまった。
「…香月に怒ってんの?それともお姉さん?」
「いや、俺怒ってへんで。」
……いや、普通に怒ってそうだけど?
でもそう思った瞬間、永遠くんは作り笑いするように俺を見上げてにっこり笑った。
「姉ちゃんが俺に隠したい気持ち分かるもん。せやし俺はもう黙っとくわ。」
隠されて怒ってはいるけど、隠したい気持ちも分かる。だから怒りは引っ込め、笑みを浮かべる。そんな永遠くんの気持ちを察して、俺はいい子いい子と永遠くんの頭をぐりぐり撫でた。
香月の協力してあげてたけど、いきなり隠されるのはちょっと悲しいな。でもお姉さんの気持ちを考えたらしょうがない。
「永遠くんは優しいなぁ。」
「俺は気付いてへんフリしとくから光星が探り入れといてくれる?侑里と姉ちゃんどうなってんのか普通に気になるし。」
「…ふふっ、…うん分かった。」
永遠くんの頼みは断れない。
それに香月が永遠くんに話せないなら、探りとかではなくこれからは永遠くんの分まで、俺が香月の話を聞こう。
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