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「侑里8番に話しかけられてたな。何喋った?」
「次は俺が全国行くって言うといたわ。」
「ふはっ…!まじか。」
試合後玲央とベンチに向かいながら8番とのやり取りのことを聞かれそう答えたら、玲央に吹き出され笑われた。いやいや、俺はめちゃくちゃ本気で言っている。
「それにしても前半のシュートは決まって欲しかったなぁ。」
「あぁ、あれなぁ…。相手まじで上手かった。今までの相手だったら普通に決まってたもん。」
「ほんま上手かったなぁ。悔しいわ。」
「うん。すげえ悔しい。」
玲央と水分補給をしながら試合内容を振り返って話していたら、ベンチ入りしていた1年がトントン、と控え目に俺の肩を叩いてきた。
「あの、香月先輩、呼ばれてます。」
「ん?なに?」
振り向いたら、後輩が観客席の方を指差して俺にそう教えてくれる。
もしかして永菜か!?と期待して見上げた俺だったが、そこに居たのは俺の予想もしなかった2年ぶりくらいに見た人物だった。
「侑里久しぶり!」
甲高い声で名前を叫ばれ、すぐに隣にいた玲央に「誰?」って聞かれてしまった。……最悪だ。なんであの人がここに居るんだ。
咄嗟に思ったのは“永菜に見られたくない”ということだったが、チラッと永菜が座っていた場所を確認するとまだそこには永菜が一人静かに座っている。
こんな時に限ってさっさと帰っていなかった永菜に『なんでまだ居るんだ』と思ってしまった。嬉しいことのはずなのに。
他校のマネの子でもない、新たに登場してしまった人物は、俺の中学時代の元カノだ。これじゃあ俺がまじで軽い奴みたいに見られてしまう。
「帰れって言ってきて。」
後輩にそう伝言を任せてグイッと背を押したら、「えっ」と戸惑いがちに後輩は元カノの方に歩いて行った。それ以降もう俺はそっちに一切目を向けず玲央と喋っていたら、また後輩が来て「待ってるそうです」と伝えてくる。
「…え、ほんとに誰?」
「中学の時の元カノ。」
「……まじか。」
再び玲央から聞かれた問いかけに嫌々答えると、玲央は俺の気持ちを察してくれたのか苦笑いする。
もう一度永菜の方を確認したらそこにはもう永菜の姿は無く、さっさとここから立ち去る支度を済ませて飲み物が入ったボトルを持ちながら、仕方なく元カノの方に歩み寄った。
何も言わずに見上げたら、「お疲れ様、見てたよ。」と声をかけられる。
「なんで居んの?」
「決勝戦って聞いたから。」
そう言いながら後ろに居る連れを指差す元カノ。そこには、俺の中学の頃の先輩が3人座っていた。先輩たちは俺と目が合うとひらりと手を振ってくる。
一時はお世話になっていた先輩だから、無視するわけにもいかず軽く頭を下げて挨拶すると、「芽依(めい)のこと無視してやんなよ〜」と笑いながら言ってきた。
『芽依』というのは元カノの名前のことで、性格はさておき顔が美人だったから元カノの周りには男が多い。中学時代はそんな先輩に魅了されていた一人だと思うと自分が凄く恥ずかしい。この“芽依”という女は、『男はみんな、自分の言いなりになる』とでも思ってそうな奴なのだ。
「久しぶりっすね、先輩。」
『無視すんなよ』って言われたから、仕方なく他人行儀な態度で話しかける。
「侑里今彼女居る?」
「いますよ。」
元カノの問いかけに秒で嘘を返したら、元カノはふふっと笑ってきた。
「嘘つき〜さっきの子に聞いたら居ないって言ってたよ〜。」
「でもそれ俺に今更聞いてどうするんすか?」
「あたしは別れてからもずっと侑里とやり直したかったのに一切こっち見てくれなくなったよね。あたしはまだ侑里にその気があるからこうして試合見に来たの。話すチャンスくらいちょうだいよ。」
ここへ来てまた復縁話?俺はもうその気は無いってずっと言ってきたのに。今はもう、俺には好きな人だっているのに。
『あたしと同じ高校受験して』
『サッカーやるならべつにどの学校でもよくない?』
あの頃、軽い調子で言われた言葉は、俺の中でずっと覚えている。その言葉は自分本意すぎて、俺の気持ちなんて少しも考えてくれてない言葉だった。だから気持ちが一気に冷めた。
『一切こっち見てくれなくなったよね』って言われても、俺に気持ちが無くなってしまったのだからもう俺がお前を見るわけがない。
「あたし今でも侑里のこと忘れらんないんだけどどうしたらいい?」
「は?知るかよ、俺好きな人いるんで。」
「誰?侑里って男子校だよね。今日はその人見に来てくれてた?」
「来てくれてましたよ。」
「ふぅん。…そうなんだ。」
また俺が嘘言ってる、というような目で見られてる気もするが本当だ。せっかく試合を見に来てくれた永菜に負け試合を見せてしまい、女に話しかけられてるところまで見られて、彼女はどういう気持ちで帰っていったんだろうと考えたらモヤモヤする。
わざわざ見に来なければ良かったと思われていたら嫌だ。
それとも、俺のことはやっぱりただの弟の友人だからべつになんとも思ってなくて、家に帰ったら永遠に『負けはったわ〜残念やったな〜』とでも話すだろうか。
せめて直接『おつかれ』って言葉を貰えたら嬉しかったけど、もしかしたらもうそんな言葉さえ貰えないかもしれない。
好きな人のことを考えたらどんどん気持ちはモヤモヤしてしまい、これ以上元カノと話すことなんて俺にはないから、「それじゃあ」と軽く頭を下げてもう何を言われてもさっさとその場から立ち去った。
すでにチームメイトはここから立ち去る支度を済ませて競技場を出ようとしていたところで、俺が歩いてくると「あの子誰だったんだよ」と先輩からも声をかけられる。
「中学の時の先輩です」と答えたら「ふぅん」って頷いたきりもう何も聞かれなかったが、玲央は「大丈夫だった?」とどこか心配するような態度で聞いてくれた。
「大丈夫。もう二度と会わんし。」
「それならいいけど。永遠くんのお姉さん多分ちょっと声かけたそうにしてくれてたよな。もう帰っちゃったけど。」
「……ううっ、ショックやわ…。」
玲央の言葉に思わずそんな本音が漏れ、玲央はポンポンと俺を慰めるように肩を叩いてくれる。
「…せっかく一人で見に来てくれたのに…なんか喋りたかった。…来てくれてありがとうってもっかい言いたかったのに…。」
「うんうん、またチャンスあるって。」
ついつい玲央の前で弱音を吐いてしまうと、そんな俺が面白かったのか玲央は慰めてくれながらもちょっと俺を見て笑っていた。
多分、サッカー関連の弱音でなく、こんな試合に負けた直後のタイミングで恋の弱音を吐いてるからだ。
自分でも玲央の前でキャラじゃないことしてるとは思いつつも、永菜のことを考えたらどうしても元カノに邪魔されたことが悔しくて、不満がぽろぽろ溢れてしまった。
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