湊の気持ち [ 20/20 ]
ずっと、永遠に、片想いだと思ってた。
果たしてこの世に同性の親友のことを好きな人間が何人いるだろう、とか考えてみたりする。この広い世界だから、少なくとも何人かはいるんじゃねえか、とか考えてみては、こんなのは絶対俺だけじゃないはずって言い聞かせて安心してみたりする。
いつも近くにいるのに、手の届くところに居るのに、触れるのに、翼の存在がとても遠く感じる。
いつも触れる距離にいるから、なんとも思ってないふりをして翼に触れるのがしんどい。
翼へのこんな気持ちは、俺の中から消せたらいいのに。
『ねえねえ、一条くんって好きな人いるの?』
俺は、中学の時からこの問いかけをされるのが大嫌いだった。居るけどそれがなに?居たら悪い?…ああ、悪いよな。だって俺は、親友のことが好きなんだから。
自問自答は繰り返すけど、相手の問いかけには一切答えない。そうしていつからか、無愛想な性格になっていった気がする。
だから友達は全然居なかったけど、別にそれで良かった。だって俺には、翼が居るから。
『なあ、…湊って好きな子いる?』
少しぎこちない態度で翼にそう聞かれたのはいつだっけ。その時心臓がやたらドクドク動いていたのだけはよく覚えている。
『いない。』
絶対バレちゃいけない気持ちを隠すのに必死で、即答したっけ。そしたら翼は、『オッケー、女子にそう言っとく。』って返事して、その言葉の通り翼はなにやら女子と話している。
俺は、焦る気持ちとか、翼に俺のことを聞いてくる女子への怒りとか、いろいろ混ざってモヤモヤムカムカして、ちょっとだけ泣きそうになった。
ムッと怒った顔をしていたのか、翼が俺を気にかけてくる。
『ん?湊?なんか怒ってる?』
『…別に。』
『あ、チョコ食う?内緒で持ってきたんだから先生にバレないように食えよ?』
俺が甘いもの好きって知ってるから、たまにこうしてチョコレートをくれる翼。
俺はたったそれだけのことで、嫌なことはすぐに吹き飛んで、嬉しい気持ちになれたのだ。
翼の俺への気遣いが嬉しい。
こんな俺にも優しい翼を、好きになってしまうのは仕方のないこと。俺は変じゃない。優しい親友が、とにかく俺は好きなんだ。
けれどこの気持ちは一生伝えるつもりは無い。
いつか互いに、それぞれ恋をし、俺はそういやあの頃は翼のこと好きだったなあと思える頃が来ればいい。
そんな風に思っていたけれど。
『お前俺の親友だし、失いたくねえし、言う気無かったけどさ、ガチで好きなんだ!嫌だったらぶん殴って逃げてくれ!』
そう言って翼は俺にキスをした。
こんなことって、あるんだ、って、今まで生きてて一番の驚きだった。
親友を好きなことは、変なことじゃないのかもしれない。
翼が俺のことを好きって言ってくれたから、俺は自分の想いに自信を持つことができたのだった。
果たしてこの世に同性の親友のことを好きな人は何人いるだろう。
この広い世界だから、少なくとも何人かはいるはず。
そして、ここにももう一人居てくれた。
これってすげえ奇跡じゃねえかと思う。
俺は、この親友を、一生大切にしたい。
湊の気持ち おわり
[*prev] [next#]