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「あれ?誰かと思えば今注目の偽りカップルじゃん。」


食材を買って、さっさと部屋に戻ろうと歩いていたところに、学校から帰ってきた会長と副会長に出会してしまった。


「もう偽りじゃないっす!!!」


副会長の発言に、隆が俺を腕の中に閉じ込めて必死に言い返しているが、副会長はそんな隆を見てふっと鼻で笑っている。完全にただ遊ばれているだけだ。


「どこもかしこも隆と新見の話題ばっか。」

「隆すげー悪口言われまくってるよな。」


会長は隆にそう言いながらにやっと憎たらしい顔で笑っている。かつて会長も隆のことを好きだったからこそ、周りが隆を残念に思う気持ちも分かるのかもしれない。

隆のことが好きだった人からしたら、男除けのために誰かと恋人のフリをしていたなんて、きっと悲しいだろうから。


「…別にいいっすよ。何言われてもどうせ人を騙してた俺が悪いんでね。」


隆はそう言って、つんとした態度でそっぽ向く。


「その偽の恋人にまんまと惚れてて笑えるけど。でも今更好き好き言ってても狼少年みたいに周りはもう信じないんじゃない?」

「ふっ…狼少年…。」

「はっ?倖多なに笑ってんだよ!」


まさか1日に2回も狼に関する例え話を聞くとは。ってつい吹き出してしまい、隆は吹き出した俺の顔を覗き込んできた。


「…狼少年って言われてしっくりくるなぁと思って。」

「えっひどくね!?俺が狼なら倖多はうさぎだからな?」

「その例えはもういいって。」

「あ、うさぎの耳付けてみる?絶対似合う!」


あろうことか隆は、白けた目をして俺たちを見ている副会長の目の前で、俺の頬にぶちゅぶちゅとキスをしてきた。


隆は気付いてないのだろうか、この副会長の白けた目。俺は隆の腕に拘束されたままチラ、と副会長の様子を黙って窺っていると、バチッと副会長と目が合う。

次は何を言われるんだろうと思っていたが、俺の予想に反して副会長は優しい顔をしてクスッと笑った。


「新見もいろいろ大変そうだなぁ。困ったことがあったら俺らに言いな。秀が一言何か言ったら周りはすぐ黙ると思うし。隆はもう好きにすればいいけど。」

「あ…、ありがとうございます。」


隆にはからかうように冷めた目を向けて、「じゃ。」と会長と共に去って行った副会長。

まさかの優しい言葉をかけてもらえて、俺は嬉しくて少し感動する。

しかし隆はと言えば、ムッとした顔をして去って行く副会長に向かってぶつぶつと文句を言っている。


「言われなくても好きにするっつーの。狼少年だろうがなんだろうが、俺が捕獲したうさぎは絶対誰にもやんねーからな。」

「いつまで俺をうさぎ扱いするんだよ。りゅうくんいい加減やめなさい!」


俺の肩に顎を乗せ、とうとう俺の身体にだらりと凭れかかってきた重い隆の身体を押し退けながらそう言うが、隆は「え〜やだよ〜ん。」とへらへらにやけた顔をして、引き離しても引き離しても、また俺の身体に飛び付いてくるのだった。


「なにあれ、僕らに見せつけてんの?」

「いつまであんなの続けるんだろうね。」

「でも瀬戸先輩の片想いなんだろ?」

「それもほんとかどうか怪しくない?」


俺たちの近くを通りかかった生徒が、コソコソとこっちを見ながら話す声が聞こえてくる。

正に狼少年のように何を言っても周りに信じてもらえていない現状に、隆はイライラしたようにチッと舌打ちした。


「隆、お腹減っただろ。早く帰って飯作るから、隆ハンバーグの肉こねるの手伝えよ。」


隆が何か言う前に、俺はグイッと隆の手を引きさっさと歩き始めた。


隆がイライラする気持ちも分かるけど、これが一度“人を騙した者”たちに待っている運命だ。


「…まじでイラつく。」

「はいはいイラつかないイラつかない。ハンバーグ、ハンバーグ。りゅうちゃん、俺の手作りハンバーグが待ってるよ。」


俺は子供を宥めるように、隆の手を揺らしながら言うと、隆は俺の方を見て嬉しそうにニッと笑う。


「そうだな、早く帰ろう。帰って思う存分イチャイチャしよう。」

「え、まだすんの?」

「まだってかずっとするに決まってるだろ。」


…決まってるんだ。

恋人ってそういうもん?


やれやれ、困った先輩だなぁ。と、子供のように軽くスキップし出した隆を隣で眺めながら、こそっと笑ってしまった。


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