祥哉の応援A [ 50/50 ]
「新見くん、俺もさっき出場したんすよ!新見くんにお疲れって言ってほしいっす!!」
「あっそうなんですね、お疲れ様です。」
「あざーす!!!俺も走る前に新見くんに会いたかったな〜!!祥哉いいな〜!!」
祥哉先輩の後ろに座っていた人にテンション高く話しかけられた。もう自分の出番が終わったからだろうか、かなりリラックスされている。バシバシと祥哉先輩の背中を叩きながら喋っており、祥哉先輩はクスッと笑って受け流した。
「そんじゃあ、せっかくだから新見ちゃんにマッサージでもお願いしようかなぁ。」
「え、俺ですか?」
申し訳ないけど素人の俺に試合直前のマッサージは頼まない方が良いと思うけど……と思っていたら、元より祥哉先輩も俺に頼む気なんか無かったようで、隆を見ながらニヤニヤしている。
どうやら隆のことをからかっているようだ。
そんな祥哉先輩の態度に気付いた隆は「俺がやってやるよ。」と言ってズカズカとテントの中に入っていき、祥哉先輩の腕や肩を持ってもみもみと揉み始めた。
「うわっおいやめろ、ぞわぞわする!!!」
ものの数秒で祥哉先輩に振り払われ、大人しくなった隆は「あ、そうだ差し入れ買ってきたんだった。」と思い出したようにコンビニで買った飲み物と食べ物を祥哉先輩に差し出した。
「おお、サンキュー助かる。」
「俺と倖多からな。」
「新見もサンキュー。」
「はい!祥哉先輩頑張ってくださいね!」
グッとファイティングポーズをしながら祥哉先輩にエールの言葉を送ったら、周りの陸上部の人達から「いいな〜」と口々に言われてしまった。
いやいや…応援されたいのならあなたたちも頑張って県大会まで進んでください。
暫くしてから「それじゃあそろそろアップしに行こうかな。」と祥哉先輩が鞄を持って立ち上がる。いよいよ出場種目の時刻が迫ってきているらしい。
さすがにアップまでついていくと調子を狂わせるだろうから、とこの場所で祥哉先輩を送り出し、俺と隆はテントの近くの空いていた座席に腰掛けた。
「この大会のレースで6位までに入れたら地方大会に出れるらしいよ。」
「そうなんだ、倖多詳しいな。」
「小西から聞いた。」
「倖多結構あいつと喋るようになったよな。」
「うん、あいつ喋りやすいし。」
隆に陸上の大会の話を振っても全然興味無さそうで、俺の交友関係の方に興味を示してくる。
「あれから中本とはどんな感じ?」と聞かれ、俺は「うーん…」と返答に少し悩んでしまった。
「俺は普通にしようと思ってるけど中本の方が遠慮してる感じかなぁ。まぁ、小西が間に立っててくれたら普通に3人で喋ったりするけど。」
俺の返事に隆は「へえ。」と相槌を打つだけで、特に何も言ってくることは無かった。やっぱり中本のことはまだちょっと気になるのかもしれない。
隆と喋ったり競技を見たりしながら時間を潰し、祥哉先輩がアップに行ってから2時間ほど経つと、アナウンスと共に【 男子決勝1500m 】と電光掲示板に表示された。祥哉先輩が出場する種目だ。
そしてテントの中に居た部員たちも、ぞろぞろとテントから出てきてフェンスの前に立ったから、俺と隆もその流れで座席から立ち上がり、フェンス前まで歩み寄った。
スタート地点付近には15人くらいの選手が思い思いに身体を動かしており、その中にはしっかり祥哉先輩の姿もあった。いつも見ている練習着ではなく、黒地のユニホーム姿の祥哉先輩はめちゃくちゃ速そうでかっこいい。
選手たちは係員の指示でスタートラインに整列すると、スタートの合図であるピストル音が鳴るのを待つ。
一瞬の静寂の後、『パンッ!』と鳴り響いた音と同時に一斉に走り出す選手たち。勢い良く先頭で飛び出した選手の後ろに、祥哉先輩が続いていた。
「祥哉ファイトー!!!」
「祥哉先輩ファイトー!!!」
周りの陸上部部員が応援する声は、スポーツ大会や練習の比ではないくらい大声で熱気が違った。
俺と隆もその応援に加わるように、「祥哉先輩ファイトー!!!」と腹から声を出して先輩を応援する。
祥哉先輩は先頭を走る選手をずっと追いかけるように走っているから、「え、あいつクソ速くね?」とようやく隆は祥哉先輩の実力に気が付いたらしい。
「うん、すげえ速い!このままいったら次地方大会だよ!!」
「まじか!!!!!」
だからさっき言っただろ!?って俺は興奮気味で話すが、隆は「祥哉には無関係の話かと思ってた」って言いながら唖然としていた。
「ラスト一周!祥哉ファイトー!!!」
陸上部部員のそんな声援と同時に俺たちの正面を通過していった祥哉先輩は、ラスト一周になっても尚先頭の人を追いかけるように二番目を走っていた。
しかし先頭の人はかなり速く、じわじわと差が開いてきているのと同時に、後ろからも選手たちが詰めてくる。
「あああーっ!!!!バカッ、祥哉もっと速く走れー!!!バテてんじゃねえー!!!」
いや、十分速く走ってるって。と突っ込みたくなる隆の応援が恥ずかしくも辺りに響き渡ってしまった。
しかしその瞬間、グイグイとラストスパートをかけるように速くなった祥哉先輩を見て、何故か陸上部の人たちが隆を見て笑っている。
「瀬戸のやつ今バカっつったぞ。聞こえたんじゃね?」
「ははっ、そうかも。」
最後は「祥哉いけー!!!」と熱く応援する隆に俺も負けまいと声を出し、祥哉先輩は見事2位のままでゴールしたのだった。
「え?やばくね?あいつ速くね?」
レースが終わった後の隆はさっきからそればっかりだ。
「俺は隆がそこまで驚いてることにびっくりだよ。速いのはなんとなく知ってただろ。」
「いや、熱心なやつだとは思ってたけど正直ここまでとは思ってなかった。だって生徒会と兼部してんだぞ?逆になんであいつ生徒会までやってんの?陸上に専念しろよ!」
「それ隆が言っちゃったら祥哉先輩まじで生徒会やめちゃうんじゃね?」
「それは困る。」
「でも兼部じゃない人が代わりに入る方が隆の負担も減るだろ?」
「俺祥哉しかダチいねえから兼部で良いからやってて欲しい。」
「じゃありゅうちゃんが祥哉先輩の分まで頑張らなきゃね。俺も一緒に支えるからさっ頼むよ次期生徒会長さん?」
ポンポン、と隆の肩を叩きながらしれっとそんな発言を隆にしてみたけど、「生徒会長は倖多だろ。」と返されてしまった。俺はどうにかこうにかして隆にやってもらおうと思ってるのになかなかに困難だ。
祥哉先輩の応援後は再びテントの近くの座席に座って隆と喋っていると、走り終えた祥哉先輩がテントに戻ってきたようで、拍手で迎えられていた。
テントに入るのかと思っていたら、祥哉先輩はテント近くの座席に座っていた俺たちに気付いて歩み寄ってくる。
「おい隆〜、お前俺に野次飛ばしてこなかった?ラスト一周あたりでやたら目立つ叱咤みたいな声聞こえてきたんだけど。」
まさかの隆の熱の入った応援が祥哉先輩にまで届いていたようで、ここに戻ってきて一番に祥哉先輩は笑い混じりに隆に声をかけてきた。
「は?野次なんか飛ばしてねえよ。すげえ応援してやってたわ。なぁ?」
「え?…あはは、うん、まあそうだな。」
「てかお前速すぎ!陸上そんな凄かったんだ?」
「いや〜上にはもっと凄い人いっぱいいるけどな。」
隆の言葉に謙虚な返事をする祥哉先輩だけど俺からしたら祥哉先輩は十分凄くて、「県大会2位凄いですよ!おめでとうございます!」と俺は祥哉先輩に拍手すると、祥哉先輩は少し照れ臭そうに笑って「新見も応援サンキューな。」と言ってくれた。
「おい、俺も応援してやってたんだからな!?」
「あぁ分かった分かった。隆もサンキュー。お前の叱咤のおかけでラストスパートかけられたし。」
「だから叱咤じゃねえよ!!!」
叱咤と言われてムキになって言い返している隆にも笑いながら、祥哉先輩はテントの方へ戻っていった。
その後も俺と隆は、祥哉先輩しか知ってる人が出ていない陸上大会にも関わらず、せっかくだからほかの種目の決勝戦も見てから帰ろうかと競技の観戦を二人で大いに楽しんだのだった。
祥哉の応援 おわり
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