祥哉の応援@ [ 49/50 ]

今日は学校がない休日だけど、俺と隆は制服を着て出かける準備をしていた。


「ここからバスと電車1本で行けるみたい。」

「おっ、まじ?思ったより簡単に行けそうだな。」


すでに制服は夏服に衣替えしており、半袖シャツを着て洗面所の鏡の前で髪を整えていた隆が俺の声に返事をする。

いつもそこまで髪をセットしてるところを見たことなかったけど今日はやけに気合い入ってるなぁと思いながら隆を見ていたら、「これって初デートじゃね?」と言って隆が振り返ってきた。


「え、陸上競技場行くだけだけど。」

「でも学校外だし。」

「まあ、そうか。」


今日は祥哉先輩が出る陸上の県大会の日で、俺と隆はその応援に行く予定だけど、隆はデートとか言ってちょっと浮かれている。

まあ、じゃあそういうことにしとこうか。って、俺も隆と外出するのが新鮮な感じに思えてきて、準備を終えるとウキウキと二人で寮を出た。


最寄りのバス停からバスに乗り数十分で駅の近くまで向かい、少し歩いて電車に乗る。


隆は気付いてるかわかんねえけど、近くに立っていた同い年くらいの女の子のグループが吊り革に掴まって俺の横に立っていた隆にちらちらと視線を向けている。

微かに聞こえてきた「あそこに立ってる制服の人かっこいい」という話し声に、俺はなんとなく隆にその会話を聞かれたくなくて隆にべらべらと話しかけた。


「着いたらお昼頃だからどっかですぐご飯食べる?」

「お〜いいな。何食う?俺久しぶりにファーストフード食いて〜!」

「あ〜いいなぁ。俺中学の時は友達と結構食べてたな。」

「俺も俺も。」


こうして会話している間も、女の子たちの方から「どこ高の制服かな?」という声が聞こえてくる。

もしかして制服着てきたのは失敗だったかな。真面目に陸上の試合の応援するために行くのだから、と特に何も考えず制服を着てきてしまったけど別に私服でも良かったかも。


女の子の一人が「聞いてみる?」なんて口にしたタイミングで、不意に隆が女の子たちの方向へ顔を向けてしまった。すると彼女達は一斉に口を閉じ、サッと視線を逸らしている。


「あ〜っ、今あの子たち倖多のこと見てたなぁ?」


隆はすぐに顔の向きを戻し、俺を見てにたりと笑いながらそんなことを言ってくる。まさかの俺?まあそれならそう思っててくれていいや。って何も言わずに首を傾げた。

俺の中で隆は女の子が好きそうなイメージが拭えねえから、声かけられたりしたら喜んでついていきそうな気がして嫌なんだよな。…とか言ったら怒られるかもだけど。


「倖多が一番かわいいな。」

「……外でわざわざそんなこと言ってくれなくていいから。」


けれど案外女の子には興味を示さず、吊り革に掴まってるのを利用して隆が俺の身体に寄っかかってきながらボソッと恥ずかしいことを言ってきたから、俺も小声で言い返すと、隆はハハッと楽しそうに笑っていた。


俺は、学校を出ても隆が女の子に関心を見せなかったことが結構嬉しかったみたいで、こんな場所なのに隆と手を繋ぎたくなってしまった。


電車を降りて、ファーストフード店で昼食をサッと食べてからまた少し歩いたら、陸上競技場らしき建物が見えてくる。


『第一レーン〇〇高校…』とアナウンスの声が聞こえてきたり、ピストル音などが聞こえてきて、そこで陸上の大会が行われているのがすぐに分かった。


「祥哉に着いたってライン入れとこ。」

「なんか差し入れでも買っとく?」

「そうだな、スポドリが良いかな。補助食とかの方がいいのか?」


通りかかったコンビニに立ち寄り、隆と話しながら適当に食べ物と飲み物を買ってから陸上競技場の観客席への入り口を探す。


階段を登って、あたりを見渡せばいろんな高校のテントが張られており、俺たちの学校の陸上部がどこにいるのかは全然分からなかった。


俺も小西に【 今競技場の観客席来たんだけど祥哉先輩ってどこにいる? 】ってラインを送ってみた。

すると、数分後にはスマホ片手にこっちに歩いてきた小西と中本の姿を発見する。


「あっ!お〜い!小西〜!中本〜!」


手を振りながら二人に呼びかけると、「あっ」とこっちを指差し、二人が駆け寄ってきてくれた。


「祥哉先輩まだテントの中にいる。」

「まじ?俺らも行っていい?」

「いいよ、こっち。」


小西と中本に案内してもらい、無事俺たちの高校の陸上部部員が集うテントへと辿り着いて中を覗いた。

テントの中では部屋で寛ぐみたいに部員たちが雑談したりスマホ触ってたりご飯を食べたりして過ごしている。その中に混じってエネルギーゼリーを吸っている祥哉先輩の姿もあった。


「おっ祥哉発見!おい祥哉〜!」


隆が祥哉先輩に呼び掛けるとめちゃくちゃ目立ってしまい、祥哉先輩だけでなくテントの中の部員たちからも一斉に視線を向けられてしまった。


「あ、新見くんだ。」と名前を口にされたから、目が合った人に「こんにちは」と軽く頭を下げておく。


「おー、隆と新見まじで見に来てくれたんだ。」

「お前の実力どんなもんなのかしっかり拝んでやるからな〜。」


隆は生意気なことを言いながらニヤニヤと楽しそうな顔で祥哉先輩の近くに歩み寄っていくが、彼はまだ知らないのである。


陸上競技長距離選手としての、祥哉先輩の実力を。


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