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クラスリレーの結果は、まあ分かってはいたが散々だった。

1000メートルリレーで長距離専門の祥哉先輩が大活躍したように、短距離を専門としている小西の大活躍でAクラスが余裕勝ちし、俺のクラスは残念なことにビリだった。

てかもう1000メートルリレーでくたくただよな、ってみんな開き直っていた。クラスで俺たちを責めるものも居ないだろうからべつにいいよな、って言ってみんなで笑い、スポーツ大会は楽しく終えることができた。


…そう。スポーツ大会“は”。


「…おい新見、隆どうしたんだ?さっきからずっと不機嫌なんだけど。」


スポーツ大会が終わった後、隆は俺になにも話しかけることなく黙々と長椅子を片付けている。

不思議そうに隆を見る祥哉先輩に問いかけられるが、少し返事に悩みながら「喉痛いって言ってたからしんどいんですかね…」と適当な返事をしてしまった。


時たま『ゴホッ』と咳をしているから、体調はほんとに良くはなさそうだ。

俺から何か話しかけようか、と2、3歩隆に歩み寄るが、不機嫌そうにギロッと睨まれてしまったため、とりあえず後片付けが終わるまで話しかけるのはやめようと俺も黙々と長椅子を片付ける。


「おい隆、体調悪いの?」

「…まあ、ちょっと喉痛くて。」

「それ片付けたらもう帰って休んでいいから。」


隆のことを気にしながら後片付けをしていたら、隆は副会長にそう声をかけられていて、持っていた長椅子を片付け終えたらふらりとどこかに消えて行った。


30分ほどでスポーツ大会の後片付けは無事終わり、ようやく解散となる。


「隆はもう帰った?あいつなんかやたら大人しかったけど大丈夫?熱あるんじゃね?」

「…どうでしょう、ちょっと後で様子見てきます。」

「おう、そうしてやって。お疲れ。」

「お疲れ様でした。」


副会長たちとは別れ、隆のところに行こうとするが、隆がどこに行ったのか分からない。

でも電話をかけてみたらすぐに出て、『部屋に居るから来て』と言われた。

少し掠れた、不機嫌そうな声だった。


寮に帰り、自分の部屋には行かずに隆の部屋へ直行する。トントン、と扉をノックするとすぐに扉は開き、手首を掴まれグイッと引っ張られた。

バンッ、と隆は乱暴に扉を閉めて鍵をかける。


「なんなんだよ?さっきのアレ。」


部屋に入ってすぐ不機嫌そうに俺にそう聞いてきたあと、やっぱり喉が痛そうでケホッと咳をしていた。

体調が良く無いから余計に不機嫌なんだろう。


「さっきも言っただろ、トイレ行った帰りに絡まれたところを中本が助けてくれたんだよ。」

「絡まれたって誰に?」

「わかんねえ、知らない1年2人だった。」

「絡まれたところを運良く中本が通ったのかよ?」

「うん、だからそうだって。」

「なにそれ仕込み?」

「は?何言ってんの?」


ベッドに腰掛けた隆に、両手を握られながら見上げられる。

『仕込み』ってどういう意味で言ってんの?もしかして中本が仕組んだとでも言いたいのか?


「だってそんなタイミング良く通るとか変だろ。」

「別に変ではなくね?中本もリレー前にトイレ行こうとしてたとかじゃねえの?」

「そんなたまたま運良くピンポイントで中本が来るかよ?」

「てか隆なんでそんなこと疑ってんの?俺助けてもらったんだぞ?そこはありがとう、で終わる話だろ?助けてくれた人をそんな変に疑うような目で見て、失礼だろ。隆ちょっと中本のこと敵視しすぎなんじゃねえの?」


思ったことを一気に言ったら、隆はまだ納得してなさそうにムスッとした顔のまま何も言わなくなった。


べそをかくように唇をムッと尖らせ、無言で俺の手をギュッと握り続けてくる。


「中本も知らない奴って言ってたし。ほんとにたまたま通ったところを声かけてくれただけだよ。」


隆に言い聞かすように俺はもう一度そう言ってみたが、それでもやっぱり隆は納得してなさそうに、暫く閉じていた口をボソッと開いた。


「…なんであいつのことそんなに信用できんの?」

「…え?…信用って……別に中本が嘘ついてても得ないよな?」


俺がそう言った瞬間、隆はいきなり怒ったようにバッと俺の手を離した。


「倖多は全然分かってねえ!!!」

「は!?なにが!?」

「どう見てもあいつ、倖多のこと狙ってんだろーが!!!」


今度はガシッと俺の腕を掴みながら、隆は俺にそう怒鳴りつけてきた。


「俺はまったくあいつを信用できねえ!!知らないやつとか言っててもそれも嘘かもしんねえぞ!」

「…いや、だから、何のためにそんな嘘つくんだよ…?」


隆の怒鳴り声に少し怯みながら、また同じようなことを聞くと、隆は「チッ」と舌打ちをした後、グイッと俺の身体を押され、俺は隆から突き放された。


「…もういい、頭痛い。寝る。」


そう力無く言ってベッドに横になり、布団をかぶる隆。

多分、頭痛いってのは本当なのだろう。


これ以上話してても堂々巡りになってしまいそうで、俺は無言で隆の部屋を出た。


…なにがどうなってこんなことになった?

隆は一体何を言ってるんだ?

中本の仕込み?…嘘?…信用できない?


考えれば考えるほど訳がわからなくなってしまい、俺は隆の言いたいことが少しも理解できなかった。

そして、初めての隆との衝突に、

胸がモヤモヤ、モヤモヤした。


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