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散々俺の棒倒しする様子を笑ってきた隆だが、2年Sクラスの番が来て、隆はと言えばやる気無さそうに棒の近くで立っているだけだった。

そんな隆とは真逆に、相手クラスの棒へ向かっていく祥哉先輩。数人で棒を掴み、必死に棒を倒そうとしていた。

けれど2年Sクラスも初戦で敗退し、隆と祥哉先輩はすぐに戻ってきてしまった。


「隆やる気なさすぎ。」

「俺のやる気もう1000メートルリレーで終了した。なんか走り終わった後から喉すげー痛いし。ゲヘンゲヘン。」

「うわ、変な咳。」


珍しく隆が、真面目にしんどそうだ。

その後はもう隆の出番は無いようなので、本部テントへ行き大人しく座りながらお茶を飲んでいる。


俺の出番はまだクラスリレーが残っていたから、3年の棒倒しの間にトイレに行っておこうと隆に一言声をかけてから一人校舎の中に入った。


ガランと静かな校舎内では、グラウンドから聞こえる歓声がよく響いている。


さっさと行ってさっさと戻ろうと用を足して手を洗っていたら、どこかから足音が聞こえてきた。

足音の数が一人では無さそうで、二人くらいかな?と思いながらなんとなく人と顔を合わせるのが嫌で、通り過ぎたら出ようかなと少し待ってみたが、足音はパタリと聞こえなくなった。


すぐにトイレを出て、グラウンドに戻ろうと廊下を駆け足で進んでいると、突然俺の行く手を阻むように曲がり角から人が現れる。


「あれ〜?新見くんだ〜。」

「一人〜?どこ行ってたの〜?トイレ?」

「…え、…あ、はい…そうですけど…。」


ハーフパンツの色は俺と同じ紺色だった。ということは俺と同じ学年だけど、全然顔も名前も知らない人に話しかけられ困惑する。


なんか嫌な雰囲気で、早く立ち去りたくなってくるが、一人にガシッと俺の肩に腕を回されてしまった。


「新見くんってまじ顔良いよな。なぁもっと他んとこも見てみたいんだけど。」

「…え、…ほかんとこ…?」


…え、なにこれめっちゃこえー…。

太くて逞しい腕が俺の肩に回っていて、身体が恐怖でカチリと固まる。


「…や、あの…俺急いでるんだけど…」


足を動かし、無理矢理進もうとしたが、もう一人にまで肩を掴まれてしまった。


「まあまあ、ちょっとだけ相手してくれたらそれでいいから。」

「は?…なんの相手?…ちょ、意味わかんね、あの、俺ほんとに急いでるんだけどっ」


俺よりガタイが良い男二人に挟まれ、だんだん恐怖と動揺、焦りが出て、腕を振り払おうと暴れてみる。


しかし離れてくれないその腕と、さらには手首を掴まれ、俺をどこかへ移動させようとするようにグイグイ身体を押されていよいよやばいと感じはじめた時、「倖多?」と数メートル先の方から名前を呼ばれる声がした。


誰か人が来たことで一気に安心して、声がした方へ振り向く。


「あっ!中本…!助けて!」


俺は咄嗟にそう口にすると、中本は俺の方へ駆け寄ってきてくれた。


「何やってんの?」

「ん〜?べっつにぃ〜?」


中本が男二人に問いかけると、男はすぐに俺から手を離し、ニヤニヤしながら俺から距離を取る。

感じ悪い男二人から、中本は俺を守ってくれるかのように俺の手を取り、グイッと引っ張った。


「倖多大丈夫?」

「…う、…うん、なんか変なのに絡まれた…。」


中本は俺を心配してくれているように顔を覗き込みながら、グイグイと俺の手を引いて歩く。


男の顔をちゃんと覚えておこうと振り向いたら、男はニヤニヤしたままヒラヒラと俺に手を振っていた。


「…誰あれ…、中本知ってる?」

「…さあ…、わかんね…誰だろ?…なんかされたの?」

「…んー…、ちょっと何がしたかったのか俺にもよくわかんねー…。」


相手して、とか言われたけど、そんな絡まれ方をした事を人に言いたくなくて言葉を濁す。


中本が来てくれた安心感から、繋がれたままだった手をそのままにグラウンドに出てくると、中本が立ち止まって、もう一度俺を心配してくれるように顔を覗き込みながら声をかけてくれた。


「べつに何もなさそうで良かった。またなんかあったら全然頼ってくれていいから。」


そう言って、中本はふっと優しげに笑いかけてくれる。


「うん、サンキュー、まじで助かった。」


俺も自然に笑みを浮かべながらそう返した時、「倖多!!」と俺の名前を呼び、駆け寄ってくる隆の姿が見えた。


俺はハッとして中本の手を離す。

しかしすでに遅かったようで、隆にばっちり見られてしまっていた。何をしてたのかきっと隆に問い詰められるだろうから、失敗した。もっと早く手を離すべきだった。


「何やってたんだよ!トイレ行って全然戻ってこねーと思ったら!」


隆はそう言いながら、まるで中本を悪者扱いするようにキツく睨み付ける。


「ごめん、ちょっと変なのに絡まれて中本に助けてもらった。」

「は!?変なのって!?どいつ!?」

「先輩大丈夫ですよ、すぐに俺が通りかかったので。」

「はあっ!?」

「そうそう、まじで助かった。」


俺は中本が隆に悪く見られないようにそう話すが、隆の中本を見る目は依然としてキツイままだ。


「あっやべ、もうちょっとでリレー始まる!?」

「あっほんとだ!!行かねえと、」

「ちょっ倖多!待てよ!変なのってどいつなんだよ!」

「またあとで話すから!」


隆に制止されながらも、俺は急いで中本と一緒にクラスリレーの集合場所に向かう。


まだちょっと心の中では動揺が続いていたから、中本の存在に安心できて、ありがたかった。


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