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宿泊学習が終わったあとの俺と隆へ向けられる視線は、やっぱりというかなんていうか、そうなるだろうなとは思っていたが、冷ややかなものに変わっていた。
けれど隆はそんな他人の視線や態度なんか全然気にしていないようで、俺と手を繋ぎながら上機嫌で登校している。
「おっ?二人で懲りずにまだ恋人の演技やってんすか〜?」
「バレバレなんだからもうやめたらいいのに。」
「見てて恥ずかし〜。共感性羞恥ってやつ?」
隆はいくら上機嫌でも、俺は正直聞こえてくる罵詈雑言が気になってしょうがない。かと言っていちいち言い返そうとも思わないけど。
俺たちは俺たち、他人は他人。周りにどう思われてようが、実際俺たちが今付き合っているという事実があるのだから、堂々としていればいい、とは思う。
俺と同じように周囲の声が聞こえているであろう隆なんかは、「バーカ、言ってろ言ってろ。」と言って俺の肩に腕を回しながら、ニタニタと憎たらしい表情を浮かべている。
「なぁ倖多、それより俺いつ倖多とできる?」
周囲の自分たちを見る目など隆は本当にどうでも良さそうで、パッと表情を切り替えるように上目遣いで俺の顔を覗き込みながら、隆は俺に問いかけた。
「んー、どうしよっかなぁ。」
「俺倖多と付き合ってからグラビア雑誌全部処分したんだぞ?」
「え?別に持ってればいいのに。」
「俺がおっぱいに目移りしてもいいのか?」
「んん…、それはちょっと嫌かも…。」
俺のことを好きとか言いながらおっぱいに興味を持たれるのも複雑で、ぼそっとそう返事すると、「だろ!?」と隆の顔には嬉しそうな笑みが浮かび、「ん〜ッ」と俺の身体を抱きながら頬におもいきりキスしてきた。
勿論周りには生徒が行き交っており、俺たちの方へチラチラ視線を向けられる。
「うわ、瀬戸調子乗んなよ。」
「新見くん嫌がってんだろ。」
…え、俺嫌がってるように見えるんだ。
隆を非難するキツイ声が聞こえてきて、隆はチラッと声が聞こえてきた方へ睨みつけるように目を向け、チッと舌打ちしながら「外野がピーチクパーチクうるせーよ。」と小声で毒を吐いている。
「だいたいなんなんだよあいつら、俺のこと今まで散々持て囃しといて、ちょっと気に食わないことあったら凄まじい手のひら返しだな。まじキレそう。」
いやもうキレてるし。
機嫌悪そうにムッスリした顔をしながらも、俺の身体から手を離さない隆に、俺はよしよしと宥めるように頭を撫でた。
「言わせとけばいいよ、どうせ俺らが何言ってももう信用失われてんだから。」
ふっと笑いながら俺はそう言うと、隆は暫く表情を変えずにジーと俺の顔を見つめていたが、その後生意気なくらいにんまりと笑い、「そうだな。」と頷いた。
「あいつら倖多とキスしてる俺が羨ましいんだぜ、何言われてももうキスしていいの俺だけだしな。」
「でももう人前で見せつけるようにするのはやめたら?無駄に反感買いそうだし。」
「えぇそんなこと言うなよ!俺は倖多とただイチャつきたいだけなのに!」
俺の上半身に両腕を巻き付けたまま、近距離で俺の目を見つめて駄々をこねるようにそう話す隆。
「あー嘘嘘、いいよ。りゅうちゃんいっぱいキスしていいから。」
そういえば隆がこんな態度なのは付き合ってるフリをしてる時からだったから、付き合ってる今やめろと言っても無理な話か。
…と諦めて優しくそう言ってやったら、隆は更に調子に乗ってきて「で、いつヤらせてくれる?」と耳元で囁いてきた。
今キスの話をしてたのに。さすがにこれには俺もちょっとイラっとしてしまい、ペシン!と隆の頬を叩いて隆から距離を取った。
「いって!!ちょっ待っ、倖多待って!ごめんごめん!!ちょっと早る気持ちが抑えられなくて!!」
「ちょっとくらい抑えろよ!!隆手早すぎる、今まで付き合ってきた子ともそう言ってすぐヤってたのかよ!?」
隆が今までどんな恋愛をしてきたか俺は全然知らないけど、きっと過去に彼女くらい普通に居たことありそうだからそう言えば、隆の表情は途端にスッと真顔になり、黙り込んだ。
…おい、そこで否定しねえのはダメだろ。
「…でも!だって!!」
「なにがでもだってだよ!!!あんまりその話ばっかしてくるんだったら別れるぞ!!!」
「え!?ほんっとごめんって!もう暫くは言わねえから!!!」
気付けば人目ある学校で、俺と隆はそんな痴話喧嘩みたいなことをしていた。
喧嘩っていうか、ただ俺がキレただけだけど。
男同士の付き合いなんて初めてで、そんなすぐにヤりたいヤりたいって言われても…、って、俺はそんなにすぐには頷いてあげられないのだった。
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