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初めて蓮を見たとき、日の光で髪がキラキラ光って見えて、白い肌が透き通って見えて、それはまるで天使のような、いや、妖精?蝶々?女神?お姫様?

とにかく可愛いその姿に胸がギュンとして、人生初めての一目惚れをした。

黒いランドセルや、男児向けのキャラクターの筆箱なんてまったく眼中に無く、可愛い蓮の顔をひたすら眺めていた。

蓮が男だって分かってからも、可愛いものはやっぱりなにをやってても可愛くて、いっつも蓮を愛でていた。

蓮は昔から大人しい子で、ぬいぐるみを可愛がるように蓮に抱きついてみてもなにも言われなかったし、ぷっくりしてて可愛い涙袋をつんつんと触ってみても、困ったように笑っているだけだった。

蓮が全然嫌がらないから、俺のスキンシップはどんどん増していったけど、蓮が俺のことどう思ってたかは全然わからなかった。でも、嫌がられないことをいい事に、俺のスキンシップはとどまることを知らなかった。


小学4年生の時、人生で初めて人の口と口を引っ付けた。“キス”という知識はなぜか知らないうちに身に付けていた。

宿泊学習で、隣で蓮が眠っているという状況にドキドキして眠れなかったから、好きな子にいたずらしたい精神でキスしてみた。

その後、柔らかい蓮の唇の感触を知り、興奮して眠れなくなってしまったのは言うまでもない。


『すばる眠そう。夜寝れた?』

『蓮の寝顔可愛くて全然寝られんかった…』


移動のバスで蓮に寄っ掛かりながら言えば、『はぁっ!?見んなよ!』って両手で顔を隠す蓮が可愛いすぎた。

顔が可愛いのは勿論だけど、恥ずかしがって顔を隠したりするその仕草まで可愛いから夢中になってしまうのだ。


小学校を卒業する頃には、もうどっからどう見ても男の子な蓮。……おかしいなぁ、俺っていつまで蓮のことが好きなんだ?
いつか蓮のことをなんとも思わなくなる日が来る、って頭の片隅ではなんとなく思っていたのにな。


自分が成長するたびに、自分より背の低い蓮のつむじが見えやすくなってきた。

ちょっと伸びた襟足も可愛いなぁ。

俺の大好きな涙袋は今日も健在だ。


あれ?蓮ちょっとちっちゃくなった?

…いや、違うか。俺の背が伸びたんだ。

こりゃいいな、俺がでっかくなったら蓮を抱きしめやすくなる。

よし、毎日牛乳飲むようにしよう。

運動もしよう。ちょっとだけ筋トレもしよう。

蓮に、かっこいいって思わせたいな。でもやっぱり、蓮は男の子だから可愛い女の子の方が良いのかなぁ…?


そんなこととかを考えてたら、中学に入学する頃には自分の見た目を気にするようになっていた。


中学の制服に初めて袖を通した日、朝から髪をセットしてみた。いいじゃん、俺。かっこよくね?


お母さんに感想を聞けば、『いいんじゃない?』って言ってくれた。

初めて喋った中学のクラスの女子も、『朝倉くんってかっこいいね』って褒めてくれた。

男子も『お前イケメンだな』って声をかけてくれたのに。


俺が一番言われたい蓮からはなにも言ってもらえない。


俺は蓮のことがこんなにも好きなのに、蓮は俺のことなんか眼中になくて、当然恋愛対象でもなくて、いつまでも俺の片想いが続いている。

どうしたら蓮は、もっと俺を見てくれる?

どうしたら蓮に、好きになってもらえる?


こうして俺は日々模索しながら、蓮にスキンシップを取る。



『すばるのタイプの女子、学年の女子で言うと誰が一番?』


中学に入学してから周りの男子は女子の話ばっかしてる。タイプの女子?そんなの考えたこともない。

好きな人は蓮。タイプは勿論蓮一択。
こんなにオープンにしてるのに、お前らまだそんなこと聞くのか。


相手が同じ男じゃ、こんなにも俺の想いは伝わらないのか。と、俺は蓮により一層スキンシップをしてしまう。


『真面目に蓮!まじ俺蓮にならチューできる!』


そう公言しながら勢いで蓮の唇に堂々とキスをした俺の行動に、女子たちの悲鳴が上がった。


『ちょっ、おいすばる!なにしてんだよっ!!』


蓮はちょっと怒りながら、ゴシゴシと俺にキスされた唇を拭っている。うわ、それかなり凹むわぁ……。

って、まあ周囲の目があるところでキスした俺が悪いんですけれど。


『すばるあれはやばいだろ。さすがに梅野のこと好きって誤解されるぞ。』

『ん?誤解?え?だから好きだってば。』

『いやいや、え、お前ガチで梅野のこと好きなんけ!?』

『え、うん。だからそうだって。』


何回聞くんだ。こんなにオープンに俺の想いをさらけ出してるのに、全然俺の話を信じてくれない友人たち。


『じゃあお前、梅野とエッチできるか!?』

『は?できるかって、その質問はおかしいと思う。』


俺の蓮への想いをなかなか信じない友人のヒートアップする問いかけはどんどん下ネタになっていき、ここで俺は奴らに熱弁するように語った。


『俺はそういうことするのは蓮としか考えたこともねえし、できることならもっといろいろさせてほしい。肌は赤ちゃんみたいにスベスベで美味しそうだし、全身ベロベロ舐めてみたいし、胸は無いけど乳首は絶対かわいいだろうし、舐めた時絶対可愛い反応するだろうから見せてほしい。できる、できないじゃなくてさせてほしい。問題はできるできないじゃなくて俺は、できることなら“蓮に”、やらせてほしい。』


言いたいことを口説いくらい言い切って口を閉じると、俺の話を聞いていた友人たちは皆、ドン引きした目で俺を見ていた。


『いやいや、お前らなに引いてんだよ。俺の蓮への気持ち理解できた?』

『…いや、ガチすぎて引いた。』

『それ。つかすばるそれ変態すぎな。』

『すばるきんもちわるっ、梅野が聞いたらお前もう喋ってもらえねーんじゃね?』

『え、それはキツすぎ!!無理!!今の蓮には絶対内緒な!?』


俺蓮にシカトされたら死ねる。

そんな風に必死に話す俺は、友人みんなにこいつ残念な奴だなって、笑われた。


『すばるイケメンじゃなかったらただのキモすぎてやばいやつじゃん。』

『ほんとにな。顔で得してるよ、すばるは。』

『得してる?蓮俺の顔好きかな?』

『それは知らん。残念ながら相手も同じ男だからな。』

『俺はすばるの顔かっこいいと思うけど、だからってお前には惚れねえし、ベロベロ身体舐められたくねえしな。』


いや、俺も蓮のだから舐めたいのであって、こいつの乳首舐めるなんて断固拒否だけどな。


『まじそれ。ま、やっぱ男なら2組の美山さんとか?可愛いって思うんじゃねえの〜?』

『あー!美山可愛いよなあ!!』


2組の美山?

どの子のこと言ってんのかわかんねえけど、蓮もやっぱ可愛い子が好き?俺の顔はどう思う?


蓮が女の子の話してるのとか聞いたことねえけど、蓮が美山さん可愛い、好き!とか言い出したら、俺は絶対ショック受けるんだろうなぁ……。


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