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「あ!高橋くん!聞いたよ〜!今度すばるくん地元帰ってくるんでしょ〜?」

「え?それ誰に聞いた?」

「ん?園村くんだよ?」


三井さんが高橋の問いかけに答えると、高橋は園村に「おいなにベラベラ話してんだよ!」と園村の頭を引っ叩いた。


「痛ってえ〜、高橋がライン見せてきたんだろうが!」

「お前が覗いてきたんだろ!」

「まあまあいいじゃん、それより俺らだって生すばる見たいわけよ。高橋にはどうせ断られそうだしこいつなら頼めんじゃね?って。な〜れいかちゃん!」

「うんうん!生すばるくん超見たい!」


盛り上がって会話する二人をどうにかしてくれ、という願いを込めて、縋るように高橋に視線を向けるが、高橋は何故か俺と目が合った途端に黙り込んでしまった。


…え、お前に黙られると困る。


ジッと何か考えるかのように何も喋らなくなった高橋が、それから数十秒後に「そうだな。」と納得するように口を開く。


「梅野の頼みなら多分いける。」

「…え。」


何言ってんだよ高橋!
なんで俺がそんなこと…


高橋のその発言を聞いた途端、三井さんは「きゃ〜!!!ほんと!!?」と嬉しそうな声を上げた。


「えっ待って!無理だって!ほんとに…!」


俺が、頼むの?すばるに?

クラスメイトに会ってやってって?

そんなの、俺は嫌すぎる……。


何を言ってくれるんだ、と高橋に訴えるような視線を向けると、高橋は俺を見てふっと笑った。


「梅野、すばるに電話してみたら?」

「…え、いや、…なんで……」

「なんでって、べつに普通のことだろ。今度いつ会える?とかさ。ただ普通に聞いてみるだけでいいんだよ。」


え、今…?…すばるに電話するの?

三井さんからの期待のこもった視線が痛い。

まじで、今電話するのか…?


…普通のこと?

ただ普通に聞いてみるだけ…?

俺だってそう思いたいけど、その普通が俺にとっては苦痛なのに…。



…でもこれは逆に、自分に与えられたチャンス、きっかけだと考えたらどうだろう。

こんなことでも無ければ、自分からすばるに連絡することなんて無いだろうから。


深く考えなくていい。

ただ友人に、電話をかけるだけなんだから。


意を決して、【 すばる 】という文字をタップして、電話番号を表示させた。

ただでさせ電話は苦手でドキドキするのに、発信ボタンを押したとき、俺の口はカラカラに乾いてて、手は緊張で震えて冷たくなっていた。


1コール目、2コール目、3コール目…


もしかしたら仕事中で出れないかも、


と思った矢先に、プツッと途切れるコール音。


『もしもし蓮!!!??どうしたの!?!? 』


そして、耳にキンと響くほどのすばるの声が、勢い良くスマホから聞こえてきたのだった。



「わっ…!これすばるくんの声!?」


スマホからの声が聞こえたようで、興奮するように小声で話している三井さん。

俺はそんな三井さんを尻目に、緊張で頭が真っ白になりそうになった。

でも俺が何か言う前にすばるがベラベラと喋ってくる。


『蓮から電話かかってくるとかびっくりなんだけど!すっげえ嬉しい!!見間違いかと思った!!まじでどうしたの!?なんかあった!?』

「…いや、…えと、あ…の、さ、」

『わぁー!!!ほんとに蓮だ!!久しぶり!!嬉しいな!!!』

「う、うん、俺だから、……ちょ、すばるちょっと黙って、声キンキンうるさい。」


あまりにすばるの声がうるさすぎて、久しぶりの会話にも関わらずいつもの調子ですばるに思ったことを口にしてしまうと、隣で高橋がぶっと吹き出している。


『だって嬉しいんだもん!!!』


ギシギシ?ボフボフ?すばるの声と共に騒がしい音も一緒に聞こえてくる。


「今なにしてんの?」

『今??部屋でゴロゴロしてた!!あ、やっべ、コップに向かってクッション投げちゃったよ!!!』

「はぁ?なにやってんの、バカ。」


慌ただしい様子の電話先のすばるに、クスッと笑ってしまった。


『うわ!お茶めっちゃこぼれたし!!!』

「相変わらず落ち着きねえな。」

『だから嬉しいからだよ!連絡くんのずっと待ってたんだからなぁ!!』


…あぁダメだ、電話はダメだ。

こんなの会いたくなるに決まってる。

もしこれで言えなきゃ、すばるに電話をした意味が無い。

自分の口で、ちゃんと言わなきゃ。



「なぁ、すばる、…いつ会えんの…?」



これは、高橋に言われたからじゃない。

俺がすばるに会いたくて、会いたすぎて、自然に出た問いかけだった。

そして………


『今!!!!!』

「……え??」

『今すぐ会えるから待ってて!!!』

「…はっ…!?」


それだけ言い残したすばるに、ブチっと突然通話を切られて、唖然とした。


「え!?ちょっと待って!?今すぐ会えるって言わなかった!?え!?どういうこと!?ちょっと待ってぇ!?」


電話のすばるの声が三井さんにも聞こえていたようで、三井さんはその途端に髪を整えたりしてそわそわし始めた。


「え、…まじ?」


園村は俺と同じように信じられない、というように固まって、唖然としており、それとは対照的に高橋は「ま、そうなるよなー」とまるですばるの行動は分かりきっているような態度で笑っている。


「…え?すばる来んの…?」

「来るんじゃね?」


『待ってて』って言われても、このあとまだまだ授業あるんだけど……

どうしよう。


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