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蓮の家を出た頃にはもうすっかり夜になってしまい、のんびりしている暇も無く、駅まで俺を見送りに来てくれた蓮とは泣く泣くお別れをした。

帰りの電車の中で暫く放置していたスマホを開くと、中学の頃に仲が良かった友達は勿論のこと、そこまで仲良くはないけどラインは交換していた元クラスメイトや、ほとんど喋ったことはないのに何故か連絡先が入っているだけの人から【 今日地元戻ってきてたらしいね 】っていうようなメッセージがたくさん届いていることに気付く。

俺はただ蓮に会いに来ただけであってそんな大層な事でもないのに、俺の行動がやたらと知人に知られている事にちょいビビる。

申し訳ないけどそこまで親しくない人からのメッセージはスルーして仲が良い人からのメッセージを順に開いていくと、【 梅野とパパラッチおめでとう 】っていうメッセージと共に写真が何枚か貼り付けられていた。

えぇっ…!?

驚きでついギョッとした顔はしてしまったが、電車内で声が出なくて良かった。送られてきた写真を拡大したりしてまじまじと見つめるが、どう見ても先程の俺と蓮が公園で喋っていた時の写真だ。

こんなの撮られてたんだ…って微妙な気持ちになりながらも、俺の指は保存ボタンを押している。だって貴重な蓮の制服姿なんだもん。つーかツーショット撮ってくれって高橋に頼めば良かったな〜。

…って、盗撮された写真を見ながらそんな呑気なことを考えている場合ではない。蓮が見たら嫌な気持ちになっちゃうかな。蓮の目に触れなきゃ良いんだけど。

…と思いながらもやっぱり高校の制服姿の蓮が写ってる写真が俺にとっては貴重で、その写真をジッと飽きるくらい見てしまった。



翌日は朝から絶好調で仕事をこなし、いろんな人に「すばるくん今日テンション高いね」なんて言われてしまったがそれもそのはず。

家を出る前に【 蓮おはよう!昨日は蓮に会えて嬉しかった!!今から撮影行ってきます♪ 】って調子に乗って写真付きでラインを送ったら、前まで全然返事をしてくれなかった蓮から【 おはよう、俺もだよ。行ってらっしゃい頑張って 】っていう嬉しい返事をすぐに貰えたからだ。

『俺もだよ』だってさ!『俺もだよ』って!蓮の声で繰り返し脳内再生し続ける。

しかも【 頑張りま〜す 】って返信文字を打っている最中に【 髪型かっこいい 】っていう写真の感想まで貰い、テンションが上がらないわけがない。しかし少々引っかかる。“俺が”かっこいいんじゃなくて、かっこいいのは“髪型”だけ?

わだかまりを解消すべく【 髪型が?かっこいいのは俺じゃなくて? 】って我ながら鬱陶しい問いかけをすると、すぐに既読はついたけどその数分後に【 すばるが 】って返ってきた。返事するの照れ臭かったのかな〜?

自分に都合良く考えてにたにたした顔で蓮が照れている姿を想像しながら【 やったー!! 】って送ったらもう返信は無かったけど、これだけのやり取りでも朝からできて大満足だ。


午前中はそんな感じのハイテンションで撮影をこなしていたのだが、ハイテンションなのはそう長く続くことはなかった。


午後を過ぎた頃、【 梅野今日女子に話しかけられまくってるぞ 】っていうメッセージが高橋から届いていることに気付く。


【 なんて? 】

【 朝倉すばるくんと親しいんだねって 】

【 親しいよ。ラブラブだよ。 】

【 キモw 梅野だいぶうんざりしてそうだった 】

【 キモイ言うな!! 】


高橋とのそんなやり取りが暫く続くが、蓮がうんざりしてるっていうのは聞き捨てならない。

【 他にはなんか喋ってる? 】
【 蓮俺のことなんか言ってなかった? 】
【 つーか蓮の写真送ってくんない? 】
【 お前だけは蓮と仲良くすることを許す 】

我ながら鬱陶しいくらい立て続けに高橋にラインを送り続けたら、案の定【 連投うぜえw 】って言われたものの、高橋は律儀に【 小中学が一緒でって返してる梅野の声は聞こえた 】って教えてくれた。

小中一緒なだけじゃないんだけどな〜。もう蓮からもチューしてくれちゃうくらいラブラブなんだけどな〜。……なんて、昨日の蓮とのやり取りを思い返してはにやにやしてしまう俺だったが、さらに高橋から【 あと『次はいつ来るか聞いてる?』とか女子にグイグイ聞かれてて『さあ』って困りながら首傾げてたな 】っていう話を聞いて、蓮が女子にグイグイ話しかけられてる光景を想像したら一気にテンションダウンした。

俺が次はいつ来るかって?……未定だよ!!好きな時に帰らせろ!!

俺の可愛い蓮を困らせる奴は例え女だろうが許さん、というメラメラ怒りの炎が胸の中に湧き上がっていた時、さらに俺のスマホには別の人物からテンションが下がるメッセージが送られてくる。


【 蓮くんの妹から伝言。『こういう写真撮られるような場所でもうお兄ちゃんと会わないで』だとよ 】


それは、我が弟からのラインだった。いつも家族でのグループトークでしかやり取りをしない弟が珍しく個人ラインで送ってきた。そんなメッセージと一緒に弟からも俺が昨日保存した盗撮写真が送られてくる。…ゲッ、紫苑この写真見たんだ。

あいつ昔からこういうのすげえ嫌がってくるんだよな。蓮絡みの主に俺の噂話とか。

蓮と紫苑の兄妹仲は良くも悪くもなく普通だけど、俺のことは嫌ってそうで、蓮と俺が仲良くすることも昔からあんまりよく思ってなさそうだから、こんな写真が拡散されてるなんて今頃あいつ怒り狂ってるかも…。

蓮の妹にいつまでも嫌われっぱなしっていうのも俺としては複雑な気持ちで、できれば蓮のお母さんとの関係みたいに会えば普通に挨拶をして、普通に喋れる仲になりたいんだけどなぁ。


この際弟を通してではなく直接紫苑とやり取りをしようと弟に【 しおんのライン教えて 】ってお願いするが、弟からは【 知らん 】って一言、素っ気なく返されてしまった。


知らねえのかよ!知っとけよ!!お前ら同じ学年だろ!!!…いやでも待てよ?そういや二人は九年間同じ学校に通ってるのに同じクラスになったこと無かったんだっけ?

まあそんなことはどうでもいい。俺は、昔からパシリのような扱いをしまくっている弟に【 明日聞いてきて 】ってさっそくパシるが、その後奴からの返信は無かった。


生意気だぞ、ギャラクシー。お前そんなんだから俺にギャラクシーって呼ばれるんだよ。





クソ兄すばるに梅野紫苑からの伝言を伝えたら、【 しおんのライン教えて 】って返ってきた。しおんのライン?知らねーよ、寧ろ俺が知りてえよ。つーか知って何を話す気だ?

まあ教えようがないので【 知らん 】って返したら、人使いが荒い兄は【 明日聞いてきて 】って返してきた。ふざけんな!!なんで俺が…!!


表向きはめんどくさがってるフリしたくてすばるからのラインをシカトしたが、自分から梅野紫苑に話しかけるには絶好のチャンスを俺がスルーするはずがない。ぶっちゃけ夜からそわそわしてしまいなかなか寝付けなかった。すばるにバレたら絶対からかわれるからこんな感情はなんとしてでも隠しておかなければ。


翌日俺は、さっそくすばるからの頼みを聞いてやろうと梅野紫苑のクラスの教室を覗いた。


梅野紫苑は一人で席に座っていたから、今がチャンスだと思って教室の入り口から「梅野さん」って声をかけたら、俺の声に反応してハッと顔を上げてくれる。

小さく手招きをすると梅野さんは席から立ち上がり、こっちに来てくれたのだが、何故か周囲からの視線が痛いほど突き刺さっていた。もしや今まで俺と梅野さんが絡むことなんて無かったから、すばる絡みの用事だということを勘付かれていて注目されているのかもしれない。みんな身近に居る芸能人には無駄に興味津々だからな。


その後二人で廊下の隅に移動すると、先に口を開いたのは梅野さんからだった。


「どうしたの?」

「…あ、急にごめん。すばるに昨日梅野さんが言ってたこと伝えたんだけどさ、」

「あ、ありがとう。」

「うん、それであいつ、梅野さんのライン教えてって言ってきて……。」

「…えぇ?すばるが?なんであたしの?」

「さぁ、…それは知らん。」


おいすばる、お前今すっげー顔顰められたぞ。すばるにラインを聞かれたらほかの女子なら喜んで教えてくれそうなのに、梅野さんの顔は見るからに嫌そうだった。


「ふふっ…、嫌だよな。ごめん。」


やっぱり梅野さんはすばるのことをよく思ってなさそうだから、わざわざそんな用事で呼び出してごめんって意味で謝りながらも、梅野さんに嫌悪感を出されているすばるが面白くて俺はついつい笑ってしまった。

しかしそこで何故か梅野さんも俺の笑いに釣られるようにクスッと笑ってくる。


「嫌だけどまあいいよ。うざいこと言ってきたらすぐブロックか無視するし。教えるの放課後でいい?」

「あ、うん…、サンキュー。」


…え?俺放課後もまた梅野さんと話せるの?最高じゃねえか。

梅野さんにお礼を言うと、「じゃあまた後でね」って彼女はヒラリと手を振って、さっさと教室に戻っていった。その後の俺は、ニヤニヤを抑えるのに苦労した。


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