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蓮の家は俺の家からそう遠くない徒歩数十分の距離にあるから、俺の家に先に行ってからちょっとだけ早足で歩いて、幼少期から何度もお邪魔したことのあるマンションの一室、3LDK間取りまでバッチリ把握済みの蓮の家に久しぶりに訪れた。
蓮が家の扉を開けると、すぐに「蓮おかえり〜」って蓮のお母さんの声が聞こえてくる。…あぁ〜懐かしいなぁこの感じ。でも俺も居ることに驚かせてしまい、「えぇっ!?すばるくん!?」って目を見開きながら玄関に歩み寄ってくる蓮のお母さん。
その直後に蓮の妹、紫苑の部屋の扉が開き、昔は俺が家に来ている時は俺から避けるように部屋から出てこなかったくせに、今日は飛び出すように部屋から出てきた。
蓮とそっくりの可愛い顔をしているのに、中身は全然蓮とは似てないちょっとキツめの性格で、昔から俺のことが嫌いなのかやたら喧嘩売ってきたりして可愛げのない奴だ。
それでも可愛い蓮の妹だからと「久しぶり」って声を掛けると、珍しく普通に「久しぶり」って返ってくる。さては俺が有名人になったから俺の見る目ちょっと変わった?…って思ったけどまあこいつに限ってそんなことはないか。
時間もあまりないためすぐに行き慣れた蓮の部屋の中に入り、カチャ、と部屋の鍵を閉めさせてもらった。
部屋の明かりをつけるのも忘れて蓮を抱き寄せ、壁に凭れ掛かりながらずるずると腰を下ろすと、蓮は俺の身体にそっと控えめに手を添えてくる。それから俺の肩に額を押し付け、全身の力を抜いてリラックスするように頭を預けてきた。
……可愛い。こんなふうに蓮が俺に寄りかかってくれたのなんて初めてだ。すっげえ幸せ。心が満たされる。
このまま触れ合っているだけでも幸せだけど、顔が見たいしキスもしたい。
でも少しの間だけ俺に身体を預けてくれる可愛い蓮をそのままにして、髪を撫でていたら、蓮の方から「すばる」って小さな声で名前を呼んで話しかけてくれた。
「ん?なぁに?」
「……ずっとすばるに会いたかった。」
ポツリと呟くように蓮から言われた言葉に、グッと胸に熱い想いが込み上げてくる。……あぁ、本当に嬉しい。ほんの数時間前まで蓮は俺のことなんて全然興味ないのかと思ってた。会いたくて会いたくて堪らないのは俺だけだと思ってた。
蓮にいじわるをするつもりはないけど、暫くの間会わなくなっただけで蓮がこんなにも俺を恋しく思ってくれたのなら、蓮から離れる進路を選んで正解だった。押してダメなら引いてみろって正にこういう事だよな。
そんなことを考えながら「俺もだよ」って返事をして、もうそろそろ我慢もできなくて、蓮の首や頬に手を添えて、こっちへ向かせて蓮の唇に口付ける。
何度も何度も口付けて、もっともっと、さらに深く口付けると、少し苦しそうに「ンッ」と小さく声を漏らす蓮が可愛い。
「蓮口開けて?」
そう言ったら、薄く開く蓮の唇。舌を入れて絡め取ったら、蓮はもっと苦しそうに息を吐きながらぎゅっと俺の着ているジャージを握ってきた。
「ハァ…ッ、…ンッ…」
必死に呼吸をしているけど、俺が長々とキスし過ぎてしまったようで途中でふるふると首を振られる。
「しんどかった?」
「…うん。」
「ごめんね?蓮すげえ可愛かった。」
ぐったりしながら蓮がまた俺の肩に額を押し付けてきたから、蓮の髪をゆっくり撫でながら話しかけると、俺の胸元にあった蓮の両手が俺の腰に周り、ぎゅっと抱きついてくる。
でも俺はそんな可愛すぎる蓮に少々危機を感じてしまい、待ったをかけた。
「あっ…。蓮ちょっと待って?」
チラッと俺の顔を見上げてきた蓮にコソッと耳元で「勃ちそう」って口にすると、蓮は無言で立ち上がり、そっと俺から離れていった。……あぁ、うん…まあこれはしょうがない。これ以上くっついてたら俺もういろいろと我慢できないしな。…うん、これでよかったんだ。
部屋の明かりを付けてから蓮はベッドに腰掛けると、こっちを見ながら突然クスッと笑ってきた。
「え〜?なに笑ってんの〜?」
「朝倉すばるテレビでは猫被りすぎだよ。」
俺の方を見て、蓮はクスクスと笑いながらそんなテレビでの俺の話を始める。ラインでは【 見たよ 】とか【 面白かった 】とかありきたりな感想しかもらえなかったけど、テレビに出ている俺を見て思うことはいろいろあったのかもしれない。
「猫?別に被ってないよ?普通だよ?」
「ううん、被ってるよ。だってすばるの笑顔いつ見ても胡散臭いし。」
「えぇ!胡散臭い!?テレビ見てくれてる蓮に向けていっつも必死に笑顔見せてたつもりなんだけど?」
蓮の言葉を聞き、まさか蓮にそんなふうに見られていたなんて…って軽くショックを受けていたら、蓮はさらに追い打ちをかけるように話を続けてくる。
「必死に笑顔作ろうとするからだろ、あと無駄に爽やかキャラも作ろうとしてるからか余計に胡散臭い。」
「めちゃくちゃダメ出ししてくんじゃん…。そういうのラインで言ってくれたらすぐ直すのに。」
「ダメ出しじゃなくて今のは“すばる”に言ったただの感想。」
「えー?どういうこと?」
「俺の中でテレビに出てる“朝倉すばる”と今俺の前にいる“すばる”は別物だから。」
「えっ!一緒一緒!!どっちも俺だって!!」
すぐに俺は自分を指差しながら蓮に言われたことを訂正すると、蓮はそんな俺を見ながら納得いってなさそうに少しだけムッと唇を尖らせる。
そこで俺は立ち上がり、「別人みたいな言い方しないでよ〜」って不満を口にしながら蓮の隣に移動して蓮をまたハグすると、蓮にはまた「俺の中では別の人」って言われてしまった。
「え〜、一緒なのに。じゃあどうしたらテレビに出てる俺も俺として見てくれる?」
「笑顔作ろうとしなくてもすばるはいつもにこにこしてるから、いつもみたいに自然な感じで喋ってるすばるが良い。」
「それは可愛い蓮見てたら自然に顔がにやけてるだけだよ〜!!」
蓮に言われたことにめちゃくちゃ嬉しくなった俺は、蓮をベッドに押し倒す勢いで蓮の方へ迫り、ハイテンションになりながらそう返したら、蓮は「わっ」と驚きの声を上げながらバランスを崩し、ベッドに背中から倒れ込む。
「じゃあ次からはテレビでもいつもの俺で喋るからちゃんとできてたか感想ちょうだい?」
「うん、いいよ。」
「あと一日一回電話していい?できればテレビ電話がいい。」
「…えぇ、……それは嫌。」
蓮が電話苦手なこと知ってるし今まで我慢してたけど、今ならそんな俺のお願いも聞いてもらえるんじゃないかと思って言ったらやっぱり嫌がられてしまった。
「じゃあテレビ電話はなしでいいよ、普通の電話は?」
「……んん、……やだ。」
「ああんもう!嫌ならしょうがないけど蓮可愛いから許す〜!!」
ちょっと考えてくれてると思ったら、やっぱり『やだ』って返されて、残念だけど仕方ない。
両手で蓮の頬を挟み、ぐにぐに触れながらキスしたら、蓮はそんな俺からのキスをちょっと嫌がるように顔を避けられてしまった。嫌っていうより、この体勢でキスされるのが恥ずかしかっただけかもしれない。ほんとに何をやっても蓮は可愛い。キスを避けられるだけでもキュンとする。もう俺重症だ。
「じゃあ蓮の顔見たいからしょっちゅう会いに来る。」
「うん。それがいい。」
蓮の返事が嬉しくて、にやにやしながら最後に一度だけ、チュッと蓮にキスをしてから立ち上がった。
ほんとはもっとここでゆっくりしていたいけど、帰らなきゃ。このままではどんどん時間が経ってしまう。
「じゃあ俺残念だけどそろそろ帰んなきゃ。」
「…うん。すばる今日来てくれてありがと。……嬉しかった。」
蓮も身体を起こし、俺を見上げながらまたそんな嬉しい言葉を言ってくれた。
蓮の言葉や仕草、全部が愛しくて、もう帰らなきゃいけないけどこれがほんとのほんとに最後にあと一回だけ。ぎゅっと蓮の身体を抱きしめた。
「俺も、蓮からの電話嬉しかった。」
そう言いながら蓮の顔を見つめてにこっと笑ってみせたら、その直後蓮はゆっくりと俺の方に唇を寄せてくる。
内心『わわわ…』とかなり期待しながら待っていたら、ほんの一瞬だけ『チュッ』と、蓮から唇を重ねてくれた。不慣れな蓮からのキスが、めちゃくちゃ可愛かった。
…なぁ蓮、…俺を殺す気か?…って思うくらいキュン死にしそうでやばい。あと勃ちそ…、あっすでにもう手遅れだった。
固まる俺に、蓮はクスッと笑ってくる。
「俺からキスしたよ。またすぐ会いに来てくれるんだよな?」
「…あ、うん、来ます。」
とりあえず今勃起してるからもうそれ以上は話しかけないで、俺ほんとに帰れなくなるから。……って、その後俺は五分くらい、蓮の部屋で無言で正座し続けた。
最初は「すばる?」って不思議そうな顔で俺を見てきた蓮だけど、すぐにいろいろ察してくれたようで、「いきなり黙り込むのやめて…。」って言いながら困ったように苦笑いしていた。
…あーあ、俺蓮にかっこ悪いとこばっか見せてんなぁ…。もっとかっこいい男になりたい…。
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