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るいくんの住むマンションの部屋の前まで来て、鍵を開けたるいくんが、ガチャ、と扉を開けた瞬間あたしの視界に入ったのは、先日るいくんと学食で仲良さそうに話していた男の子が玄関へ駆け足で向かってきた姿だった。


「るいおかえ、りー……え、誰…あ、」


しかしその男の子は、あたしの姿を見た瞬間、戸惑ったように表情を硬くする。


「大学同じで知り合った子。」


るいくんはあたしを男の子にそう紹介したあと、男の子の耳に口を寄せ、コソッと何かを告げている。


『ごめん、あとで言い訳言わせて』


あたしの耳にはるいくんがコソッと、そう言った声が僅かに聞こえた。

ぺこりとあたしに会釈してきた男の子に、「お邪魔します」と会釈を返して部屋の中に入っていったるいくんの後を追う。

部屋の中を見渡しても、るいくんの彼女らしき人の姿は無く。あたしはるいくんに問いかける。


「るいくんの彼女は?」


そう問いかけたのに、るいくんからは「そこに座ってて」と問いかけの答えとは違う返事が返ってくる。

テーブルの上にスーパーの袋に入った食材を置き、手を洗い、着ていたジャケットを脱いで腕まくりをしたるいくんは、さっそく先ほど買ったばかりの野菜を手にした。


「…帰ってきていきなり飯作んの?」


るいくんの元に歩み寄ってきた男の子が、るいくんにそう問いかける。するとるいくんは、また男の子の耳に口を寄せ、コソッと男の子に告げる。


『あの子カレー食ったらすぐ帰ると思うから。』


僅かに聞こえる話し声。

ジッと二人の様子を眺めていると、あたしにチラリと視線を向けた男の子と目が合って、でも男の子はサッとあたしから目を逸らした。


なんだかギクシャクした態度でコップにお茶を入れた男の子が、「どうぞ…」とあたしにコップを差し出してくれる。お礼を言うと、男の子はササッとあたしの前から立ち去った。

あの男の子は、なんでここに居るんだろう。


「手伝う…。」と、るいくんの隣から離れない男の子が、ピーラーでニンジンの皮を剥きはじめた。

るいくんの家に居るってことは、あの男の子よっぽどるいくんと仲良いんだろうなぁ…と思いながら、夕飯を作っているるいくんの姿を眺める。


「料理してるるいくんかっこい〜っ!」


しかし彼女が居ないのは好都合だ。あたしはるいくんとの距離を縮めようと、にっこり笑ってるいくんを褒める。


「料理できる男の人って素敵〜!」


その褒め言葉は本心からで、料理をしているるいくんの姿はほんとうに素敵。

見惚れながらるいくんを褒めると、るいくんは「ハハ、そりゃどうも…。」と引き攣った表情を浮かべながら返事をされた。なんだかちょっとその反応は嬉しくない。

もっと照れてくれてもいいのに。

あたしに褒められて嬉しくないの?と不満な態度が出てしまいそうで危ない危ない、と思っていると、るいくんの隣でずっと大人しくピーラーでニンジンの皮を剥いていた男の子が、やたらとむっすりした表情になっていることに気付く。ていうかいつまでニンジンの皮剥いてるの?

今度はその男の子を観察するように眺めていると、男の子はチラリとあたしに目を向けた。

またサッと目を逸らされ、あたしから目を逸らした直後、男の子はニンジンの皮をるいくんに向かって投げつけた。


「ていっ!!!」

「うわっ!なになに!!!」


驚いたるいくんの姿を見てから、ポトリと床に落っこちたニンジンの皮をわざわざ拾ってゴミ箱に捨てている。


「…航くんご機嫌ななめかな?」

「べっつに〜。」


むっすりしたままピーラーを置き、男の子はニンジンをるいくんに押し付けた。

手伝うのをやめた男の子は、むっすりした表情で肘をついてテーブルの椅子に腰掛ける。


「ゆでたまごは半熟だからな!!」

「はいはい、分かってるよ。」


よく分からない関係性…。いきなり不機嫌になって、るいくんに命令している男の子。その態度はちょっとなんなの?

るいくんの彼女はまだ部屋に居なくって、居たのはこの男の子。あたしはるいくんの彼女が居ない隙にるいくんとの仲を深めたいと思っているのに、この男の子がいてあまりるいくんと話せない。


ジッとただ座って見てるっていうのも飽きて、あたしは男の子の存在は気にしないようにして、スッとソファーから立ち上がり、るいくんの側まで歩み寄った。

コンロの前に立ち、野菜やお肉を炒めようとしているるいくんの耳元で甘い声を出す。


「るいくんほんとーに素敵。抱かれちゃいた〜い。」


つまりあたしは、るいくんなら全然オッケーって意味で。わりと本気で誘ってるんだけど、るいくんは耳元で囁いたあたしにビクッと肩を震わせたあと、「びっくりしたぁ…お前座ってろよ。」と冷たく吐き捨てられてしまった。


やだっ、全然あたしのお色気作戦通用してない…。こんなこと今までになかったあたしは悔しくて、ここで引くわけにはいかず。


「やーだ。せっかくるいくんが料理してくれてるのに大人しく座ってなんかいられないよ。なんか手伝うことはない?」


お色気作戦が失敗したから、今度は良い子アピールをしようとしたところで、るいくんはチラ、と振り返り、あたしではなく大人しく椅子に座っていた男の子に目を向けた。

るいくんの視線を辿るようにあたしも男の子に視線を向けると、先程までむっすりしていた男の子が半べそかいた子供のように唇を尖らせて、自身の手をいじっていた。

そんな男の子を見たるいくんはバツが悪そうに困った表情を浮かべて、あたしに向かって「座ってていいから。」と吐き捨ててから、野菜とお肉を炒め始めた。


なんなの…?

るいくんこの男の子のこと気にしすぎでしょ。


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