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「宇野、今回テスト頑張ったな〜!点数良かったぞ!」


廊下ですれ違いざまにそう声をかけてきたのは、英語担当の先生だった。


「まじすか!?何点??」

「それはあとのお楽しみ。」


テスト返却まで結果を教えてくれない教師にじれったい気持ちになるのはこれで何度目だ?国語教師も、世界史の教師も、数学教師まで、俺を褒めるだけ褒めて去っていった。

元Eクラスで、今はCクラスの俺は、今までのテストでは70点台や80点台でも褒めてもらえた。でもいくら先生には褒めて貰えたとしても、70点台や80点台では正直自分の満足な結果では無い。

無理難題かもしれないけど、俺は100点を取るつもりで望んだテストだったんだ。



第一発目のテスト返却は英語だった。

『点数良かったぞ』と褒めてくれた先生は、にこにこしながら答案用紙を渡してくれた。


ドキドキしながら点数を見ると、90と書かれていた。複雑な気持ちだった。これは俺の英語での最高得点だ。十分喜んでいいレベルだ。

けれど、それと同時にやっぱり俺には100点は無理なのか…と現実に打ちひしがれる。


その次の時間に返された一番苦手な数学は85点で、90点台すら届かなかったことに悔しい気持ちになる。


その後続々と返ってくる答案用紙の点数も、似たような数字だった。


世界史の教師は、返却時にまた俺のことをクラスメイト全員の前で褒めてくれた。結果は94点だった。


「………まじか。」


今までのテストのトータルで一番良い点だった。ぶっちゃけ、100点じゃねえけどめちゃくちゃ嬉しかった。

隣の席のクラスメイトが、俺の答案用紙を覗き込んできて「宇野すげー…」と言ってくれたから、俺は思わずドヤ顔でピースした。

100点じゃねえけど、クラスメイトがそう言ってくれることが誇らしかった。


「雄飛どうだった?」


休み時間に俺のところにやって来た絢斗には正直結果を言うのは複雑な気持ちで、返ってきた答案用紙を無言で手渡すと、点数を見た絢斗はやっぱり微妙そうな表情で。


「バーカ。」とおでこにデコピンを食らった。こいつは本当に俺が100点を取れると思っていたんだろうか。


「100点以外は褒めてやんねーよー。」


絢斗はそんな辛口なコメントを残して去っていった。

厳しい絢斗の背中を眺めながら、苦笑した。





6時間目、テスト勉強で毎日夜更かししていたからさすがに眠い。でっかい欠伸をしていると、6時間目の担当、国語教師がこっちを見てクスクスと笑いながら教室に入ってきた。

そんな先生と目が合って、思わず口をサッと閉じる。


「ふふ、授業はじめまーす。」


…あれ?そう言えば。テスト返却はもう全教科終わったと思っていたけど、国語がまだだったことをふと思い出した。


国語は一番自信のある教科で、今までわりと褒めてくれていた国語の先生にはまだ一切褒められてねえな。なんて事を考えていると、不意にまた国語の先生と目が合う。


「…ん?」


なんだろう?と首を傾げると、先生はにこやかな表情で突然俺の名を呼んだ。


「宇野くん。」


「……はい?」


突然のことに、クラスメイト全員の視線が一斉に突き刺さった。

一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってくる先生が、にこやかな表情で俺に一枚の紙を差し出してきた。


「よく頑張りましたねぇ。」


そう言われながら裏面は真っ白なその紙を受け取っただけで、それが国語の答案用紙なことは分かった。


ゆっくりと表面に紙をひっくり返した瞬間、飛び込んできた数字に思わず手が震える。


言葉を失っていた俺の頭を、先生はぽんぽんと撫でてくれた。


目頭が急に熱くなって、居てもたっても居られなくなり、席から立ち上がる。


「うぉぉおおっしゃあ!!!!!」


俺は今が授業中だと言うことも忘れ、絢斗のいるSクラスの教室へ気付けば叫び声を上げながらダッシュしていた。


ガラリとSクラスの教室の扉を開けると、唖然としながら俺を見る先生と生徒たち。

けれど俺はそんな視線も気にする事なく、一目散に絢斗の元へ向かい、絢斗に伝える。


「おい!とった!とったぞ…!!!

100点とった!!!!!」


突然のことにキョトンとしていた絢斗だが、俺の手に持つ100と書かれた国語の答案用紙を目にして、絢斗は「まじ!?」と驚くように立ち上がり、互いに手を取り合い、人目も憚らず俺たちは抱き合いながら喜んだ。


目標に向かって努力して、テストの点数ひとつでバカみたいに喜べる今が、最高に楽しいと思った。



その後ハッと我に返り、Sクラスの授業の邪魔をしていたことに気付き、今更恥ずかしくなりながらそっと絢斗から手を離す。


「…あ、すんません、…お邪魔しましたー。」


苦笑しながらぺこぺこ頭を下げて後退する俺を見て、絢斗は可笑しそうに笑っている。

けれど、教室を出る直前、絢斗は教室によく響く声で、一言俺に向けて言ってくれた。


「雄飛、おめでとう!」


友人のその一言だけで嬉しくて、また目頭が熱くなってしまいそうだった。

照れ臭くて、恥ずかしくて、絢斗の方を見れないまま、軽く手を振って立ち去る。


「……よっしゃ!!」


そして俺はまた、バカみたいに一人そんな声を上げながら自分のクラスの教室に戻った。

先生は勝手に教室を出て行った俺を怒ることもなく、笑顔で迎えてくれた。


俺は多分、人生で初めて100点を取れた今日のことを、一生忘れることは無いと思う。


38. 宇野会長の努力と目標 おわり


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