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「え…、送別会…?それって絶対行かなきゃダメですか…?」
バイト先で退職される方の送別会が行われることになり、出欠の確認をされている綾部が嫌そうな顔をして聞き返している。
「うーん、綾部くんは絶対かなー。木村さんにはお世話になったでしょ?」
「ま、まぁ…。」
にこにこと笑顔で綾部に話しかけているものの、幹事を務めている社員さんからは黒いオーラを感じた。欠席なんて絶対させてやるものか、と言いたげな気持ちがなんだか透けて見える気がする。
どうやら送別会という名の飲み会の場を利用して、普段から興味津々な綾部のプライベートな話を根掘り葉掘り聞く気のようだ。
「うわー…まじか。給料前に会費4000円は痛すぎる…。」
その後、カレンダーを眺めながら一人ぼやいている綾部。どうやらお金の心配をしているようだ。気持ちはよく分かるぜ、綾部。
ポンポンと綾部の肩を叩き、『俺も同じだ。』と言いたげにうんうんと頷いて見せると、綾部は俺の方を見て、「4000円って高くない?」と文句を言ってきた。
「3500円がコース代で500円がお餞別らしい。」
「おせんべつ?」
まさかのお餞別を聞き返され、ん?と首を傾げてしまった。意味知らねえのか?
「お菓子あげるの?」
「え、…いや、なにあげるかは知らねえけど。」
…ん?綾部の頭ん中ではお餞別イコールお菓子になるのか?天然なのか、バカなのか、ちょっと扱いに困る綾部との会話はそこでひとまず終え、俺たちは業務に入った。
*
そして、送別会の日はすぐにやってきた。
時刻は19時を少し過ぎた頃、送別会会場として予約された居酒屋の宴会用の大部屋には、続々とバイト先の従業員が集まってくる。
「あ!横井くんだ〜、早いね〜!綾部くんは?」
「綾部はまだ見てないっすよ。」
「え〜?もーあの子ちゃんと来るかなぁ。」
さっそくまだ姿が見えない綾部は心配をされている。まさかのばっくれやしないかと俺もちょっと心配だ。同世代でバイト仲間の綾部が居ないと俺も少し居心地が悪い。
集合時間は19時となっているが開始は半からで、綾部なら開始ギリギリに来そうだな、となんとなく思っていた。
その予想は大当たりで、19時半ちょうどくらいに姿を現した綾部は幹事の方に頭を軽く叩かれている。
「あれ?19時半からじゃないんですか!?」
「19時半からだけど集合は19時って言ったでしょぉ!?」
「あれ!?」
どうやら19時集合、半開始をよく理解していなかったようだ。呆れられながらも笑われている綾部に場が和む。アタフタしながら綾部用に空けていた俺の隣の席に、綾部はふぅと一息ついて腰を下ろした。
「あっぶなー、遅刻したかと思った〜。」
呟く綾部に、若干遅刻だけどな。と思いながらも口には出さず、クスリと笑った。
「えー、それでは!この度退職されるということで、木村さんの送別会を始めたいと思います!木村さん今までありがとうございました!お疲れ様でした!!…乾杯!!!」
幹事の方の掛け声に合わせて各々がグラスを持ち、掲げて『カン!』と小さくグラスを近い席の人同士でぶつけ合った。未成年の俺はウーロン茶、綾部はコーラを持って乾杯する。
「横井くんは次ハタチだよねー?お酒もうちょっとの我慢だね!」
「あ、そうっすね。」
「綾部くんは横井くんの一個下だっけ?」
「俺が二回生で綾部が一回生っす。」
正面や隣に座った先輩から話しかけられること全部に俺が返事をしている中、綾部はちびちびとコーラを飲みながらお通しに手を付けている。
綾部も食べてないでなんか喋れよ。と言いたげに視線を送ってみると、俺の視線に気付いた綾部がお通しを指差しながら口を開いた。
「これ美味い。」
「おお、まじで?」
綾部に言われてそこで初めて箸を持った俺も、お通しに手を付けた。
うん、確かに美味しいな。と綾部に話しかけようと横を見ると、綾部はコーラが入ったグラスに口をつけながら首を傾げている。
「ん?綾部どした?」
「…いや、なんかこのコーラ味おかしい気がする。」
そう言ってちびちびとコーラを飲んでは不思議そうな顔をしている綾部に、きっと綾部の気のせいだろうと思っていた。
そうしているうちに、テーブルにはどんどん料理が運ばれてくる。刺身の盛り合わせを前にした時、綾部は目を輝かせていた。
「刺身!!食べていいですか!?」
「あはは、綾部くん嬉しそ〜。いいよいいよ食べな〜、私の分もあげるよ。」
「えっ!ほんとですか!?」
バイト中には見せたこともないような明るい笑みを見せている綾部に、パートのおばちゃん達が孫でも見るような目で綾部を見て笑っている。
「ぅ〜んまい!」
パクリとまぐろの刺身を食べ、コーラを一口。
「うぉ!?なんかこのコーラめっちゃ刺身に合う!!」
綾部はテンション高らかにそう言って、俺の肩に腕を回してきた。…え、なんだいきなりこのノリ。
「綾部くんテンションたか〜!え、それちゃんとコーラだよね?」
「コーラですよぉ!ちょっとクセのあるコーラです!」
…クセのある?なんだそのコーラ大丈夫か。
「綾部くんっておもしろいよね〜、ねえそろそろ彼女居るのか教えてよ〜。」
「彼女?いないですよぉ。」
「あ、そうなの?居るのかと思ってたよ。」
珍しくはっきり言い切った綾部は、その後だらりと体勢を崩して俺に凭れかかってきた。
「居そうだったよね〜、いつも聞いても恥ずかしそうにしてはぐらかされてたし。」
「お?…うわ!横井くんの腹すごい綺麗なシックスパックぅ!」
「…ちょ、おい!捲んなよ!!」
人の話も聞かずに突然俺の腹を触り出した綾部に、ガバッとシャツを捲り上げられた。俺は、何故か普段とはかけ離れたハイテンションな綾部に、ひどく困惑した。
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