3 [ 139/172 ]

「そうやってすぐ優しくするのがるいのダメなとこ。」


航くんはジトー、とした目でお兄ちゃんを見ながら、撫で撫で、とずっとれいちゃんの頭を撫でている。そんな航くんにお兄ちゃんはすぐさま不機嫌そうにムッと唇を尖らせた。


「なに言ってんだよ。航れい離せよ、れいが航に惚れたらどうするんだよ。」

「???」


お兄ちゃんのそんな発言に、れいちゃんがわけがわからなさそうに顔からはてなマークを飛ばしている。


「それはそれで俺としては万々歳だわ。」


お兄ちゃんにそう返しながら、航くんはれいちゃんの頭を自分の胸元に押し付けた。


「バカ!離せって、航いい加減にしろ!」


無理矢理航くんの腕を掴んで、必死になってれいちゃんから航くんを引き剥がすお兄ちゃん。


「?????なに?どういうこと…?え、なにこれあたしの取り合い?るい、もしかして、ほんとはあたしのこと好きだったの…??」


航くんの腕から解放されたれいちゃんは、戸惑いながらも少し目を輝かせて、大きな勘違いをしてしまったようだ。


「…あたしがいとこだから、…だから、気持ちを抑えてた…とか?」

「ぶふっ…、くくく…」


れいちゃんの勘違いな発言に、りとが憎たらしく笑っている。


そんな状況の中、お兄ちゃんはまったくれいちゃんの勘違いには気付いておらず、航くんの方だけを見て航くんの頬をぐいっとつねった。


「航は天然タラシなんだよ、勘弁してくれよ。これ以上敵を増やすのはやめてくれ。」

「それお前が言うの?そっくりそのままその言葉返すわ。」


お兄ちゃんと航くんの関係を知っているりなとりとからしたら理解できる会話もれいちゃんからすればチンプンカンプンのようで、睨み合って会話をする二人に再びれいちゃんははてなマークを飛ばした。


「……??喧嘩?なんで二人が喧嘩…?やっぱりるい、あたしがこいつに抱きしめられたから嫉妬した?」

「あのね、れいちゃん、一応忘れてそうだから言うけどお兄ちゃんには恋人がいるからね。」


優しいりなは、お兄ちゃんと航くんに放置されて可哀想なれいちゃんの隣へ移動し、そう声をかけてあげた。するとれいちゃんは考え込むように黙り込み、ジッとお兄ちゃんを見つめ出す。

そしてれいちゃんは数秒後、「でもね、りな。」とりなに向かって語り始めた。


「今明らかにるい嫉妬したのよ?あたしが抱きしめられているのを見て止めに入ったのよ?それがなによりも証拠でしょ?…あたしがいとこだから、るいは気持ちを抑えてたのよ!!そうでしょ!?るい!!」


すごい。れいちゃんの中で物語が作られていってる。

りなに話しかけていたかと思いきや、バッ!と勢い良くれいちゃんの視線がお兄ちゃんへ向けられた。

そしてその瞬間、れいちゃんは茫然とした。


何故ならお兄ちゃんは、航くんの身体をむぎゅっと、これでもかというほど抱きしめていたからだ。航くんはお兄ちゃんの胸元に顔を押し付けられ、ちょっと苦しそう。


「へ?ごめんなに?聞いてなかった。」

「…なっ、なにしてるの、るい…?」

「航くん束縛してる。」

「…ちょっと、意味がわからない…。」


…お兄ちゃん、もうそこまで堂々と航くんに接するんだったら、れいちゃんに言ってあげたら…?と、りなはだんだん見ていられなくなってきたのだった。

りとはすっごい楽しそうにニヤニヤしてるけど。


航くんはお兄ちゃんの腕の中でもがき始め、しばらくしてからお兄ちゃんは航くんを解放した。


「ばかやろう、窒息しそうになったわ!」

「ごめんごめん、俺の愛が大きすぎる故につい。」


へらりと笑いながらそんなことを口にするお兄ちゃんに、れいちゃんは眉間にしわを寄せ、理解できない、というような表情を浮かべた。


「…どうしたらあのクールだったるいがこんなのになるの…?るいは冗談なんてちっとも言わないような寡黙な男だったのに…。」

「は?寡黙?俺が?前からこんなんだっつーの。」

「いや絶対違うだろ。」

「うん、ごめん違う。」

「うんうん、違う。」


お兄ちゃんの発言に、間髪入れずに突っ込みを入れるりとに続き、航くんとりなもうんうんと激しく頷いた。しかも航くんはちょっと申し訳なさそうだ。


昔のお兄ちゃんを知る人から見れば、誰がどう見ても、お兄ちゃんは“変わった”のだ。それは勿論、航くんの影響で。


何度も顔を合わせるりなやりとでもそう感じるのだから、久しぶりにお兄ちゃんと会うれいちゃんからすれば、ほんとに人が変わったように感じてるんだと思う。


確かに昔のお兄ちゃんはクールな感じで、冗談とかは全然言わなかったけど、りなはそんなお兄ちゃんが大好きだった。

でも今のお兄ちゃんは航くんが大好きで、ちょっとボケたりすることもあって、りなにちょっとキツく当たったりするときもあるけど、でもやっぱり優しいところは変わってなくて、そんなお兄ちゃんも大好き。


「お兄ちゃんは好きな人の影響受けまくりだよね。りなは良いと思う、今のお兄ちゃん明るくておもしろくてりな好きだよ。」


れいちゃんは昔のお兄ちゃんの方が良いって言うかもしれないけど、りなはどんなお兄ちゃんでも好き。昔はお兄ちゃんのこと好き好き言いまくってたけど、最近はあんまり言わなくてなった気がして、久しぶりに口にするとめちゃくちゃ照れ臭い気持ちになった。

お兄ちゃんもちょっと照れ臭そうにりなを見て照れ笑いしている。


そんなりなとお兄ちゃんのやり取りを見ていたれいちゃんが、不機嫌になりムッと唇を尖らせた。


「どんな人?るいの好きな人。今度会わせて。」


……って、れいちゃんまだ気付いてないんだ。

目の前にいるのに…。
お兄ちゃんの好きな人。


疑うくらいはしてると思っていたのにぜんぜん二人の関係を疑ってすらいなかったれいちゃんに驚いていると、りなとりとの目が不意に合った。


「ふつう気付くよな?」


りとが小声でりなに話しかけてくる。


「だよね。」


その後、関わるとめんどくさそうなので、りなとりとは完全に傍観者となって、れいちゃんとお兄ちゃん、そして航くんのやり取りを眺めた。


お兄ちゃんはわざわざ言う気は無いみたいだし、かと言ってれいちゃんはぜんぜん気付いてないみたいだし、暫くこの状態は続きそうだ。


31. 気付けないれいちゃん おわり


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -