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「げ、なんかれいからラインきた。」


突然スマホ片手にめんどくさそうな声を出するいに、何事かとるいが持つスマホを覗き込めば、やたらハートマークが使われたるいのいとこ、れいちゃんからのメッセージが届いていた。


内容は次の日曜るいの家に行くからるいも来て、という呼び出しだった。めんどくせえなぁと言いつつるいは分かったと返している。


「航も来れる?」と聞かれたから、バイトも用事も無いしで行けると返したけど…

れいちゃん…ちょっと嫌だな。
またこいつと一緒?とか言われそうだ。





「るい〜!久しぶり!会いたかったぁ!彼女とは別れた!?」


約束の日曜日、るいが実家の鍵を開けて扉を開いた瞬間、胸をぶるんぶるんと揺らしながらリビングから走ってきたれいちゃんに俺とるいは反射的に一歩後退りした。


相変わらずの美人なれいちゃん。
るいと並べば圧倒的オーラを放つ美男美女。


「おう、久しぶり。別れてねえよ。」


るいの腕に抱きつきそうな勢いのれいちゃんを無愛想な態度でひらりと躱し、俺を先に家の中へ入れてくれようとするるいに、れいちゃんの視線が俺へと向けられた。

その瞬間、れいちゃんの目が冷ややかになった気がしてこわい。


「は?またそいつと一緒なの?いっつも家来るときそいつ連れてくるよね。」


ほらみろ、俺の予感的中だ。俺今日来ない方が良かったんじゃねえか?と思っていると、るいがれいちゃんに何か返すより先に、リビングからチラリとこっちを見ていたりとくんが「おー航来たな、やほー。」とにこやかに手を振ってくれた。

そんなりとくんに続いてりなちゃんが、「あ!航くんとお兄ちゃん帰ってきた!?」と顔を出してりとくん同様手を振ってくれた。

……ああんもう、俺矢田兄妹まじ大好き。


しかし、会話を遮られたれいちゃんがむっとした顔をして俺を睨みつけてきた。……こわ。美人の睨みは人一倍怖い。


りとくんやりなちゃんが集うリビングには、るいママとれいちゃんのお母さんも居て、朗らかにお茶をしている。


「あ、おばさん久しぶり。」

「わ〜!るいくん久しぶり!ちょーっと見ない間にまた大人っぽくなって!ますますイケメンになってる〜!」


キャッキャとはしゃいでるいと会話するれいちゃんのお母さんに、るいはちょっと照れくさそうだ。


「やーっぱ私も男の子産んどきゃ良かったな〜!」なんて話しているれいちゃんママに、「りとみたいな生意気な弟ならいない方がマシだけどね。」なんて口を挟んだれいちゃん。

そんなれいちゃんをりとくんが「ああん?」と睨みつけて、今にも喧嘩が始まってしまいそうだ。


矢田家の親戚が集っている中でアウェイすぎる俺は存在を消したくてススス、とりとくんとりなちゃんが寛いでいるソファーの方へ行き、端の方に腰を下ろした。


けれど存在を消しているつもりでもれいちゃんが俺を見ている気がして怖い。目を合わせないようにしていたけど、「ねえ、なんでるいが来るときいっつもあんたもセットなの?」と再びれいちゃんの目が俺に向いてしまい、素朴な疑問、というような感じでまたれいちゃんに聞かれてしまい戸惑った。

しかしここで再び、矢田兄妹が俺を救ってくれたのだった。


「決まってんだろ、航はファ〜ミリーだからだよ。」


やたらとファミリーという単語を強調してそう口にしたりとくんが、俺の肩に腕を回した。


「そうそう、航くんはファ〜ミリーだよ。ってなにその言い方。」


そんなりとくんに続き、りとくんの言い方を真似するように口にしたりなちゃんも、俺の肩に腕を回してくる。


矢田兄妹に挟まれた俺を、れいちゃんはむっと唇を尖らせて「意味わかんない。」と一言口にしただけで、あとはもうどうでもよさそうにそっぽ向いた。


「不満あるなら帰れバーカ。」とそっぽ向いたれいちゃんに向かって舌を出しながら中指を立てているりとくん。

そんなりとくんの罵倒に反応するように振り返ったれいちゃんが、「あんたまじで生意気!いい加減にしてくれる!?」と近くにあったクッションを持ってりとくんに向かって投げつけた。

そういやこの人たち究極に仲悪かったな。りなちゃん以上に。


「あーもうれいってば、やめなさい!」


いとこどうしの喧嘩に気付いたれいちゃんママに怒られるれいちゃんを見て、「ククク」と笑うりとくんに、「りともね。」と軽く注意するるいママ。


まるで子供のような喧嘩をする二人だけど、二人とも高校3年生で今は大学受験真っ只中の受験生だ。


「あ!そうそうるい、聞いたよ!りともるいと同じ大学受けるですって!!?絶対やだぁ!!あんた受験校変えなさいよ!!」

「は?無理。お前が変えろ。」


思い出したようにそんな話題を口にしたれいちゃんだが、またりとくんを敵視した発言をし、再び喧嘩が始まってしまいそうだ。

しかしこのれいちゃんの発言に、るいが「え、れいうちの大学受けんの?」とちょっと嫌そうな顔をした。


「当たり前でしょ、ようやくるいと同じ学校通えると思ったら勉強もすっごく捗る〜!なのにこいつも受けるとか聞いてない!!絶対に嫌!!」

「こられい!!いい加減にしなさい!」


れいちゃんのりとくんへの発言に、またれいちゃんママがれいちゃんを叱っているが、れいちゃんはれいちゃんで本気でりとくんと同じ志望校なのが嫌そうだ。


「だって志望学部も同じとか冗談じゃない!大学行ったら高確率でこいつの顔見なきゃなんないのよ!?ていうか同じ教室とか死ぬほど嫌!あり得ない!!」

「俺だってこんなギャンギャンうるせー女がいる大学嫌だっつーの。」

「じゃあ志望校変えて!!」

「お前が変えろ。」

「絶対嫌!!!」

「ハッ、知るか。」


……れいちゃん相手だとりなちゃんより仲悪いな、この二人。と思いながら二人の喧嘩を傍観していると、同じく傍観していたりなちゃんが「二人とも落ちることはまったく考えずに言い合ってるからウケるよね。」と俺に話しかけてきた。

ごもっとも……と言いたいところだけど、この二人の学力は如何ほどのものなのだろうか。

るいの弟といとこのことだから、当たり前のように頭も良さそうだし、この二人が落ちる、ということなんて、俺も想像できないなと思った。


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