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「…絢斗がちゃんとやったらめちゃくちゃすげえのに、もったいねえよ。」

「おいおい、今更誉め殺しか?」

「…俺なんか取りたくても100点なんか取れねえし…。最高89だったし…。」

「は?89?お前にしてはやるじゃん、教科何?」

「…国語。」

「あ〜国語かぁ〜。数学っつったら素直に褒めてやってたわ。国語じゃまだまだだな。」


俺の言葉に雄飛はむすっとした顔で黙り込んだ。こいつさては不貞腐れてるな。

だんだん面白くなってきて他の教科の点数も聞くと、驚くことに60点以下は一つも無かった。

長年の付き合いだからこそ、雄飛が努力してることはよく分かる。けれど、いくら努力しても俺には追いつかない。だから雄飛は雄飛で悔しいんだろうなと、俺は勝手に推測する。


「じゃ、お言葉に甘えて生徒会長の座、雄飛から奪い取っちゃいましょうかねぇ。」


ま、それはもちろん冗談だし、そんな気俺には全くねえけど。

雄飛の反応見たさに言ってみると雄飛はムスッとしながらも「…おう、いいよ。」と真面目に頷く。

まるで生徒会長の座奪い合いみたいになっているが、原点に戻ると俺が生徒会をやめるかどうかっていう問題なんだけどな。

もう俺はだんだんおかしくなってきて、そんなことはどうでもよくなってしまった。


雄飛が座る席の隣の空席の椅子を引き、腰掛ける。数日ぶりに雄飛と会話をしたのが、俺は結構嬉しかったようだ。


雄飛に恋人が出来た時は面白く無かったし、雄飛が毎日真面目にやってんのも面白くねえ。それは、自分が雄飛と遊びたかったからで、自分が置いてかれた感があって、でも俺はいつでも雄飛の上に立っていたかった。

だから、勉強では絶対雄飛に負けねえから、優位に立っている気がしていて。今回雄飛の俺を見下したような発言が、雄飛の怒りスイッチを押してしまったようなものなのかもしれない。


「……この前のは、悪かった。」


なにが悪かったかっていうと、具体的に言うにはよくわかんねえ部分もあるけど、雄飛があそこまで怒ってきたのだから多分俺が悪かったのだ。

ぼそりと小声で謝罪すると、雄飛は目ん玉まん丸くして驚いたように俺を見ている。そんなに俺の謝罪が珍しいか?


「…なにに謝ってんのか聞いていい?」


さすが相棒、鋭いことを聞いてくる。

俺はちょっと吹き出しながら、言葉を探す。


「…お前のことバカバカ言ったこと?」


とりあえず思いついたことを言えば、期待外れだったのか「それじゃねー。」と言いながら、クスッと笑い声を漏らした。


「じゃあなんだったんだよ。」

「いい加減に生徒会辞めようとしたことだよ。俺は絢斗と頑張っていきたかったのに。」

「ああ…。」


だって、辞めてくれって言われたし。…って、そればっか言ってその後すっかり生徒会に顔出さなかったことにキレたのもあるんだろうな。


…はぁ。

いつからこんなに真面目になったんだか。

なんか、…まじ寂しくなるわ。

まあ、俺もそろそろ大人になんなきゃいけないってことだろうか。


「…わかった。じゃあ、雄飛がそんなに言うならとりあえず続けるわ。生徒会。」

「……まじで?」


なんだよ、その嬉しそうな顔。


「俺居ないと生徒会長がんばれねーんだろ。」

「……まぁ、うん。そうだな。」


って、あほらし。
俺もなに嬉しくなってんだか。


ずっと雄飛とは悪友のように連んできたから、無意識に真面目にすることが恥ずかしいことのように思っていたけど、そろそろそういう時期も終わりなのかもな。


まあ、雄飛と一緒に送れる学校生活も高校生のあいだだけだろうし、この真面目に頑張ろうとしている雄飛に、付き合ってやるか。と、自分の中に抱く心に変化した、そんな1日だった。


30. 春川絢斗の、心の変化 おわり


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