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2年Sクラス、首席は俺のはずなのに……。


1年の頃からやけに目立っていた春川 絢斗が、俺は入学当初から気に入らなかった。

首席は俺のはずなのに、それ以上に目立っている。まあ容姿が良いから納得する部分もあるが、それでもやはり気に食わない。

当時の生徒会長と知り合いだったようで、春川が生徒会入りした時は、自分よりもこいつが先に生徒会入りするのかと少し不満に思っていた。

毎年首席の生徒が生徒会長をやっていたとチラッと耳にして、ならば自分も、と一応身構えていたというのに、まさかの生徒会から声すらかからない。

べつに生徒会に入りたかったわけではないが、なんだか俺の存在を無視されたようで内心密かにショックだった。

しかもCクラスの宇野まで生徒会入りなんて。

…いや、当時はEクラスだったな。

周囲は皆驚いていたけど、当時の生徒会長には誰も逆らうことは無かったし、まあ宇野に関してはこの見た目に反して意外と真面目に勉強してるらしくEクラスからCクラスへ成績を上げたことは素直にすごいと思う。

しかし春川、こいつはダメだ。

生徒会室でAVを見ているなんて噂を聞いた時には反吐が出そうになった。いつもチャラチャラしていて遊んでるイメージしかない。目障りだからさっさと成績を落として別のクラスへ行ってほしいのに、2年もSクラスの上に上位成績だから余計に腹が立つ。

首席は俺のはずなのに…

春川の存在感があまりに大きすぎなのだ。


『お前たちみたいなふざけた奴らが生徒会とかやめてくれ!』


勢いあまって春川と宇野に向かって叫んだ台詞に、どう返されるだろうという恐怖はあったが、それでも我慢できなかった。

今までの鬱憤を晴らすように口から出てくる言葉に、歯止めが効かなくなる。けれど俺の叫びなんて、春川からしたらどうってこと無いように返された。


『目障りだからさっさとやめてくれ。』


そう言った俺の言葉に対しても、春川は『じゃあ俺の代わり頼んだ〜』と言いながらあっさりした態度で立ち去った。


二人が教室を出ていったあと、「お前どうすんの?あんなこと言って…」とクラスメイトから憐れむような眼差しが突き刺さる。

自分でも想定していなかった事態に、俺はただただ動揺を悟られないように、ずっと黙り込んでいた。


その日から三日ほど経ち、結局春川はあんなこと言ったものの何も状況は変わらず口だけか?と俺は自分の調子を取り戻していた頃、ふらりとSクラスの教室に現れた宇野により、事態は急展開を迎えることとなる。


ゆったりした足取りで宇野がやって来たのは俺の席の目の前だった。ポケットに両手を突っ込みながら見下ろされるのは正直恐怖だ。

チラリと見上げると目が合うかと思いきや、宇野の視線は春川に向けられている。


「おい絢斗!お前あれで生徒会辞めたつもりかよ。」


突然宇野が春川に向かって教室でそう叫び、周囲の生徒がびくりと身体を震わせた。


「は?」とうざったそうに歪められた春川の表情に、教室内には不穏な空気が流れる。…というか、俺の目の前でそんなやり取りするのやめてくれ…。


「いい加減すぎんだろ、辞めるにしてもちゃんとけじめってもん必要だろーが。まだこいつが正式に生徒会入ったわけでもねえのに。」


宇野はそう言いながら俺を指差している。

…え、やばい、俺もしかしてすごく面倒なことに足を突っ込んでしまったのかもしれない。


「は?雄飛キモ、なに真面目なこと言ってんの?そいつが生徒会辞めろっつーから辞めたんだろうが。あとのことはそいつにやらせりゃいいだけだろ。」


いや、言いましたよ。確かに俺は春川にそんなことを言ったけれども。それでこんな展開になるとは思わなかった。安易に口出しした自分に後悔する。

しかしここで、宇野の発言により更なる展開を迎える。


「絢斗がいるから俺は生徒会長やってんのに、お前が辞めるなら俺だって生徒会長やる必要ねえだろ。こいつがやれば丸く収まるし。」


えっ…!?

いやいや、どういうつもりだ?
なに言ってるんだこの人は…?

まさかの宇野の発言に冷や汗が出る。
今更俺が生徒会長…?そんなの無理だ。


「なんだよ、ならもう解決じゃん?」

「でも俺はもう生徒会長やるって腹括って、頑張るって決めたんだよ。簡単にそれ辞められるわけねえだろ!」

「は?なにが言いたいんだよ、意味不明だし。バカな雄飛くん、言語力もうちょっと身に付けてから話してくれる?」


おちょくるように春川が宇野にそう言った時、ようやく宇野は俺の目の前から去り、春川の方へふらりと移動した。

春川の目の前まで移動した宇野は、ガシッと春川の胸倉を掴んだ。


「バカバカってうるせーな!!」


宇野の逆鱗に触れてしまったのか、宇野は怒りを露わにして春川に向かって怒鳴りつけた。その迫力に怯えて、近くに居た生徒たちがサッと距離を置くように移動する。

しかし直接面と向かって叫ばれた本人春川はちっとも怯える様子は無く、無表情で宇野を見上げる。


「バカだって自覚してっから努力してんだろうが!お前みたいに賢くねえけど俺は俺なりに考えてやってんだよ!」

「おい、なに熱くなってんだよ。」

「絢斗がいい加減なことばっかやってっからだろ!」

「いい加減?なにが?」

「そんくらいその賢い頭で考えろよ!」


宇野は春川の胸倉をドン、と殴るように乱暴に離し、トントン、と自分のこめかみを人差し指で突きながらそう怒鳴る。まるで『バカ』と言われた仕返しのように聞こえる台詞だ。


「俺は確かにバカだけど、お前のやってることがいい加減だってことくらいわかる。いくら賢くてもな、そういうのがわかんねえようじゃ生きてる上で賢い意味なんてねえぞ!!」

「はぁ?まじうぜえんだけど。雄飛のくせにどの口が説教じみたこと言ってんの?」

「人を見下すのも大概にしろよ?生徒会長として言ってんだよ!それが嫌なら俺から生徒会長の座くらい奪い取ってみろや!」


…すごい、この人。その迫力もすごいけど、ヤンキーだとかバカだと言われながらも春川に向かって言ってることに素直に俺は感心した。


「ただし俺は、Sクラス首席のこいつにのみ、生徒会長の座を譲る。中途半端なお前には頼まれたって譲んねえからな!」

「…は?言ってることめちゃくちゃだろ。つか誰もそんなん譲られたくねえし。」


宇野の勢いに押された春川が、ぽつりとぼやくように呟く。

いつも仲良く連んでいたはずの二人の激しい言い合いに、いつのまにか廊下には野次馬が集まっている。

そんなたくさんの生徒たちが見ている中で、宇野は春川に向けて言い放った。


「とにかく絢斗の勝手な言い分で生徒会辞めましたーっつうのは認めらんねえからな。文句言われたくなかったらお前のその賢い頭で必死に勉強してテストの点でてっぺん取るなりしてみせろ!そしたらお前に生徒会長の座譲ってやるからそのあとはお前の好きにしろ!」


物凄い剣幕でそう捲し立てた後、近くにあった机を邪魔そうに蹴って退かしながら、宇野は教室を出て行った。

………ヤンキーまじこわ。


宇野が出て行ったあとの静まり返った教室で、春川は何を思っているのか、無表情のまま暫くその場から動くことは無かった。


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