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テストが終わったあとなにも食べずに待ち合わせ場所に来てくれたようで、お腹が減ったと項垂れていたから、適当に近くにあった牛丼屋に入った。
ガツガツと勢い良く牛丼を食べる育ち盛りな男子高校生だ。こいつは多分、まだ身長が伸びるだろうな。ひょっとしたらるいの身長も超えちゃうかも。
数百円の牛丼代くらい奢ってやろうと思ったが、りとくんが何も言わずに俺の分まで払ってくれた。
レアすぎて会計してもらってるりとくんの姿を写真撮っちゃった。
なぁ、まじちょっと言わせて?
この横顔、るいに激似なんですけど。
それから牛丼屋を出て、さあどうしようか?と少し歩く。夕飯時までまだまだ時間があるし、それに今牛丼食ったところだからしばらくは腹のなかには何も入れる気がしない。
「りとくんどっか行きたいとこある?」
「んー、ちょっと休めるとこがいい。」
腹も膨れたところで今度は眠くなってきたのか、りとくんは目を擦りながら大欠伸をした。
「ずっと勉強してたからまじ眠い…。」
そう言いながらりとくんは、俺の肩に腕を回してだらりともたれ掛かってくる。
「こらこら重い重い!」
イケメンDKが俺の肩に引っ付いてくるもんだから、やたらと周囲からの視線を感じる。ただでさえ目立つ容姿の男を連れて歩くのはるいで慣れているけれど。
「あ、カラオケ入ろ〜。」
「え?りとくん歌うの?」
「ううん、歌わな〜い。」
歌わんのに入るんかい!!!
へらへらした笑みを浮かべて、俺をカラオケ店へと促すりとくん。
カラオケ店の受付のお姉さんは、りとくんの顔を見た瞬間、ぽっと頬が赤くなった。うんうん知ってる、この反応。るいで何度も見たことがある光景だ。
さすが兄弟だな。と思いきや、「お時間どうなされますか?」という受付のお姉さんの問いかけに対しりとくんは答えようとせず…
「りとくんどうすんの?フリータイムでいい?」
「うん。」
「じゃ、フリータイムで。」
「かしこまりました。」
俺に店員さんと話させるあたり、さすが次男だ。ってか俺も次男だけど。
それから俺とりとくんは、ドリンクバーでジュースを入れ、指定された部屋へと向かう。
二人にしては少し広めの室内には、L字型のソファーにテーブル。ジュースをテーブルの上に置き、暗い室内を明るくするために電気を点けた。
しかし後から部屋に入ってきたりとくんが、点けたばかりの電気をパチッと消してしまった。
「は?なに消してんの。」
「眩しいからなんとなく。」
「りとくんじゃあさっそく一曲歌っちゃいな。」
「やだ。航歌って。」
部屋の隅に立ててあったマイクを手に取り、りとくんに差し出すが、マイクを受け取ってはもらえず歌う気のないりとくんは、ソファーにごろりと横になった。
「しょうがねえなぁ。」
じゃあせっかく来たんだからなんか歌おう。と、マイクと並べて置いてあったタッチパネルも手に取り、寝転ぶりとくんの隣の少し空いた空間に腰掛けて曲を選択した。
りとくんはその隣で、ニコニコと機嫌良さそうに笑っている。ニタニタ、じゃない。ニコニコ、だ。
「兄貴ともカラオケとか行くの?」
「あー、何回か行ったことはあるくらい。りとくん知ってる?るいめっちゃ歌うのうまいぞ?」
「へぇ、知らねー。兄貴が歌ってるとことか想像できねえし。」
「まじ?鼻歌とか結構歌ってるけどなぁ。あっ始まった。」
室内には俺が選択した曲が流れ始め、りとくんとの会話はそこで終わる。
ニコニコ笑っているりとくんからすげー視線感じるな、と歌を歌いながらチラリと横目でりとくんを見ると、りとくんは俺の方へスマホを向けているではないか。
「あっバカ!お前動画撮ってんだろ!!!」
「うへへ。」
「絶対消せよ!るいにバレたらぶん殴られるぞ!」
「大丈夫大丈夫、バレねーもん。」
そもそも二人でカラオケ店入ってる時点でやばいのに、そんな証拠を残すなんてもってのほかだ。……って思ったけど、そういや俺もさっき牛丼屋でりとくんの写真撮っちゃったんだった…。
まあバレたらバレたでクソ謝るけど。
弟と仲を深めるのは別に悪いことではないはずだ。
ただ問題はりとくんが俺に好意を抱いてるってことなんだよなぁ…。と複雑な思いでりとくんの顔を見つめていると、俺の視線に気付いたりとくんはスッと真面目な表情に変わり、ジッと目を見つめ返されながら口を開いた。
「絶対大丈夫だから。今日のことは俺のわがままで、航が仕方なく俺に付き合ってくれてるだけだから。俺は航の友達で、ただ一緒に飯食いに行くってだけだから。」
なんだよ、その良い子発言…。
まじ調子狂う…。
「…じゃあ、うん…ありがと。そういうことにさせてもらう。バレたらバレたで一緒にるいに土下座しような。」
「それはやだ。」
…あ、そう…。うん、まぁそうですよね。
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