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あたし、一宮 彩花は、幼少期からの友人であり、初恋の相手でもある友岡 航に告白して振られても尚、諦められない未練タラタラな面倒臭い女だ。
隠し続けていた恋心を彼に告白したのは、出会ってから10年ほど経った頃。もちろん彼氏はいたことないし、航くん以外の人とは付き合いたいとも思わない。
告白されたことは何度もある。可愛いと言われたことも。それが、自分に自信を与えてくれた。
私はその自信と、さらに女子の中では一番彼と仲が良いであろう自信もあり、いつでも告白する準備はできていた。あとはタイミング。あわよくば航くんから告白してほしいな、なんて思ってみたり。
けれど航くんには“恋愛”という言葉が頭にないくらい日々男子たちと活発に動き回り、時には先生や大人に怒られながら楽しそうに過ごしている。
小学生、それから中学時代、告白しようと思えばいつでもできたけど、あたしは結局告白はしなかった。だってあたしと航くんはこの先ずーっと仲良しのまま、高校、大学と大人になってゆく。告白するのはまだ先でも大丈夫だって、油断してたんだ。
今思えば後悔だらけ。もっと早く告白してたら、なにかが変わってたかもしれないのに…
「彩花さぁ、そろそろ初恋の人は諦めて彼氏つくっちゃいなー?振られたんでしょ?さすがに引きずり過ぎでしょ。」
高校から同じ大学に進学した友人が、憐れむような目であたしを見る。そんな友人の視線にあたしは少しムッとしながら友人を見返した。簡単に諦められたら苦労はしない。長年抱いてきた恋心を、そんなすぐには消せないのだ。
「湯浅とかどうよ?彩花仲良いじゃん。あの人彩花のこと好きだと思うんだけど。優しいし悪くないんじゃない?」
「まひろんは友達だよ。付き合うとか考えらんない。」
「じゃあ誰ならいいの?てか彩花の好みってどんなタイプ?良い人いたら紹介してあげる。」
「別に紹介とかそういうの要らないし。あたしは航くんがいいの。」
ツンとした態度で友人にそう返事する。
航くんの前ではいつも可愛い自分で居たかった。けれど、友人の前では全然可愛くなんてない、あたしはワガママで性格の悪い女だ。
小、中学生の頃なんかはそれでよく女子からは陰口言われていたっけ。男の前ではぶりっ子だとか。だって航くんには、いつだって可愛く見られたかったの。
「じゃあもっかい告って振られてきな。うじうじ未練タラタラな彩花見てるのも鬱陶しいんだよね。てかどこ大の人?一緒に行こうよ。一回そのわたるくん?っての見てみたいわ。」
「見なくていい。見たら絶対なおちゃんも航くんに惚れちゃう。」
「あーないない。心配しなくてもあたしものすんごいメンクイなんでー。」
あたしの友人、なおちゃんは、そう言ってあたしの好きな人、航くんをバカにするように笑っている。見たら絶対かっこいいって言うに決まってるのに…なおちゃんは航くんを知らないから。
その後、なおちゃんに航くんが通う大学名を言えば、少し驚いていた。自分たちよりも偏差値の高い学校だったから。
「あれ?前に彩花、バカでやんちゃでよく先生に怒られてたんだけどそこも好きって言ってなかった?普通に頭良いじゃん。」
「…前会った時、高校で勉強頑張ったって言ってたから。あーあ、航くんと同じ高校が良かったなぁ。」
「男子校でしょ?」
「うん、そうだよ。」
それがあたしの一番の救い。
彼女は居ないって言ってた。
でも、じゃあ、あの時、航くんが言ってたことってどういう意味?あたしは何度も、その時のことを思い返す。
『…俺好きな人いる。』
『……その、初恋の人?』
『うん。』
『…初恋は実らないって言うよ?』
『えー、実るよ。初恋でも。』
『でもまだ付き合ってないんでしょ?航くんさっき彼女いないって言ってたよね。…初恋は実らないよ。』
『これが実ってんだよねぇ。…驚くことに、物凄く。』
あの日の航くんとの会話を思い返す度にモヤモヤする。あの会話の所為で、あたしは今も航くんのことが気になって気になって、忘れられない。
『彩花ちゃんすげえ可愛いし、きっと俺が今にも現抜かさないかって不安だろうなぁ。』
『……え?』
『俺もさ、その人不安にさせたくないし。だからごめんな、彩花ちゃん。俺、今日はもう帰るな。』
あの日航くんは、あたしにそう言って背を向けた。
彼女は居ないって言ってた。
なのに初恋が実ってるって、どういうこと?
ねえ、航くん…
あなたは一体、どんな人に恋してるの?
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